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キング・オブ・マネー  作者: ほろろ
第一章 金はものを言わない
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起 第二話 記憶喪失

 成金レヴェルマックスこと、同志は心優しい人物だった。

病人はベッドで寝ているべきだと言い、何故かメイド服を着た看護師さんに介抱されながら、横になった。

私はつい同志の優しさにつられ、墓穴を掘ってしまった。


「あの、一つよろしいでしょうか」


「いいぞ。なんでも聞き給え」


 妙に圧のある同志は、前のめりになって、こちらを見ている。


「ここは、その、どこなのでしょうか」


 あたりに静寂が広がる。

そして、同志は恐る恐る確認するように、尋ねた。


「お前。まさか、記憶を失ったのか?」


「はい。おそらくは……」


 すると、同志は焦るようにして、手持ち鏡を取り出した。

そして、私の前に差し出して、こう言った。


「この鏡に映っているのがルーザ、お前だ。

本当に覚えてないのか?」


 私はその鏡を見て、衝撃を受けた。

そこには、我ながら気にいっていた成金風の小太り顔ではなく、痩せこけて、今にも死にそうな青年の顔があった。

金髪青眼、目の前の同志を若く、細くしたような顔である。

何度も鏡の姿と、同志の顔を見比べる。

そこで、初めて気が付いた。

同志は実の父親であり、私はその息子であると。

つまり、私は死ぬ直前に願った通り、輪廻転生してしまったのだ。


 私は今にも叫びたい気分だった。

だがその前に、私は驚きで意識を手放してしまった。




********


 僕は夢の中にいた。

生まれつき体が弱く、家の中で寝ては起きてを繰り返す日々。

町一番の聖職者は、いま農民を中心に流行っている病だと診断した。

それに僕も感染してしまったらしい。


 父上は、君主としての仕事で忙しく、いつも僕の面倒を見てくれたのは、お付きの人であった。

彼女は病気がちの私と楽しそうに話してくれた。

しかし、彼女が僕と話すのは、それが仕事だからと理解はしていた。

けれど、彼女と夢を語るのが楽しかった。

いや、正確には、彼女が一方的に語る夢を聞くのが楽しかったのだ。


 それでも、僕にもちゃんと夢がある。

それは誰もが幸せになれる社会を作ることだ。

けれど、僕には時間も能力もない。

もしも、僕の体で夢を叶えられるなら、どんなになってもいい。

だから、僕の夢を叶えて。




 私は夢を見ている。

小さい青年の話。

この体が語りかけているのだろうか。

そうしたら、私は彼の体を奪ったのか。

いや、彼は最後に私に託していた。

誰もが幸せになれる社会を作ってほしいと。


 実に馬鹿馬鹿しい。絵空事にも程がある。


「どうして、そう思うんだい?」


 うわ、びっくりした。

さっきの青年じゃないか。


「そうだよ。酷い言いようじゃないか。」


 それは当然だ。

誰もが幸せになれる社会など達成不可能だ。


「どうして、君はそう思うんだい?」


 誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立っている。

幸せになる為には、金がいるんだ。

金はこの支配構造を一瞬でひっくり返す。


「君は金があって、幸せだったのかい? 君の最期なんて悲惨じゃないか」


 ……うるさい。

金はものを言う。

それに例外はない。


「本当かなぁ。僕は金なんて持ってなかったし、使うこともできなかったけど、幸せだったよ。」


 それは君が大金を持ったことがないから言える。

君は金の価値を知らないだろう?


「そうだね。一理ある。

じゃあ、勝負しないかい?」


 何を。


「もし僕の体を使って、君がこの世界は金がものを言うと証明できたら、君の勝ちだ。

一番の資本家になるんでしょ?」


 ああ、そうだ。

逆の場合はどうなる?


「もし僕の体を使って、君が金以外に価値を見出したら、僕の勝ちだ」


 乗った、その勝負。


「さすがだね、君と僕は()()()()()()

じゃあ、僕の体を使って、君の論理を証明してくれ。

僕は遠くから見守ってるよ」


 そう言って、彼はゆっくりと消えていった。



********



 再び目が覚めると、部屋は真っ暗になっていた。

隣には、使用人らしき人がベッドの横に寄りかかって、寝ている。

僕は彼女を知っている。

いつも僕の話し相手になってくれた子。


「僕……?」


 いつから私の一人称は”僕”になったのだろう。

さっきの夢が影響しているのだろうか。

”僕”とは一体何者なのか?

自分の存在の不確定さに不安を感じる。


「ルーザ様……?」


 使用人らしき人が不安気にこちらを覗いている。

寝ぼけているのだろうか。

目尻が少し赤くなっている。

それにしても若い少女だ。

おそらく、この体と同い年くらいじゃないか。

部屋の中は薄暗いにも関わらず、彼女の燃えるような真っ赤な瞳がこちらを見ていると分かる。

体を起き上げ、真剣な面持ちで、彼女は言葉を紡いだ。


「私のこと、覚えてますか......?」


 私は悩んだ。

”僕”と彼女のことを思うなら、嘘をついた方がいい。

しかし、その嘘はいつかバレる。

なら、正直に答えた方がいいだろう。


「すみません。”私”は覚えていません。

ただ、あなたが”僕”と夢について語り合ったことは覚えているのですが……」


「そう……ですか。

良いんです。それでいいんです。」


 彼女は徐に泣き出した。

そりゃそうだ。

私だって、好きな人が突然、記憶喪失になったら、深い悲しみを覚える。


 だけど、今の私にはどうすることもできない。

咄嗟に思い付いた行動が、彼女を抱き締めることだった。

”僕”の存在は、この体しかないのだから。


「あなたの前では泣かないと決めていたのですが……」


「大丈夫。”僕”は、ここにいるよ」


 夢の中で会った”僕”の存在を伝えられないのが悔しい。

ただ心身二元論に基づけば、この体は”僕”のものだ。

私はそれを拝借しているに過ぎない。

”僕”の周囲の人には本当に申し訳がないと思う。


 すると、突然、彼女が鼻をすすりながら、笑い出した。


「ルーザ様は記憶を失っても、やっぱりルーザ様ですね」


「それって、どういう意味?」


 私が聞くと、彼女は悪戯ぽく笑って、こう言った。


「内緒です!」


 完全に意味不明だ。

恋愛ができる男子というのは、こういうのを瞬時に理解できるのだろうか。


 彼女は立ち上がり、僅かに皴のあるメイド服の裾を軽く持ち上げて、私に向かってカーテシーをする。

彼女の赤髪赤目が、上品さを際立たせる。


「私は、エリーゼ・フォン・マイセン! エリーって呼んでちょうだい! 」


 決まった、という雰囲気が顔に出ている。


 これが、私とエリーの初対面であった。




お読みいただきありがとうございます。

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