1/3
0 プロローグ
ホラー色の在るファンタジーになります。偏りが多いと思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。
薄暗い寂れた喫茶店の中は、冷房が壊れているのかやけに蒸し暑かった。湿気が肌に纏わり付く様な暑さに、向かいに座る彼の手元にあるグラスは軽く汗をかいている。
「もし、」
そんなグラスとは対照的に、彼は涼しげな顔で先程の質問に答えた。
「俺達を消し去りたいなら」
彼の指が触れていたストローを揺らすと、グラスの中の氷達がカロンと軽やかな音を立てる。他に誰も居ない喫茶店の中で、その音は異様な程大きく響いた。先程までは煩い程蝉が鳴いていたのに、気づけばその音も消えている。硝子一枚隔てた向こうには多くの人が行きかっていると言うのに、誰もこちらに関心を寄せる事も無い。まるで、今この瞬間、この空間が何処からも切り離されているかの様に。
「生きてる人間全てを消せばいい」
彼の唇に登っているのは、笑み。暖かな微笑みとは掛け離れた、ぞっとする程妖艶な笑みだった。