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7話 コミュ力が上がる能力

5月。ゴールデンウィークが明け、教室には「いつメン」のグループが固定され始めていた。 しかし、御得おんとく たまるの周りには、相変わらず怪しい空気の売野しかいない。


「なあ、売野。5月だぞ。爽やかな青春の季節なのに、俺の話し相手はお前だけか?」 「おや旦那、それはもしや『この小説の作者には友達がいない』という事実を、鏡合わせで投影している……ということですか? 実にメタい、悲しいメタ発言ですよ」


「うるせぇ! 作者の交友関係なんてどうでもいいんだよ! 俺は友達が欲しいんだ!」


絶叫する貯の机に、売野が1枚のICチップのようなものを置いた。 「では、これです。『コミュ力が上がる能力』。税込1万円。これを首筋に貼れば、あなたのコミュニケーション能力は、日本人の『平均以上』に固定されます」


「平均以上! つまり、普通に会話が弾んで、誰からも好かれるってことか。買った!」


貯は即座に1万円を支払い、チップを貼った。すると、頭の中が妙にクリアになり、言葉が次々と浮かんできた。




貯はまず、隣の席で大人しそうに教科書を読んでいた、田中たなか ひろに声をかけた。


「よお、田中! そのペン、使いやすそうだな。どこで買ったんだ?」 「えっ、あ、うん。駅前の文房具屋だけど……」 「へぇ! あそこ、種類豊富だよな。今度おすすめ教えてくれよ!」


会話が……続いている! これまでの貯なら「あ、あ、あの、ペン……いい、ね……」と挙動不審になるか、「そのペン、1万円で売れよ」と売野の影響を受けすぎた発言をするかの二択だったのに。


「……御得くん、意外と話しやすいんだね」 「だろ? 俺たち、今日から親友な!」


友達ができた。その事実は貯を調子に乗らせるには十分すぎた。


「青春といえば、次は恋愛だよな? 田中、見てろよ。俺はこのコミュ力で、クラスの女子全員を虜にしてみせる!」




貯は、クラスの女子に片っ端から声をかけ始めた。 能力のおかげで、断られても「平均以上の爽やかさ」で受け流し、次のターゲットへ向かうスピード感だけは超一流だった。


「佐藤さん、付き合ってくれ! 君の笑顔、平均以上に素敵だよ!」 「ごめん、無理」 「オーケー、いい返事だ(※良くない)。次は鈴木さんだ!」


休み時間のたびに告白し、昼休みには3人をハシゴし、放課後には掃除当番の女子全員にアタックした。 貯の計算では、数打ちゃ当たるはずだった。コミュ力は「平均以上」なのだから。


しかし、放課後の教室。 貯が意気揚々とカバンをまとめようとすると、教室の空気が氷点下まで下がっていることに気づいた。


「ねえ、見た? 今日の御得くん……」 「聞いた聞いた。クラスの女子、20人全員に同じセリフで告白したらしいよ」 「しかも断られても10秒後には別の人に行ってたよね。コミュ力が高いっていうか、単に『感情が欠落した告白マシーン』じゃない?」


そう。売野の言った「平均以上に固定される」というのは、「相手との距離感や文脈を無視して、ただスムーズに喋り続ける」という、AIのようなコミュニケーションだった。 嫌われても傷つかない(=平均的な鈍感さ)ため、貯の行動はただの「不気味な徘徊」にしか見えていなかったのだ。




唯一の友達になったはずの田中も、遠くから引きつった笑顔で手を振っていた。


「あ、御得くん……ごめん、僕、これから塾があるから。あと、女子たちが君のこと『告白のゾンビ』って呼んでるよ」


「……え?」


貯の脳内に、売野の声が響く。 「旦那。コミュ力の平均っていうのは、『空気を読む力』も含まれるんですよ。平均以上に上げましたが、『羞恥心』が欠如した状態でそれをやると、ただの公害ですからね」


売野がニヤニヤしながら現れる。 「おまけに、今の旦那の学内評価は『関わってはいけないヤバい奴』の平均値を大きく上回りました。おめでとうございます」


「めでたくねぇよ! 友達一人作るのに、クラス全員を敵に回してどうすんだよ!」


「では、次は『1万円で、記憶を1日だけ消去できる消しゴム(ただし自分専用)』を売ってあげましょうか?」


「それ使って、今日の俺の行動を全員の脳から消してくれぇぇ!!」


貯の青春は、5月にして早くも「社会的に死」を迎えようとしていた。

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