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第77話 検定

 バルゼイさんとケビンの戦いは、辛うじてケビンの勝利となった。

 もちろん『なんでもあり』のルールになればケビンの圧勝だったのだろうけど、武器のみ、正面から、一対一という条件ではやはりバルゼイさんの経験が物を言って、いい勝負をされてしまった。

 アルマもケビンの強さを目の当たりにして、相応の敬意を表している。

 そして最後にわたしの強さをアルマたちに知らしめるために、、ケビンと手合わせする事になったんだけど。


「いいか、絶対手加減しろよ! 殺す気で来るなよ!?」

「安心する。ちゃんと蘇生の術式は手に入れてる」

()る気満々じゃねぇか!」


 もちろん冗談である。今のところ蘇生の術式はあっても使用ができないのだから、無いも同然。

 ケビンの死は今後の計画に支障が出るから、手加減はする。


「そんなにか?」

「人外ってぇ表現が正にピッタリくるんだよ。俺なんか足元にも及ばねぇぞ」


 わたしの力を見たことの無いアルマとバルゼイさんは、未だ半信半疑だ。

 審判を引き受けたバルゼイさんなどは、特にそうだ。ケビンと長く打ち合い、その強さを思い知っているのだから。


「と、とにかく始めるぞ。ケビン対エイル、はじ――」

「うぉらぁぁぁぁぁぁ!」


 始めの合図が掛かる前にケビンが切り込んでくる。

 もちろんわたしも、そういう手があることは重々承知だ。モンスターとの戦闘に始めの合図なんて無いというのは、先にケビンが言った通り。

 わたしたちは、お互いにクト・ド・ブレシェを持ち、五メートルほどの距離を取って相対していた。

 今のケビンの身体能力なら、ほんの一瞬で無にできる距離。

 だから、わたしは落ち着き払って左手を突き出した。


 軽く一歩。


 それだけで飛び込んできたケビンの間合いの内側に入り込み、竜化した左腕がケビンの顔面にめり込む。

 ケビンは水平に、面白いように回転しながら吹っ飛んでいった。

 その後、水平飛行から少しばかり乱暴な着陸を終え、半ば地面にめり込んだケビンの足がぴくぴくと震えていた。


「ま、まじか……」


 あまりに一方的な一瞬の決着に、バルゼイさんは思わず素に戻った言葉を漏らす。

 アルマに至っては言葉もなく顎を落としている。


「あいむ、うぃなー」


 バルゼイさんが茫然自失で勝ち名乗りを上げてくれないので、自分で宣言しておく。

 リムルが溜息つきながらケビンの元に歩み寄り、快癒を使用している。そこまで酷く殴ってないのに。


「な、なんだ、この……問答無用感は」

「これがエイルの戦い方なんだよ。生半可な相手では技とか駆け引きが通用しない、ひらすらに身体能力によるゴリ押し」

「じ、じゃあひょっとして、今までの災獣討伐って……?」

「ボクらが表立って目立ちたくなかったから、ケビンに押し付けてた。まぁ、ケビンも今ではグランドヘッジホッグくらいなら楽勝で狩れるだろうけど」


 クト・ド・ブレシェがあるケビンなら、あの程度なら楽勝だろう。

 毛針を薙ぎ払ってから、一気に頭を潰せばいい。それが出来るだけの速さと力と武器を手に入れている。


「災獣を倒せるレベルの戦士を瞬殺って……」

「エイルはケビン以上に修羅場をくぐってるからね。そりゃ敵わない」

「俺、こんな奴らと一緒に行くのか?」

「怖気づいたかい?」

「いや、うん……その、頑張るわ」


 盛大に冷や汗を流しながら答えるアルマ。大丈夫だよ、君は出会った頃のケビンより充分に強いから。


「頑張って鍛えてあげるね」

「お、お手柔らかに」


 失礼なことに、なんだか泣きそうな顔のアルマが、そこにいた。



 わたしたちの家は二階建てで地下室もあり。そこそこ大きいために部屋数もそれなりに完備されている。

 一階にはリビングとダイニング。キッチン、バス、トイレ付き。書斎はリムルの部屋になっている。

 書斎の向かいはわたしの部屋だけど、ここはほとんど使用されていない。リムルの部屋に入り浸ってるからね。


 二階は四部屋存在して、ケビンやアミーさんが泊まる時はここを利用させている。

 今日はさすがに人数が多いので、アミーとセーレさんと小さなイーグが同室となった。

 これは暗殺者の存在を恐れて、戦力を集中させた結果だ。多少窮屈な思いをするかも知れないが、勘弁してもらおう。


 幸い襲撃などは起きず、翌朝になった。

 そのタイミングでイーグが破戒神が町に戻ってきたことを告げてきた。


「じゃあ、朝食が終わったら、ボクとエイルで報告に行って来るよ。イーグはアミーさんに探査の魔術を教えてあげてね」

「がってん、ボス」

「知られていない魔術の宝庫なのよね、この家……」


 何せイーグの知識とわたしの異空庫で、破戒神の魔術の大半を網羅している。

 そこには世間に知られていない魔術なども多々含まれていて、護衛を行う上で覚えておきたい物も多い。

 リムルは人数分の朝食を手早く用意しつつ、今日の予定を組み上げる。


 できれば明日……いや、今日中にでも世界樹のあるベリトへ旅立ちたい。

 ベリトまでは徒歩だと二週間ほどだが、現在のわたしたちは転移門を利用できるパスを持っている。

 ラウムの転移門は町の中央、貴族街のそばにあるので、すぐにでも出立できる。


 だがその前に、協力関係にある破戒神に連絡を入れておかねばなるまい。

 おそらく反対はされるだろうけど、勝手な行動を取って、余計な恨みは買いたく無いのだ。相手は神様だし。



 いつものカフェで破戒神と待ち合わせる。

 事情を聞いた彼女は、凄く()()()()で言葉を発した。


「ダ・メ・だ・よ♪」


 笑っているのに、脂汗が滲み出るような、そんな笑顔で破戒神は一刀両断する。


「対策も立って無いと言うのに世界樹に登るとか、死にたいんですか、キミたちは!」

「いや、でも……二か月以内に術を使用しないと、間に合わないんです」


 テーブルを叩いて怒りを表す破戒神に、必死にリムルが抗弁する。彼女のコメカミに血管が浮き出てるのが見て取れ、怒りの深さが理解できる。

 肌が白いから、こういうのが露骨に判るんだよね。


「間に合わないのはわかるけど、それでも今の段階だと無駄死にだと言ってるんです。せめてわたしが戻ってくるまで待ってください」

「何か進展があったんですか?」


 ぷんすか! という擬音まで聞こえてきそうな様相で怒る破戒神。

 両手でパンパンテーブルを叩くその姿は、イマイチ畏怖と言うものを感じさせない。それでも怒っていることだけは理解できた。

 だがその言葉に一縷(いちる)の希望を見出した。『戻ってくるまで』ということは、戻ってくれば何らかの見通しが立つということなのだろうか?


「ええ、バハムートが北の蛮地で目撃されたと言う情報が手に入りました。正確な場所はわかりませんが、今までと違ってかなり確度の高い情報です」

「それじゃあ!」

「往復で二か月は軽く掛かりますけど」

「ダメじゃん!?」


 思わずリムルが頭を抱える。

 往復で二か月、そこから世界樹に登って集魂機構(ヴィゾフニール)を破壊するとなると、更に倍、下手すれば半年は掛かる。

 それでは到底、エリーの立太子の宴まで間に合わない。


「それでもこの数百年停滞してたんだから、格段の進歩なんですよ? ひょっとしてあなたたちは、そういう『なにか』を持ってるのかもしれませんね」

「でも、それじゃ……」


 言い澱むわたしたちの逡巡を、破戒神は正確に汲み取ってくれる。


「確かにこの国の状況というのは、なかなかに酷いです。そのエリーという皇女が即位すれば改善されるのなら、協力するのも(やぶさ)かではありません」

「だから――」

「だからといって、可愛い子孫が無駄死にするのを見たいわけではないのですよ?」


 そうだ、わたしは破戒神の子孫で……おそらく最後の生き残りだ。

 あの村で生き残ったのは、わたし一人なのだから。

 でも、それでも――


「やだ。絶対行く。エリーはわたしの手で生き返らせてみせる」


 不退転の決意を込めて、破戒神に告げる。

 わたしの親友。助けられなかった友達。

 あの時アレフの足止めに引っかからなければ、彼女は今も生き延びていたはず。つまりは、わたしのミス。

 本来ならその後悔を一生背負って生きていかなければならないところを、リカバリーできる機会に恵まれているんだ。

 このチャンス、今度は絶対逃がしたりしない。


 そんなわたしの決意を察したのか、破戒神はほぅと溜息をつく。

 駄々っ子の我が侭を見るような、そんな顔で。


「仕方ありませんね」

「じゃあ、いいの?」

「良いわけがありません。条件を出すだけです」

「条件?」


 ピッと指を立てて、自慢げに宣言する。


「わたしと戦って、勝てば許可しましょう」

「無理」


 間髪入れず、却下する。

 相手は世界樹をへし折り、魔王を倒した破戒神。

 いくら人外の力を手に入れたとはいえ、わたし程度で勝てる相手ではない。

 そもそも、わたしの力の源泉たる魔竜ファブニールだって、彼女の前では一撃で倒されたとイーグに聞いているのだ。

 そんな相手に『勝てるか?』と問われれば、『無理』と答えるしかあるまい。


「じゃあ、許可しません」

「ケチ」

「ケチじゃないし!」


 ムキィとわたしのほっぺを引っ張りに掛かる破戒神。わたしも右手で破戒神のほっぺを引っ張り返す。

 破戒神の頬はむにむにで、とてもよく伸びた。わたしの頬をつつくアミーさんの気持ちが、少し理解できる。

 まるで姉妹喧嘩のような低レベルの争いを繰り広げていると、リムルが溜息を吐いた。


「つまり、いざとなったら集魂機構(ヴィゾフニール)の守護者から逃げ出せるか、実力を見てみたいということなんですよね?」

「ふぁ、ふぉんなふぉとふぇふ」

「理解できません。エイル手を離して」


 リムルに怒られたので、しぶしぶ手を放す。

 わたしが手を放すと同時に、破戒神もわたしの頬から手を離した。


「ま、そんなところです。そうですね。わたしに勝てとまでは言いませんが、それでもせめていい勝負くらいはしてもらわないと困ります」

「それだって、かなり無茶だけど」


 相手は多彩な魔術のスペシャリスト。その上、魔力付与の元になった身体強化の使い手でもある。

 その馬鹿げた魔力で強化された力は、わたしなんかよりはるかに高いに違いない。

 勝ち目は限りなくゼロに近く、良い勝負できるかだって怪しいところだ。


「その程度の戦闘力は発揮してもらわないと、守護者を倒すどころか、迷宮を登るのだって覚束(おぼつか)ないんですよ、あそこは」

「ぐぬぅ」

「今の高さが六百層程度ですから……難易度強化の分を加味すると、イフリートクラスが出てきてもおかしくありません」


 世界最大にして最難関の迷宮。

 イフリートはその中でも最上位に位置する炎の魔神だ。わたしの持つ、アグニブレイズの材料になったとも言われている。

 そんな迷宮を踏破するには、今のわたしでも力が足りない……でも、まだ破戒神には見せていない連装ドラゴンブレスなどの奥の手だってある。

 わたしを見くびっているのなら、勝ち目はあるかも知れない。


「わかった、やる」

「エイル!?」

「ほぅ、諦めませんでしたか」

「やらないと、エリーが困るもの」

「美しい友情ですが、それは早死にフラグです」


 いいように事を運ばれた気がする。

 それでも、エリーのために、破戒神に勝たないといけない。

 いいよ、やってあげようじゃないか!


次回、ヒドイン対決。

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