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第1章(娘視点)

 私には父がいない。私が物心つくころには既に父はいなかった。一度だけ、母に父のことを私は尋ねたことがある。それまで私には泣くところを見せた覚えがない母が、父は亡くなったとだけしか言えずに涙ぐんで黙ってしまったので、それ以上のことは私には聞けず、それから後も私は母に直接は聞けなかった。


 私の母方の祖母に私が大きくなってから聞いた話だと、私の母はかつてモデルで歌手だったらしい。中学生の時にモデルとしてスカウトされて歌手にもなってヒット曲を数曲出して、美少女アイドルとして順調な道を歩みかけていた際に、スキャンダルに見舞われたとのことだ。別居していた父(私から言えば母方の祖父)が生活保護を受けていることを週刊誌が暴露し、ネットで袋叩きにあったのだ。アイドルの収入があるのだから生活保護を受けている父を養え、とネットで叩かれたが、母にしてみればとんでもないことだった。酒を飲んでは母(私から言えば母方の祖母)に父は暴力を振るうので、命からがら自分と母と妹は父の下から逃げ出して、母が家庭裁判所に駆け込むことで両親はやっと離婚したのだ。3人暮らしの中で貧困に苦しむ母を見かねて、自分がモデルに応募して、やっと3人での暮らしが楽になったのに、父の面倒を見るなんてとんでもない、と自分は思っているところに周囲からのパッシングに遭ってしまった。父の面倒を見ないなんて人道にもとるとネットでは袋叩き。プロダクションが母の家庭の事情を記者会見で発表して、事態の収拾を図ったのだが、私の祖父はマスコミの取材で自分に都合のいいことを報酬目当てで話しまくり、ネットがそれを更に増幅して更に母は叩かれてしまうの悪循環になってしまった。その頃に、母と父は知り合ったらしい。パッシングの嵐に苦しむ母を父は支えてくれたが、15歳の母には余りにも辛い体験だった。母は16歳になったら、父と結婚しようとまで思っていたらしいが、その直前に父は事故で死んでしまった。そのことで母の心は完全に折れてしまい自殺まで考えたが、私を身ごもっていることが分かったことから、更なるスキャンダルを怖れて、母は芸能界から完全に引退して、身を隠したとのことだった。今では、母子2人で私と母はひっそりと暮らしている。幸いなことに母のアイドル時代の貯蓄や著作権料等で2人で暮らす分には支障はない(ちなみに母方の祖父は私が生まれた後、しばらくして亡くなった。余程、母は祖父のことを怒っていたのだろう、母はこれで清々したとまで祖母に言ったらしい。)。


 そして、私は中学に入ってしばらくして、ある芸能プロダクションにスカウトされた。そこには、私と同級生や少し上くらいのアイドルの卵が何人もいて、私はそのうちの1人の先輩の男性が好きになった。会ってすぐの一目ぼれだった。私の所属している芸能プロダクションの目をかすめての交際を彼と始めた。私は本気で好きになり、母に紹介しようとまで思うようになった。彼は15歳、お互いに気が早いとは思ったが、一応、母に彼を紹介したかった。


 母は彼の顔を見た瞬間に動揺した。更に、本名を確認すると、私に交際を止めるように言った。芸能界でスキャンダルは良くないという。確かにその通りだけど、母が反対するのには何か別の理由があるような気が私にはする。一体、彼に何があるのだろうか。

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