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4話 過去に戻れる能力

これまでの人生、1万円を支払うたびに地獄を見てきた御得おんとく たまる。 「おみくじ」「握力」「心の声」……。すべてが裏目に出て、今や貯の社会的信用はマイナス、左手は怪力というボロボロの状態だった。


「もう……嫌だ。全部やり直したい……」


そんな貯の前に、雨上がりの路地裏で売野が立っていた。


「旦那、お疲れのようですね。そんなあなたに究極の目玉商品です。……『過去に戻れる能力』。どうです? 1万円(税込)です」


貯は耳を疑った。タイムリープ。フィクションなら億単位の価値がある能力だ。


「1万円で……過去に? 詐欺じゃないだろうな!?」 「ええ、確実に。そのボタンを押せば、あなたの精神は過去の肉体へジャンプします」


貯は震える手で、財布から最後の一枚となった一万円札を差し出した。 受け取ったのは、安っぽいおもちゃのような赤いボタン。


「これさえあれば……! あの失敗も、あの恥も、全部なかったことにできる! 最高にお得な買い物だ!」


貯は躊躇なく、親指でボタンをカチリと押し込んだ。


絶望のカウントダウン

その瞬間、世界がぐにゃりと歪み始めた。貯の体が光の粒子となって分解されていく。


「成功だ! あばよ、売野! お前のインチキ商売ともこれでおさらば……」 「あ、言い忘れましたが、旦那……」


光の中に消えていく貯に向かって、売野が平然とした顔で手を振った。


「その能力、過去に行けるのは確定ですが、現世(未来)には戻ってこれない『片道切符』ですからね。20XX年のあなたの資産は、全部消滅します」 「……え?」 「それと、このボタンの有効範囲が意外と広くてですね……あ、私も巻き込まれちゃいました」


「はあああああ!? お前も来るのかよ! 戻れないってどういうことだ! 1万円で人生消去かよ!!」


貯の絶叫も虚しく、世界はホワイトアウトした。




「……おい、起きろよ。御得」


聞き覚えのある声に、貯は顔を上げた。 木の机の感触。チョークの匂い。窓から差し込む午後の眠たい日差し。


「ここ……は……?」


黒板には「数学I」の文字。貯は自分の手を見た。左手のゴリラのような血管は消え、ひょろひょろとした16歳の腕に戻っている。


「戻った……。高校1年生の春だ!」


感動に震える貯。しかし、隣の席から「カサッ」と音がした。 見ると、そこには新品の制服をピシッと着こなし、眼鏡をかけた「売野」が座っていた。


「……よお、旦那。今日からクラスメイトですね」 「売野ぉぉぉ! 貴様、なんで高校生になってまで隣にいるんだ!」 「仕様ですから。まあ、1万円で人生やり直し。お得でしょう? これから3年かけて、また私の商品を買ってもらわないといけませんからね」


売野はそう言って、教科書の間から「1万円で授業を5分早く終わらせる能力」と書かれた怪しいチラシをチラ見せした。


「ふざけんな! ここでも商売する気か!」


かつて、勉強も恋愛もパッとしなかった貯の高校生活。 しかし今回は、隣に「悪魔のセールスマン」が、ポケットには「(大人から見れば)安すぎるが(高校生には)高すぎる1万円」という絶妙な葛藤が同居している。


御得 貯の、高校生活編が幕を開けた。

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