6話 秘密を暴く能力
プロフィール
・御得 貯
職業 アルバイト
年齢 16(20)歳
売野に出会う前まではごく普通の青年だった。かなり不器用。
・売野
職業 セールスマン
年齢 16(25)歳
基本は裏路地に潜んでいる。色々な秘密があるらしい。
・目立 多加理 (めだち たかり)
部活 吹奏楽部
年齢 17歳
名前の通りの目立ちたがり屋で、学校一の美少女(設定)
「なあ、売野。この小説、今回で6話目だけどさ……」 放課後の教室、御得 貯は深刻な顔で切り出した。 「華がなさすぎないか? 登場人物、俺とお前の野郎2人だけだぞ。しかもお前、中身はおっさんだろ。そろそろヒロイン的な存在が必要だと思うんだ」
隣の席でノートを広げていた売野が、眼鏡の奥の目を細めた。 「旦那、それは『メタい』発言ですよ。読者が現実に引き戻されるので、第四の壁を叩くのはやめなさい」
「いいや、俺は本気だ! 2度目の高校生活、俺はラブコメがしたいんだよ!」
貯は鼻息荒く立ち上がると、廊下を指差した。 「あそこを見てみろ。この学校一の美少女、目立 多加理さんだ。彼女こそ、この物語のヒロインに相応しい!」
廊下では、取り巻きの女子や男子に囲まれた、一際輝く美少女が歩いていた。 「なるほど」と売野は頷く。「では旦那、彼女に近づくための『武器』を買いませんか? 『秘密を暴く能力』。1回使い切り、税込1万円です」
「秘密……! 弱みを握るか、あるいは彼女の好みを暴けば、攻略の糸口が見える!」 貯は迷わず1万円を差し出した。
売野が貯の額に指を当て、能力を念じ込める。 「さあ、目立さんを見て強く念じてください。彼女の『秘密』が脳内に直接流れ込みます」
(目立多加理の、誰にも言えない秘密を教えろ……!)
貯が念じた瞬間、頭の中に電撃が走った。 【秘密:目立多加理は、靴下を履くときに必ず左足から履く】
「…………は?」 貯は固まった。 「……おい売野。今、すごいゴミみたいな情報が流れてきたんだけど」
「おや、立派な秘密じゃないですか。彼女が右から履くか左から履くか、全校生徒の誰が知っているというんです?」
「そんなもん誰も興味ねぇよ! 1万円だぞ! もっとこう、実は家が貧乏とか、意外な趣味があるとか、そういうのをくれよ!」
貯は悔しさのあまり、もう1万円を叩きつけた。 「もう一回だ! 次こそは決定的なやつを頼むぞ!」
再び能力発動。貯は祈るように念じた。 (今度こそ、とっておきの秘密を……!)
【秘密:目立多加理は、靴下を履くときに必ず左足から履く】
「同じじゃねぇか!!!」 貯の絶叫が教室に響いた。
「売野! 1万円返せ! さっきと同じ情報だぞ、詐欺だろ!」 「旦那、落ち着いてください。私は『秘密を1つ暴く』と言いましたが、『まだ誰も暴いていない秘密を暴く』とは言っていません。彼女の最大の秘密がそれだった場合、何度引いてもそれが出るのは道理でしょう」
「どんだけ私生活に隙がないんだよ、あの女!」
2万円をドブに捨て、机に突っ伏す貯。 しかし、ふと顔を上げた彼の目に、廊下で目立さんを遠巻きに見つめる男子生徒たちの姿が映った。
(待てよ……。俺にとってはゴミみたいな情報だけど、あの熱狂的なファンたちにとっては……?)
貯はニヤリと笑った。「売野、もう何回かその能力を売れ。仕入れだ」
「おや、商売ですか。いいでしょう」
貯はその後、さらに数万円を投資して「秘密」を仕入れた。 といっても、出てくるのは「実は寝る時はパジャマ」「朝食はパン派」といった、どうでもいい情報のオンパレードだった。
しかし、貯はそれらを丁寧に紙に書き出し、放課後、男子トイレの裏で「秘密の販売会」を開催した。
「おい、お前ら……。目立さんの、プライベートな秘密、知りたくないか?」 「な、なんだと!? お前、そんなの知ってるのか!?」
「1枚、1,000円だ」
するとどうだろう。 「目立さんは左足から靴下を履く」という情報を、熱狂的な親衛隊たちは「マジかよ! 尊すぎる!」「左足から履くなんて、なんて几帳面なんだ!」と涙を流して喜び、飛ぶように売れていった。
「目立さんはパン派」という情報は、翌日の学食からパンが消えるほどの反響を呼んだ。
数日後。貯の手元には、分厚い札束が残っていた。
「……20万円。元手の数倍になったぞ」
貯はホクホク顔で札束を数える。 初めて「1万円の能力」を使って得をした瞬間だった。
「旦那、味を占めましたね。でも気をつけてください。秘密を売る商売には、それ相応のリスクが……」
売野が言いかけたその時、教室のドアが勢いよく開いた。 そこに立っていたのは、般若のような形相をした目立多加理本人だった。
「……あんたね。私の『靴下の順番』を言いふらしてる変質者は」
「……あ。」
彼女の後ろには、ガタイのいい野球部員(第5話で貯を馬鹿にした連中)が数人控えていた。 貯の「秘密ビジネス」は、一瞬でプライバシー侵害の不祥事として幕を閉じた。
結局、稼いだ20万円はすべて「目立多加理・精神的慰謝料」として没収され、貯の財布は再び空になった。
「……あーあ。ヒロイン登場どころか、出禁レベルで嫌われたな」 「旦那、大丈夫ですよ。次は『1万円で、人から嫌われていることに気づかなくなる能力』なんていかがです?」
「それ、もう今の俺に備わってる気がするわ!!」




