五-戦闘開始
ああ!馬車の御者がやられた。
賊は、馬車の馬は殺さず、綱を切って、馬車の動力源を無くした。
二人ほど、馬を追いかけていく。馬も捕まえるつもりでしょうか。
馬車の前後から 賊が乗り込む。
もう少しがんばれ、もう少しで僕の魔法の射程距離に届く。
魔法の射程距離は勘だが、誤射も怖い。
射程距離まで近づいて援護したほうが、確実だと判断して、必死に走る。
よし、ここからなら届く!
そう思った場所で 立ち竦んでしまった。
しかし、悲しいかな、僕は戦闘の素人だったろう。実戦経験は ないはず。
前の世界の微かになりつつある憶えだが、無いと思う。
つまり、今 僕は 戦場で棒立ちしている。
当然狙われる。
右側より、突然 衝撃 を受け、ひざを着く。
痺れがある、電撃系の魔術?
「ああっ?くたばってない?
この小僧やばいゾ。出し惜しみ無しで 殺れ」
かすむ意識の中で、そんな声が聞こえる。
左側より、 熱いモノ を感じる。
右側から、焼かれるような感覚が襲う。
少し遅れて、再び右側より、 閃光のようなモノ を 感じたような?
そこで、僕は、左側に ぶっ倒れた。
体は動かないが、意識は完全には手放さない。
目も見えれば、耳も聞こえる。
しかし、意識の混濁は避けられない。
朦朧としている僕の腹に、蹴りが入る。
「とりあえず、動けないようだな。殺しとくか?
う~ん。まだ、若いから売れそうだな。使いみちもあるか?
オイ、魔力封じの首輪しとけ。
それと念のため、魔力封じのグッズ全て付けろ」
「腕輪、足輪もですか?」
「そうだ、使い捨てグッズじゃねえんだ。指も あるだけ付けとけ。
後は、枷もな」
「慎重すぎやしませんか?」
「だから、死なねえで生き残れんだ。お前も覚えとけ」
僕に対して、魔力封じのグッズの効果のほどは判らない。
しかし、グッズの数を増やされるほど、反撃のチャンスは減るでしょう。
指示を受けた若い男が、僕の髪を掴み、顔を見る。
「かわいい顔してるじゃねえか?
くたばった仲間は、男色だったな。
ラッキーだったな、アイツ生きてたら 売られる前に 掘られていたぜ、オ・マ・エ」
幸運でした。
幸運は、もうひとつありました。
魔力封じグッズを 意識を手放さなかった事。
ほんの少しでも多く情報収集ができる。
さらに、幸運が!
若い男が指示を守らず、魔力封じグッズを 首と、両手だけにした事。
指輪も、足輪も有った様なのに!
腕輪され、さらに手枷に、轡を付けられて、引きずるように歩かされました。
襲われていた馬車のところまで 連れて来られた。
すでに戦闘は終わっていた。
多くの死体が 無造作に転がされていて、金目のものを剥ぎ取っている最中。
助けられなかった!
何の義理も無い人達でしたが、この世界で初めてあった人達が、もの言わぬのは残念である。
自分の欲のために、人を貶める、ましてや殺す連中を
僕は、
「人」
扱いしない。
略奪行為から推測して、盗賊 決定でしょう。
馬車に放り込まれた。
さらに目隠しと、足枷が増えた。完全に身動きが取れない。
心の中の 弱気の虫が、暴れだします。
(なるようになれ。一度は死んだ身。失うモノなんて何も無い。
亡くなった方はお気の毒だが、僕にとっては、何かの きっかけ?ミチ? かもしれない)
すぐに 気持ちを切り替えます。
無茶苦茶かつ、自分勝手な発想は承知ですが、
落ち込んで後悔しても得られるものは 無いでしょう。
残っている人を 助けられる可能性があるかもしれない。
前向きに コジツケられる所が、自分の長所だと、自負している。
しばらく、馬車に揺られた後、動きが止まった。停車した模様。
賊のアジト?にでも、着いたのでしょうか?
馬車の後ろの幕が開いたような感じがする。
そして、多分 賊が乗り込んできたようだ。
目隠しと、足枷だけ外されて、馬車から引きずり降ろされる。
これで、状況が目視できる。
今 気付いたが、拘束された同乗者は 女性二人だったようです。
母子? 姉妹?
どちらにも見えます。
年上の女性はは、アラサーくらい?
いや、もう少し若いか?
年下の子は、10代半ばに見受けられます。
二人とも、なかなかの美人さん。
ともに金髪で、スパニッシュを思わせる整った顔立ちの美女。
特に 姉?は、人形のように美しい。
でも何とか、せめて年下の子だけでも助けたいと、強く願う。
僕に続いて、二人の女性も 引きずり降ろされました。
彼女らは、轡を外され、
「お母さん、お母さん!」
「この子だけは、たっ助。うぐっ」
叫びあっている姿からして、母子で 間違いないようです。
ぐったりしていたから、息を吸わせるために轡を外したのでしょうか?
すぐに、轡が再び、二人に咬まされました。
ここは、森のどこか?
僕は 蔦で編んだ巨大な鳥かごのような物に入れられ、木から吊るされています。
彼女達は、抵抗を諦めたのか おとなしくしています。
賊どもが 相談を始めました。
「まず、あの小僧は、後まわしだ」
「「「へい」」」
僕を襲った魔術師が、盗賊の親分?
「女は、俺がまず味見する。具合次第でオメエ等に 渡す。ここで死ぬまで置いておくつもりだ。
意見は無えな?」
「「へい」」
「異存は ごぜいませんが、女を売らない理由は、なんぞ?」
「女のガキは 売る。ガキが逃げたり、自殺したりしない様にだ」
「おっおカシラ、もうひとつ教えてくだせぃ。この小僧に見せ、聞かせてる理由は?」
「おう、お前らに話そうと思っていた。
この小僧、能力えらく長けえ。
売るのがいいんだが、場合によっては、俺の手下にと 思ってな」
「危なくは、ないので」
「危ねえ、危ねえ。だからこそ手なずければ、役に立つ。解かったか」
「「「へい」」」
賊のカシラが、僕の方を向き 下衆な笑いで話しかける。
「おう、小僧。これから、いいもん見せてやる。興奮しすぎて漏らすんじゃねぞ。
手下になるんだったら、祝いにオメエにも、味わわせてやる。
お前ら、小僧から見えやすいように場所空けとけよ」
まさか、これから母親を陵辱するのだろうか?
子供の前で? しかも少女の目の前で?
怒りがこみ上げる。
頭に血が昇る。
ハラワタが、正に 煮えくり返る。
轡されているので、声は出ない。
幸いだったかも知れない。
声が出れば、きっと僕は真っ先に処分(殺されて)いるに違いないでしょう。
罵倒の限りを 尽くした だろうから。
幸いと思ったのは、自分が殺されなかったからでは ない。
今、母子を、
せめて女の子だけでも、助けられる可能性があるのは、僕だけだ。
判断を間違えれば、
余計なお節介で、
命だけは助かりそうな母子を 巻き込んで死なせてしまうかもしれない。
でも、黙ってみていることは できない!
これが、僕自身の 「矜持」
自分の命より、この瞬間は優先順位が高いんだ!
まず、冷静にならなければ。
冷たい人間になった自分をイメージする。あの 劇画の狙撃名人。
別に魔術を使おうと思ったわけじゃない。
逆にそう思ったら、魔力封じのグッズを気にして試すのを躊躇ったでしょう。
魔術は発動したようだ。
冷たい冷気みたいなものが、体に吸い込まれていく。
捕まってから密かに試した魔術は全て無効化されていて、絶望感に苛まれていました。
魔力の消費量が少ない術なのでしょうか?
明らかに冷静さが違う。体験の無い感覚です。
頭が冴える。
だが、目の前では 惨劇が始まっている。賊は待ってはくれない。
いつもなら、「落ち着け、落ち着け」と呪文のように口ずさでいる僕だが 今は違う。
冷たい目と、脳で、最善の策を考えてる 僕が居る。
女性は、下半身を露にされ、のしかかる賊のカシラに抵抗しています。
おへその辺りまで、見えている。
轡はされたまま。
子をタテに脅せば おとなしくなるだろうに、抵抗する様を楽しんでる。
下衆の極みだ。まさに反吐がでる。
女の子は、轡をされたまま泣き叫んでいます。
自分の視線の冷たさを自覚できる。
卑しい気持ちは皆無だが 少し自己嫌悪する。
あの女性は、この瞬間 何を どう願うでしょう。
きっと、自分の事より、娘の事が優先することを 願うでしょうか。
魔力封じグッズの 全てが外れるイメージをする。
変化は無い。さっきもやった。
そうだ!今度は、ひとつずつ。
魔力封じグッズの 首輪が外れるイメージをする。
変化は無い。
魔力封じグッズの 右の腕輪が外れるイメージをする。
またまた変化は無い。
魔力封じグッズの 左の腕輪が風化するイメージをする。
ほんの少し、変化があった。
右の腕輪は、傷物だったのかもしれません。
今の僕の頭は、非情なくらい冷静だ。
そういう魔術を自分に掛けている。
ゆっくり丁寧に、左の腕輪を無効化。
ばれないように、効果のみを無効にするイメージ。
ゆえに形状は維持。
慎重に丁寧に、全ての魔力封じグッズを 無効化の上、
効果が継続しているように 偽装することが出来たはず。
心の底から申し訳ないと思うが、1人の心身は救えなかった。
気狂いの祭典は、佳境を迎えている。
賊のカシラの、吐き気を催す 汚いケツが前後してる。
配下のヤツラが 囃たてる。賊のカシラが興奮の度合いを高める。
「「「それっ、それ! おっカシラ!ハッスル!ハッスル!GO!GO!」」」
声が揃ってやがる。
今すぐ全員殺したい。
「人」 だと、認定していないから 僕の心の中に躊躇なんて存在しない。




