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第02話 買物

ちょっとだけTUEEE成分を。

 翌朝早く、わたしとご主人は旅装を調えるために買い出しに行くことになった。

 ただし、目立つ左手と右足には包帯を巻きつけ、左目を隠す為に顔の半分も包帯で覆った姿で。

 なんだか出歩くのが不自然なくらい重傷患者っぽいけど、こうでもしないとわたしの異形は隠せない。


「逆に、目立つ?」

「仕方ないだろ、人目に晒すわけにはいかないじゃないか。しまったな、これならもっと普通の奴隷にすれば良かったか……」

「……むぅ」


 ご主人、その意見は流石に傷付く。


「後は角を隠す為にリボンをつけて、翼はできるだけ小さくして服の中にしまっておこう」


 言われた通り、三十センチメートル程度まで小さくした翼の上から服を着る。

 ちなみに飛ぶ時は、二メートル以上まで大きくなるっぽい。

 こうして変装したわたしは、見た目大怪我をした少女っぽく見える程度には、普通になった。

 唯一、奴隷契約の首輪を除いて。

 大型犬用の首輪にも似たそれは、包帯などで隠すにはあまりにもゴツイ。

 冬場ならマフラーなどで隠すこともできただろうけど、今の季節は秋。流石に少し早い気もする。

 いや、でもおシャレに飾れば可能かな?


「まあ、これで戦災奴隷を引き取った程度の誤魔化しは効きそう……かな?」


 流石に翼の入った背中がごわごわなので、マントは手放せないけど。




 大通りを歩くと目立つので、やや込み入った小道を辿って服飾店へ向かう。

 だいぶ慣れたとは言え、わたしの手足のアンバランスさでは滑らかに歩けない。それがいい意味で変装の真実味を増していた。


「なんかカクカクした歩き方だな?」

「この身体になって、まだ慣れて無いから」

「『この身体』って……前は違ったのか?」

「マレバ山の噴火は知ってます?」

「南の都市国家連合の辺境にある山か。確かひと月前に噴火したとか」


 ひと月……ここまで移動に三週間掛かってるから、わたしは一週間以上も生き埋めになってたんだ。


「わたしはその噴火に巻き込まれた。この手足はその時に――」


 どう説明しよう?

 まさか正直に『竜の死体を見つけて血肉を食ったから』と言って、信用されるかな?

 ……まあ、されなくてもいいか。


「竜の死体を見つけて、その血肉で飢えを凌いでたら、こうなった」

「嘘こけ」

「本当。でも、信じてくれなくてもいい」

「ふぅん……じゃあ、ギフトが生えたのも、その時なのかもな」


 というか、それ以外に思いつかない。

 道中は暇なので、なんとなくご主人との会話が弾む。


「家族は?」

「父がいた。でも顔も思い出せない。過去の記憶があやふや」

「衝撃が大きすぎて、ってわけでも無いか。大量に摂取した『竜の血』が脳にも回って思考が変化したのか……」

「あの惨状だから、多分死んでる」

「……悲しみが薄くなったのは、不幸中の幸いか」


 何か、ご主人のわたしを見る眼に、同情が混じってる。

 何か共感を得るシンパシーでもあるのだろうか?


「リムル様は?」

「ん? 両親は冒険者上がりでね。トロールに襲われた街を護る部隊に配属されて、張り切ってたら後ろに回りこまれてズドン」

「悲しい?」

「当時はね。今は……まあ、それなりに折り合いはつけてる。でも、二人とも死んじゃったおかげでボクの修行が途中のままになっちゃって……」


 家族の残した技術を継承する。

 両親を失い天涯孤独になったことで、それがご主人の存在意義になったのかもしれない。

 だから、嫌いな奴隷売買に手を出してまで、ラウムの学園で学ぼうとするのだろう。


 ご主人は不安定な歩き方をするわたしの手を引いてくれる。

 本来、奴隷に手を触れるというのは汚物に触れるのと同義と取る人までいるのに。

 だから、平気でわたしに触れる彼が、奴隷売買を嫌っていたのは本当なのだろう。


 怪我をした少女の手を引く、見目良い少年。

 それが外から見れば微笑ましく映るのは当然だろう。だから――


「ようガキ共! なんだか人生楽しそうだなぁ? 俺たちにもその幸せ分けてくれよ」

「俺たち貧乏で不幸なんだよ。だからよぅ、金貸してくれよ」

「出来りゃ、その女も恵んでくれていいんだぜぇ? ひぇへへへへ」

「おい、女はよく見りゃ奴隷じゃん? ならそいつで遊んでも罰は当ンねぇよなぁ」


 こんな連中に絡まれるのも、予定調和なのかもしれない。

 四人組、しかも全員武装済みの……おそらくは冒険者崩れ。無作為に冒険者希望が流入する街だけあって、ゴロツキの数も相応なのかも。

 ……ところでご主人。


「なぜわたしの後ろに隠れるんです、リムル様」

「ボクは接近戦が苦手だって言っただろ」

「わたしとしては、新しいご主人様のカッコイイところを見せてもらいたかった」

「できないことはしない主義なんだ」


 ラウムまで旅をするという、できないことに挑戦しようとしてるのはどこの誰よ?


 ゴロツキたちはわたしの肩に手を掛け、押し退けようとする。

 お金を持っているのはご主人なので、彼に直接迫るつもりなのだろう。

 肩に掛かったゴロツキの手が、奴隷商の『教育』をフラッシュバックさせ、不快感に思わず払いのけてしまう。


 ゴキャッ!


 鈍い音を立てて、ゴロツキの腕の曲がってはいけない場所がくの字に曲がる。

 ()()で軽く払いのけただけで、鉄製の腕甲(ガントレット)ごと腕をへし折っていた。


「あ、あぁ? あああぎゃぁああぁぁぁぁっ!」

「てめぇ!?」

「やる気か、このガキ!」


 一瞬の呆けた表情から、往来に響き渡る絶叫。

 突然の攻撃に、とっさに武器を引き抜こうとする反応は、やはり腐っても冒険者。

 でも今のわたしはそれで躊躇したりしない。


 ――()られる前に、()れ。


 その教訓を心に刻み込んだのだから。

 ゴロツキが剣を抜き切る前に、右足が地面を蹴りつけ、その反動で右膝を顔面に突き立てる。

 グシュりと骨ごと肉の砕ける感触。これで都合二人目。


 着地と同時に隣の男へ右拳を叩き込むが、これはたいしたダメージを与えられなかった。


 ――やはり、変化した手足じゃないと、力が足りない。


 右腕を引いた反動を使って、クルリと身体を回転させ、軽く跳ねながら後ろ回し蹴りを叩き込んで三人目も撃沈。

 ここでようやく最後の一人が剣を引き抜き終える。

 わたしは左腕をその刀身に叩きつけて――


 パリン、という澄んだ音と共に、剣が砕け散った。


「……まだ、やる?」

「あ、ば――バケモノ、め!」


 その一言で、欠片ほど残ってた慈悲の心は消えた。

 彼が次の行動を起こす前に右足が地面を蹴り、そのまま胸甲(ブレストプレート)を蹴り砕く。

 その勢いは止まらず、肋骨を数本纏めて砕いた所で、脚を下ろす。

 これで四人、戦闘終了。


「何が『戦ったことは無い』だ。すごい強いじゃないか」

「戦ったことは初めて。この手足の性能がすごい、だけ」


 流石にあの場所に留まるのは問題があるので、わたしたちは急いでその場を離れた。

 ゴロツキは、無事なものは1人もいないけど、死んだものもいない。その程度には手加減しておいた。

 圧倒的な身体能力。四対一にも(かか)わらず、冒険者達をまったく問題にしていない。

 剣すら抜かせず蹂躙する速さに、鋼を容易く砕く剛力。


「でも、左手と右足、だけ……」


 殴りつけた右手は、むしろ拳の方が怪我をしている。


「エイル、そっちの手を出せ。怪我、してるだろ」

「……ん」


 ご主人はわたしの右手を取り、治癒術をかけてくれる。


「掠り傷なのに」

「女の子の手が傷付いてるのを見て、気分がいいわけ無いだろ」

「そのわたしに、肉壁押し付けようとしてるのに?」

「適材適所であることが判明したね」


 このご主人は、とても屁理屈が上手い。


「さっさと服屋に行くぞ。さっきのでお前、すっごく目立ったからな」

「わたしのせいじゃない」

「それは絶対違うと思う」


 とにかく着替えなきゃいけない、という案には賛成だから、『違う』『違わない』と口論しながら、服屋への道を急ぐことにした。




 店では主にご主人主導の衣装選びが展開された。

 大きく背中の開いたホルターネックのシャツにプリーツのミニスカート。膝上まであるニーソックス。それと長手袋。

 頭にはキャスケット帽を被って大きく頭部を隠す。靴も頑丈なブーツを購入しておいた。

 これに丈の長いマントを羽織って翼を隠せば完成。


「でも、ミニスカートは動きが激しいと見えるから――」

「コレが似合ってる」

「旅にプリーツは実用性が――」

「コレが似合ってる」

「……………………」

「コレが似合ってる」

「……わかりました」


 まあ、わたしはしょせん奴隷ですしね。

 なんだか色々ミスマッチしてる組み合わせのような気もするけど、ご主人の趣味なら受け入れないと。


「これと似たような柄違いをいくつか。それと靴も予備はあった方がいいな」

「では、いくつか候補をご用意させていただきます」

「頼む、それと下着は白を主体に――」


 ええ、下着の色まで指定してきた。ショタなのに、とんだエロご主人でした。

 げんなりした表情でいると、別の店員さんが声を掛けてきた。


「あなた、大事にされてるわね」

「玩具にされている、の間違い」

「いいえ、大事にされているわよ。だって奴隷の服をここまで熱心に選ぶ主人なんてそう居ないわよ」

「……かも、しれない」




 次にやってきたのは装具屋。主に冒険者の装備を取り扱っている。


「とりあえず、どれくらいの剣が持てるか、確認してみよう」


 ご主人と店主の興が乗って、寄って(たか)って次から次へ剣を振らされた結果、右手用に短剣、左手用は両手用大剣を持つことになった。

 左手では、両手用大剣(グレートソード)でも小枝の様に振ることができたから。


「まさか、この剣を片手で振れる人材がいるとはねぇ……」

「彼女の腕については内密に」

「客のプライバシーを喋る趣味はねーよ。それにしても嬢ちゃん、まるで伝説の騎士みたいだぜ?」


 お伽噺の一つに、両手剣を片手で振り回す騎士のお話とか、よく聞いたっけ。店主もその話のことを言ってるのだと思う。


「でもわたし、剣技に関しては素人だから」

「安心しな。片手でその大剣を振れるってんだから、技を補って余りあるプレッシャー与えられるって」

「右手の非力さは、その短剣で補えよ? 素手で殴るとまた怪我するぞ」

「はい」


 両手剣に関しては、異空庫の中にとんでもないのが数本入ってるから、いざというときはそっちを使うことにしよう。

 次に鎧選びに入ったけど、こっちはかなり難航した。

 まず、わたし自身が滑らかに歩けないこと。体幹のバランスの悪さが、どれくらいの重さの鎧を着ければいいかを迷わせてしまった。

 結局、軽くて動きを妨げない胸甲(ブレストプレート)で手を打つことにする。


「これで一通りの装備はできたかな?」

「終わり?」

「……主人、左手用の腕甲も頼む」

「ああ、左腕で剣を受ける時の言い訳になるか」


 そう言って取り出したのは、虫の殻を利用したガントレット。

 まるで着けてないと思える程に軽い。


「迷宮にいる、ヒュージアントの殻を利用したガントレットだ。コイツなら嬢ちゃんでも使えるだろう」

「いくらになる?」

「本来なら金貨七枚。だけど面白いもんを見せてもらったから、五枚に負けてやるよ」

「おもしろい?」

「片手で大剣を振り回すなんざ、そう見れる芸じゃねぇよ。その代金だ」


 こうして、わたしは(見せ掛け用の)装備を整えることができた。


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