鍛冶師マコトル
SLOに約50万人が閉じ込められてからおよそ400回の朝をゲームの中では迎えていた。
未だに外部からの救助はない。
最初の3ヶ月こそ誰しもがおっかなびっくりにフィールドに出たがために遅々として進まなかったが、3層目がクリアされると、後を追うプレイヤーが続々と現れ、ようやく世界が動き出したのだった。
それからおよそ1年、最高攻略階層:27、生存者約45万人
カン!カン!カン!カン!
一定のリズムを取りながら鉱石を叩く。
マコトルは現在21階層目の工房施設で、大量の武器を製作していた。
SLOの強さの概念は経験を取得しLVを上げてパラメータを強化することだけではない、《スキル》という概念がある。
《スキル》とは、技術の系列である。戦闘に関する技だったり、アイテムの加工技術だったりする《アート》のまとまりである。
例えば片手剣のスキルには、スラッシュや切り払い等といった《アート》があり、それらアートを使うことでそのアート自体のLVとスキルの熟練度が微妙にだが上がる。
アートのLVが上がれば、そのアートの威力などが上がるが、スキルの熟練度が上がればそれのスキルに属するアート全ての威力や命中率に補正が掛かる。
命の危険を覚悟し、『はじまりの町』に閉じこもることのなく攻略を目指すプレイヤーは大きく分けて4つに分類され、そのうち積極的に『攻略』をしているのは2つ、《戦闘職》と《職人・商人》だ。
《戦闘職》は文字通り、各階層のクエストや我先にとクリアし、戦闘系スキルを主に上げて高層を目指すプレイヤー。
《職人・商人》は、加工系や売買系などのスキルを上げてアイテムや素材を製作および売り買いすることで、攻略組を支えるプレイヤー達のことでマコトルも分類的にはここに属することになる。
モンスターを倒す技術に費やす時間を、アイテムの製作や素材の回収に費やす彼らは攻略組には負けるものの、攻略組が求めるより強いアイテム等を仕入れるために上へと目指す必要があるためになかなか強い。攻略組の適正階層-5くらいが職人・商人達のトッププレイヤーの階層ということに今のところなっている。
初日の騒ぎの中何とかプレイヤーを捕まえて事実を知ったマコトルは、装備が一番重要だと感じ、アイテム製作系スキル主に《鍛冶》を中心に強化して今に至っている。
装備に必要LVやステータスがあるこのゲームで割りと低くても高めの補正が掛かるものを作れた彼に商人や戦闘職からの人気は職人達の中でもかなりある。
「これ以上は、この鉱石じゃ無理か……。」
マコトルはそう呟いた後、大きくため息をついた。
鍛冶スキルの熟練度及び鍛冶アートのLV上げるための経験点が手に入らなくなった。二つ前に作った武器でスキルの熟練度とアートLVが上昇したので二つほど検証したのだがまったく手に入らない。
鍛冶に代表される製作系スキルおよびアートLVの上昇に必要な経験点に関係するものは素材のレアリティである。
簡単に手に入るもので作ると経験点は安い。ゲームの性質上当たり前のことかもしれないがマコトルもまさか0になるとは思わなかった。
「残りの鉱石は商人から注文が来た時のために取っておくとして、もっといいのを仕入れるか」
アイテム覧を確認しつつ、マコトルは工房施設を後にした。
《街》は各階層の基点となりHPが減ることのない安全圏である。
21階層の《街》:セカンドグレードは、20階層以上の街の中で施設の使用料や、場所代などが一番安いよって職人・商人の中でトッププレイヤーの者達の拠点となっている。
SLOには攻略制限が掛かっている。自分がクリアした階層+5以上の街およびフィールドにはいけないことになっている。
各階層のボスを自分で倒さなければクリアしたことにはならず、一度その階層のボスを倒したものは参加できない。
もちろん誰も到達していない階層の街などは論外として行けないが。
例外として個々の到達階層が20以下のプレイヤーは21階層のエリアにいけなかったことから20階層ごとに区切りがあるらしい。
それは40階層で検証しなければわからない。
よって、21階層にいる職人や商人達は、20階層までのボスを倒したことになるプレイヤーだ。
マコトルは広場に足を進めた。
ここに多くの商人プレイヤーが、露天を出している。
目当ての人物がいないか、ぐるぐると回りようやく見つけた。
「カリンさん」
「お、マコトルどうしたの、また『ライト鉱石』?」
赤い髪を後ろで三つ編みに束ね小麦に焼けた肌をした女性はプレイヤー名:カリン。カテゴリーは商人で扱っている商品は主にアイテム製作に必要な素材だ。
商人達の中ではカリスマ的存在になっている。
「いや、それだともう経験点がどっちもてにはいらなくなっちゃって、モカライト鉱石ないかな?」
「熟練度があがんなくなったか。いつかはそーなるかと思ってはいたけど、もう上がんなくなったか。ごめん、モカライト鉱石の部隊はまだ1つかなくて。昨日渡したのが最後。今行ってはいるけどあと5時間は掛かるよ」
SLOに閉じ込められてからおよそ9ヶ月あたりでカリンは、新たなプレイヤーカテゴリーを作り上げた《収集者》と《護衛》である。
SLOの中でもなぜか食欲と睡眠欲が発生する。そのために代金は支払わなければならない。
命の危険を一切冒そうとせずはじまりの街にいた《閉じこもり》のプレイヤーの資金がつきかけてきた。
はじまりの街の宿屋や料理がいくら安くても、街の中ではほとんど増えないので減る一方だったのである。
カリンは、資金がつきかけている《閉じこもり》と安全マージンを多めに取りたい《戦闘職》でパーティーを組ませて、素材回収部隊を作り上げたのである。
鉱石や薬草と言った素材アイテムは、採取ポイントで発掘や摘むといった1回につき数秒無防備になる作業を行わなければならない。
モンスターに遭遇した場合の危険度がかなり高い。
だが、戦闘系のスキルばかりをスキルスロットに入れていると多くは採取できない。
そこで通常の回収でも、戦闘と回収の役割を分けるのだが、安全マージンを取りたい者と《閉じこもり》を割り当てたのである。
戦う者は、守る対象はいるが安全マージンを十分取れた場所でスキルを磨け、かつお金が手に入る。
回収役は、お金が手に入るし、パーティーを組んでいるため経験値を分けてもらえて強くなれる。
手に入れた大量の素材は商人から職人に渡り、職人の熟練度上げを手助けし、できた武器を商人が売って利益を得る関わった人間が損しないシステムを完成させたのである。
いつしか戦う者は《護衛》、回収役が《収集者》とよばれるようになった。
だが、良質な素材ほど危険度は高いので、上質になればなるほど素材回収部隊は少ない。
「そっか……じゃあクエスト消化とか、新しい鉱脈探しとかするかな。200kルードは出せるから、売らずにキープお願いできる?」
「あいよ、マコトルはうちのメンツにいい武器下ろしてくれるお得意さんだからね。確保はしておくよ」
「ありがとうございます。それじゃ、また後で」
マコトルは、ペコりとおじぎをして転移ゲートへと向った。
3人目は決まっているんだけど4人目のキャラが決まらない。
攻略重視の男キャラなんですが、使って欲しい武器とか名前ってあったら感想によろしくお願いします