Skill-Link
戦闘が終わった二人は、街まで戻ることで同意した。
街に戻るまでは二人とも無言だった。戦闘の疲れがあったのに、高レベルモンスターの襲撃に備えるための周辺警戒で神経を尖らせていたからである。
街に戻りNPCの経営する喫茶店で軽い食事と飲み物を頼む。
このゲームにおいて、なぜか空腹感というものは存在する。デジタルな情報のわけで体は病院のはず不思議ではあるがその謎を解明する術は牢獄の中にはない。
一息つくとさくらから話を切り出した。
「改めて、自己紹介をしよう。A-桜、ギルドCFCに所属している。戦闘職で、武器は色々使うが主に斬撃系が多いかな」
「マコトルです。一応ソロでやってます。職人:鍛冶師で、武器は片手槌です」
"ソロ"、"職人"という言葉が聞こえるたびさくらの表情が険しくなる。
「君のプレイスタイルは把握した。で?"ソロ"で職人"な君がどうして27階層にいるのかな?」
目つきが鋭くなるというよりも、苦笑いの表情を浮かべつつ青筋を立てているそんな怒りを表している。
「実は…知っている鉱石類では熟練度もアーツレベルも経験点がほとんど手に入らなくなりまして、全く上がらない鉱石もあり、商人のところに仕入れにも行ったんですが、在庫切れで……そしたら27階層が鉱山山脈と言うことで採掘を……。」
「バカか君は!私が言いたいのは職人プレイヤーが、攻略組の階層にいるのかと言うことだ!21階層あたりでおとなしくしてろ!」
のほほんと答えるマコトルに、声を荒げるさくら。
たしかに最適な階層を考えると、商人職人カテゴリーに属する者の適正は、21、頑張っても23くらいが限度だろう。
「大丈夫ですよ、一応26階層まではクリアしたんで」
「26階層っ!?」
さくらは、一週間前の戦いを思い出す。ギルドメンバー全員(7人)でパーティを組み、回復アイテムのほとんどを使い果たしてぎりぎりのところで誰も死なずに済んだあの戦い。それを
「"ソロ"でやったというのか!」
「はい。毎回一番にクリアするパーティの人たちは、《記者》を通してこちらに情報をくれるので、弱点とかわかっていれば案外楽なんですよ」
あくまでのほほんとしているマコトルにさくらは怒り、呆れを通り越して頭痛を感じてきた。
頭痛が痛いレベルの頭の痛さである。
はじまりの街には《記録の石碑》というものがある。その石碑には、各階層のクリアした人数、クリアしたパーティ数、最初にクリアしたパーティメンバーの名前が書かれている。
それらの情報は、《記者》が毎朝確認して新聞として発行されている。新聞と言っても攻略情報と達成者データが載っているもので情報量は少ないが定期購読しているものは少なくない。真似て作られ現在5誌ほど作られている。
そのうち、一番情報に信憑性が高いものをさくらは毎日買っている。
たしか26階層をクリアしたのはわずか8パーティ。そのうち、一人が職人カテゴリーでしかもソロ。
「ありえない…」
「まぁまぁ、あ、料理来ましたよ」
運ばれてきた料理を現実逃避するかのごとく自棄食いし始めるさくら。あまりの速度に、今度はマコトルが苦笑いになる。
あらかた食べ尽くした後で、お茶を啜りながらさくらはぼやく。
「さっき、スキル熟練度とアーツレベルがほぼ上がらなくなるほど鍛えたと言ったが、そんな腕の鍛冶師であったとしても私が求める系統の武器は作れないだろうな…」
その言い方にマコトルはむくれながらも丁寧に応じた。
「その武器って、なんなんですか?一応大抵のものはほとんど上がらないとこまで鍛えたんですけど」
「今までお願いしようとした者は、みんなそう答えた。でも誰も作れなかった。鍛冶師なら知っていると思うが作成系アーツは、そのアーツ自体が現れないと作ることができない。誰も出現条件を満たしていなかったんだよ」
"誰も条件を満たしていない従って作成できない"と諭しても、まだじっと見つめてくるマコトルにやれやれと思いながら、先ほどまで使っていた武器をオブジェクト化する。
「《小太刀》だ。あるクエストをクリアした際に報酬で貰った」
鞘から抜くと刃が光に反射し煌く。
「刀よりはリーチがないがその分小回りが利いて敵の攻撃を防御しやすい。そして短剣よりは切れ味がいいので攻撃力が高い。私好みの武器だ」
鞘に収め、アイテムウィンドウにしまう。
「これをメインに使っていきたいのだが、《長期耐久度》だ。次の物が手に入るまであまり無駄遣いはできない」
SLOの装備には《長期耐久度》と《短期耐久度》がある。モンスターに攻撃をするうちに、錆や刃こぼれ等が起こり攻撃力が下がる。これのこのゲームでは《短期耐久度》と設定し使い続けるうちに減少し攻撃力がだんだん下がっていく。これを回復するために、鍛冶師等に武器を研いで貰うのだが、《長期耐久度》が減少する。要するに研いでいるうちに、だんだん小さくなり有用性がなくなるのだ。《長期耐久度》が0になれば、アイテムは消失する。そして《長期耐久度》は今のところ回復する手段はない。
「あのクエストは、一人一回しか受けられず使わないと思われるギルドメンバーはクエスト開始条件を満たしていないし、満たすためには自分のプレイスタイルに合った育成をやめてもらうしかない。それではこの先のモチベーションや生存率に大きく影響するだろう。それは私にとって望ましくない」
湯飲みに手をつけ、お茶をまた啜る。
「だから、《小太刀製作》のアーツを持つ鍛冶師を探していたのだが」
「確かに、かなりのレアアーツですね。僕もまだ持ってませんし…あれ?」
入手手段が確立されるまで他の武器はどうかと勧めるためマコトルはスキル・アーツウィンドウを可視モードで開いた。
「ある…」
「なん…だと…?」
《鍛冶スキル系アーツ:小太刀製作》 小太刀が製作できるようになるアーツレベルが高いほど性能の良い武器を作れる。
出現条件:刀製作アーツLV25以上、短剣製作アーツLV25以上、"小太刀スキルを持つプレイヤーと共闘する"
「《スキルリンク》か、聞いてはいたがそういうものとは私も運がいい」
可視モードになっているのでさくらもウィンドウを確認できた。出現条件を見て納得する。そして呟いた。
「あの…それって」
「特定の条件を満たしたもの同士が行動することで、新たなスキルまたはアーツが生み出されるフラグのことらしい。今回の場合、小太刀スキルを持った私と鍛冶のレベルを鍛えていた君だ。《術:スキル》を《絆:リンク》させる。このゲームタイトルの真の意味らしい」
「《術:スキル》を…《絆:リンク》…」
マコトルは生唾を飲み込んだ。
「とりあえず、小太刀の製作をお願いしたい。駄目か?」
マコトルは笑顔で答える。
「はい、承りました」
描きたかった場面、その1。その2まで遠いお…
今回で描きたかったものは、タイトルの由来その1です。
実はもう一つあるんですが、時系列順だと場面その5くらいなんですよね。いつになることやら
感想お待ちしております