予言
スキルリンクリサーチが号外を出してから1週間が過ぎた。
予想通り属性武器の注文が殺到し、マコトルはてんてこまいだった。
初日、二日目あたりまではまだなんとかなっていた。
属性鉱石を入手していなければ作れないので、トップのトップしかささっと手に入れて依頼するということができなかったからである。
属性武器の情報を知ったプレイヤー達が強行軍で26階層を突破し、鉱石を手に入れてから21階層のレンタル工房の人口密度が激増した。
強行軍で突破した者達は、自分がクリアした階層+5以上の街およびフィールドに行けるとは言え、最低限の安全マージンを考えると自力で27階層に到達する力は必要だと感じたのだろう。
工房には、注文しにくる者、情報の真偽を確かめにくる者、またそれらの行列から何かの特別イベントと勘違いした野次馬が殺到、炉を使っているのでただでさえ暑いのに人が隙間なく訪れたせいで汗が雲のようにもくもくと立ち込める状況と化していた。
―――――さながら旧コミケ会場―――――
当然マコトルはその会場に足を入れたことがある世代ではない。ただそのような描写がアニメや漫画で言われていたことを思い出しただけだ。
しかし、そのような気持ち悪さも脳に信号として与えられるこのハードの凄さというべきか、そこまで解析して指示を出しているプログラムの凄さは、ある意味尊敬できよう。
さておき、注文された武器製作の消化もひと段落した時、さくらからメッセージが届いた。
それはギルドに入らないか?という勧誘の類であったが、内容はなにがなんでも入ってもらう。という命令形式な文章になっていた。
どうやらふみやんが号外で稼いだ資金でCFCにマコトルを預かってくれないか?と依頼したらしい。
マコトルが生み出す利益が高い。しかし、暴走しすぎで命がいくつあっても足りない。従ってトッププレイヤーギルドが首輪つけてほしい。
『高報酬で頼まれたが、CFCも考えた結果首輪は必要となったので報酬は受けとらず、あとは本人次第ということになったから話し合いのためにとりあえず来い』とのことだ。
マコトルは話を受けようと指定された場所へ向う。
この間の件もあるし、流石にソロでやっていくのは危険と判断したからだ。
職人の場合、スキルやアーツの向上のために拘束されないほうがいいことが分かっていたとしてもだ。
まだ固定の店舗を構えて注文をこなしていればいいというほど資金もないし、名も売れていない。
それをやるのは最低でも50階層以上だ。
ならば、拘束されても上を目指す。
待ち合わせの場所にはさくらがすでに待機していた。
「さくらさん」
「よく来てくれた。こっちだ」
案内されたのは、26階層のレンタルギルドホーム、こじんまりとしてシックなログハウスがこの牢獄内で安らぎを与えてくれそうだった。
「ようこそ、CFCの仮住まいに。リーダーのUだ。武器は弓を使っている」
眼鏡をかけた黒髪の男が自己紹介共に握手を求めてきた。にっこりスマイルをつけて
「はぁ、どうもマコトルです」
ペコりとお辞儀してから手を握る。
その時奥のほうで寝転がっていた男がむくりと起き上がる。
「お前か、職人の癖にもう26階層をソロでクリアしたってバカは?」
荒々しい声とつんつんと跳ねた髪の毛が特徴的だ。
「俺は、このCFCの人事兼サブリーダー、アージだ。お前をギルドにいれるかどうかは俺が決める」
そう言いながら睨みつけてくるアージに負けまいと、マコトルもアージをじっと見つめる。
「アージはギルドの防御担当でね。あれはポーズなんだ。メンバーになったら全員絶対に守るとか豪語する男だからね」
さくらがマコトルをなだめるために、やさしく言うとアージは大きく舌打ちをしてから頭を大げさにかく。
「あ~、もうプランが台無しじゃねーか、とりあえずいくつか質問に答えてもらう、いいな?」
「はい」
「武器は片手槌って聞いてるが、メインにしようと決めたのはいつだ?」
「1階層で、武器製作と鉱石採掘をした際に、片手槌の熟練度が上がると分かった時です」
「他の武器スキルを上げるつもりは?」
「今のところありません」
「戦闘用にスキルスロットに入れてるやつは?」
「片手槌スキル、索敵スキル、状態異常体性スキル、、隠密スキル、打撃が効かない相手用に片手剣スキル」
「これで最後だ。お前は《戦闘職》か?それとも《職人》か?」
マコトルは即答でしかもはっきりと答えた
「職人です」
その答えを聞いたアージは、大きく息を吐く。
「わ~ったよ。ギルドに入ることを認める。依頼してきたブン屋には、『とりあえず、入れて60階層くらいまでは面倒を見るが最後まで共にすることはおそらくできない。危機管理だけは叩き込むからそれで勘弁してくれ』って伝えておけ」
「アージ!お前らしくないぞ。途中で見捨てるつもりか!?」
さくらはアージの言い分に激怒する。
いつもは仲間を守るために激昂し、ギリギリながらも守りきるのがアージだ。そのアージが途中で見捨てるような宣言をしたのだ。今まで見てきた人物像が壊れていくのを感じ怒りを覚えてもおかしくはないだろう。
「と、言われてもな。面倒だが理由は説明してやる。その前にマコトルも俺が言った条件でいいよな?」
こくりと首を縦に振る。
「できるだけ、しがみつくつもりではありますが、限界が着たら多分自分から抜けたいと言うでしょうね」
「マコトル…君は…」
「要約するとプレイスタイルの違いだ」
二の句が告げられないさくらに、アージは説明を始めた。
「詳しく言うとだな、マコトルのゲーム進行速度はソロで職人としては異常だ。だが、広げてみると異常性はなくなるんだよ。SLOにおけるスキル及びアーツにはポイントと言うものを振り分けない。あくまでそれぞれに対応した経験点を得ることで成長する。ってことは時間さえかければ"自分の戦闘スタイル"を決めるために色んなスキルを試してもいいってことだ。お前がカタナと短剣を経て小太刀を見つけたようにな。んで…そこらへんをこいつは」
一旦言葉を切り、視線をマコトルに向ける。
「ほぼ最初から、片手槌だけに注ぎ込んだ。しかもだ。片手槌を使った採掘と、鍛冶で片手槌スキルの熟練度が上がることが分かってから決めた。効率だけしか求めてない。つまりこいつにとって戦闘は片手間なんだ。脱出するために戦闘職のトップをサポートする武器を作ること。そのために素材の仕入れ等の目的でトップのすぐ下で闘わなければならない。そのためだけなんだ」
「それと、途中で見捨てることに何の関係が…?」
さくらの呟きをアージは手で制した。
「まだ前提だ。長いが最後まで聞けって。ここまでは、攻撃すきるはほぼ一つ特化させたことで俺達が戦闘スキルで試行錯誤した時間は鍛冶スキルに当ててきた。だから俺達と同じかちょい上くらいの強さを持ってる。これからは俺達もスタイルが固定化されてきて分散気味だったスキル・アーツのための時間の使い方を集中できるようになる。そうなるとあっという間に立場が逆転どころか置いてく格好になる。こいつの鍛冶の成長に使う時間は減らず、俺達の絞ったスキルの成長に当てる時間が増えるんだからな」
長々と話したせいで疲れたのか、アージは水をアイテムウィンドウから取り出し口に含む。ほぅと息を吐いて言葉を続けた。
「こいつが鍛冶を捨てれば、最後まで連れて行く責任は持てるんだが、最後の質問で職人って即答しやがった。自分のプレイスタイルは捨てない。60階層くらいまではいろいろやってしがみつくだろうがそれ以上は、差が開く一方。こいつもそれがわかっているからさっき『自分で抜ける』って言ったんだ。60くらいになれば、資金も貯まってプレイヤーショップを買う金があると思うし、俺達が足踏みすることもこいつは望まねぇ。だからこいつは60階層くらいで自分から抜ける。これが俺が考えた結論だ。予言っぽいが断言できる」
アージは、マコトルに向き直る。口調は荒っぽいがものすごく考えている。これがCFCの『守護神』。
「それでも良ければ、俺はお前を歓迎する。その時まで絶対に守る。俺達のギルドに来るか?」
マコトルに手を差し出す。その手は大きく、力強さを感じた。
「はい」
マコトルはその手を強く握った。
眺めていたUが微笑み。その上に手を載せる。
「改めてようこそ。ギルドCFC。"community for clear"へ」
今までマコトルがチートのように感じてきていた人がいるかもしれませんが、実はスタートダッシュに成功していただけでプレイスタイルを貫くと逆転は容易であると言う話です。
CFCのお話ですが、Uは指揮官で、アージが盾。こんなデスゲームなので、壁役のキャパが重要視されるので、壁役の発言力は高くなります。
こっから飛びます。・・・多分次回は50か60くらいの階層に…なるかと
追記:描きたかった場面その2です。いや、今回は「描かなければいけない場面」になるのかな?それくらい難産でした。