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カン!カン!カン!カン!
食事を取った後、早速マコトル達は21階層目の工房施設に向い小太刀を作っていた。
「できましたよ。さくらさん」
出来上がったアイテムをトレードウィンドウに入れる。
「うん。これで、長期耐久度を気にせず小太刀を使える。ありがとう、代金は」
「ただで結構です。助けてくれましたしあと新しいアーツも覚えられましたし」
笑顔でマコトルは答えるがその後表情が少し曇る。
「ただ、小太刀のアーツは覚えたてなのでまだいい鉱石が使えず性能的にはあまりいいものではないんですが…」
「気にすることはないよ。さっきも言った通り、確実に手に入るツテを知ることが重要だったんだから」
不安げなマコトルに、さくらは笑いをかけて落ち着かせようとする。
「それより、この情報は"記者"に話してもいいか?私としては秘匿するよりもプレイヤー全体の底上げを図りたいから普段なら情報を流すのだが、二人で手に入れた情報だから確認を取りたい」
「僕も情報を流したほうがいいと思います。でも、1誌だけにしておくべきだと思います。具体的には、スキルリンクリサーチにリークしたいのですが」
1誌だけというところにさくらは疑問を感じた。
「スキルリンクリサーチは、情報源として信頼できるし私も購読しているからいいのだが、なぜ一社だけなんだ?」
「あまり広めすぎると負担が大きすぎるので。新しい武器系統は戦闘職の方なら本格的に使うかどうかは別として、さわり程度には使ってみたいとは思うでしょう。スキルリンクの条件を満たそうとすると、さくらさんに負担が掛かりますし、そうならないようにすると注文が殺到しすぎて僕一人が追いつかないんですよ」
「なるほど」
さくらは納得する。小太刀製作アーツの発生のためには、小太刀スキルを保持した者の協力が必要になる。さくらが他の鍛冶師達につけば何とかなるかもしれないが、打ち合わせや待ち合わせ等の浪費時間が多い。
そもそも"共闘"の定義がわからないのだ。職人の負担となるレベルの階層で、戦わなければならない場合。負担が重過ぎる。
かと言ってマコトルが大量生産するためには素材が必要になるし、大量に押しかけられても裁ききれない。
「わかった。では今から行くか?」
「いえ、待ってください。もう一つ試したいものがあるのでそれが終わったら行きましょう」
マコトルは再び鉱石に向ってハンマーを叩き始めた。
最近スキルリンクリサーチは、拠点を21階層に移した。
まだ20階層以下で頑張っている者達のために、下の拠点は残してあるが上の情報も欲しいのだろう。おそらく21階層商人達のレートを提供することで読者を確保し運営資金が欲しいと言うこともある。
ちなみに21階層の拠点も下の拠点も、宿屋のレンタル会議室である。
「こんにちは、ふみやんさん」
「いらっしゃい、ようこそスキルリンクリサーチ21階層支部へ。あなたは我らに情報を授けるのか、それともあなたを宣伝して欲しいのか。」
入ってくるなり、おどけた口調で意味深でもない言葉を語る青年にさくらは、訝しむ。これがSLOの情報誌一信頼度の高い新聞のスタッフなのか。
「相変わらずですね。それでよく編集長が務まりますね」
「そーいうなって、これくらい軽いほうが口は滑らかになるんだよ、互いにな。久しぶり来たな、マコトル。広告か?」
マコトルが呆れた風に言うものの、気にせず軽い口調で話しかけてくる。
「そうですね。広告をお願いします」
「マコトルどういうことだ、情報提供じゃないのか?」
さくらがツッコむと、マコトルは頬をかく。
「今回の場合、ほぼ同義なんですよね。そー言うわけなんで、広告をお願いします」
「あいよ。それよりよ~。なんでCFCのA-桜さんと一緒にいるんだ?CFCは最速クリアの有名どこだからな。英雄みたいなもんだぞ。まぁ情報提供は他の人がやるからあんまり表に出ないけど」
「まぁ、今回の件で色々ありまして」
苦笑するマコトルを見て、詮索は意味なしとふみやんは悟る。椅子に座りながら本題に移ろうとする。
「じゃあ、いいや。広告の情報詰めればわかるだろ。で、どんな広告作りたいんだ?あ、座って座って」
「デザインは、お任せします。見出しとして、でっかく"新武器系統小太刀製作始めました"って書いていただければ」
ふみやんは、紙と鉛筆をオブジェクト化して、メモを取り始めた。
「はいはい~。新武器系統小太刀ね…ってえええええええええ!?」
"新武器系統"が鉛筆を床に落とす程のインパクトのある出来事であることは間違いない。カランと鳴って床に叩きつけられた鉛筆を拾い。どーにか気持ちを落ち着けようとする。
「おいおい、マコトルよ。それって"広告"レベルじゃなくて一面ぶち抜きのビックニュースだぞ。しかも製作を始めたって事は、鍛冶師スキルのアーツも出たってことだろ。条件は?つーか可視モードにしろ。とてもじゃないが納得できねぇ」
「いいですよ。どうぞ」
そう言って、マコトルはスキル・アーツウィンドウを可視モードにする。
「ふんふん、なるほど、これで繋がった。そんな条件があるってことは、小太刀スキルを持っているのはあなたってわけだ。A-桜さん?」
「知り合いに同じ読みをする者がいなければ、さくらで構わない。まぁ、そういうことにはなるだろう、どうぞ」
さくらもスキル・アーツウィンドウを可視モードにした。小太刀スキル及び基本アーツの出現条件は、小太刀を使ってモンスターを50体倒す。
「スキルやアーツ自体は小太刀を振るっていれば、覚えられるが問題は入手方法だったんだ」
「あ~、レアドロップで入手したのか?確かにそれじゃアレのせいで多くは使えないだろうに」
さくらは首を横に振る。
「いや、一回限りのクエストの報酬だ。そのクエストの発動条件はカタナスキル熟練度200、短剣スキル熟練度200だ」
補足しておくと熟練度の最大値は1000である。だが、クリア済み階層を考えるに200と言う数字は、一つ一つがトッププレイヤーの適正値と言える。
「そいつはスゲー際物だな、パワーとスピードの代表両方をそこまで鍛えてる人間はほとんどいねぇ」
「片方そこまで鍛えたら、大概もうそれをベースに戦闘スタイルを確立しますから、確かに珍しいと思います」
ふみやんはおおげざに首を縦に振る。
「で、なんでさくらさんはそこまでできたんだ?」
「そこまで、大げさではないんだ。初めは、カタナの情報が手に入った時点で憧れて使っていたというだけなんだが、使っているうちにSTR補正とは別に重すぎると感じるようになっていた。だから軽いスピード系に切り替えたんだ。細剣とも迷ったんだが、リーチよりも手数だと思って短剣にしたんだ」
さくらはこんなところだろうと自分の話をしめた。
「なるほどなるほど、二人共、情報提供ありがとうな!マコトル今回のこれは、今作れるのはお前だけって情報はキチンと載せた上で、一面扱いにするから、広告費はいらねぇよ」
忙しくなるぞ~と気合を入れたふみやんを見てこれ以上は邪魔だろうと、さくらは席を立とうとする。だが、マコトルは他にも用があったのだ。
「ふみやんさん、それとは別件でもう一つ広告だしたいんだけど」
「はいはい、なによ」
気合入れたところで出鼻を挫かれつつも、一面ぶちぬき級の情報を提供してくれた二人に、帰れとは言えない。
「属性武器製作用鉱石出現。製作しますので鉱石を持って来てください。ついでに属性鉱石を集める依頼出したいからそっちもよろしくお願いします」
「「「「はぁっ!?」」」」
その部屋にいた全員が素っ頓狂な声を上げた。
初めて文章評価、ストーリー評価がつきました。
ありがとうございます。
感想もお待ちしております。