1話 神社のおみくじで絶対に大吉が出る能力
プロフィール
・御得 貯
職業 アルバイト
年齢 20歳
売野に出会う前まではごく普通の青年だった。かなり不器用。
・売野
職業 セールスマン
年齢 25歳
基本は裏路地に潜んでいる。色々な秘密があるらしい。
御得「……いや、1万円は高いって。5,000円なら考えたけど」
御得 貯は、怪しげな路地裏で「セールスマン」を名乗る男、売野を前に腕を組んでいた。
売野「旦那、何を仰いますか。これがあれば人生バラ色、精神的勝者ですよ?」
売野が提示したのは、『神社のおみくじで絶対に大吉が出る能力』。 価格は税込10,000円。
御得「大吉が出たからって、実際に運気が上がるわけじゃないんだろ?」
売野「ええ。あくまで『おみくじの紙に大吉と印刷される』だけです」
御得「いらねぇ〜! 1ミリもいらねぇわ!」
しかし、貯はその日の夕方、結局1万円を支払ってその能力を買ってしまった。 理由は「明日の合コンの前に、なんとなく景気づけをしたかったから」という、自分でも呆れるほど安い理由だった。
翌日。貯は近所の「金稼神社」へやってきた。ここは「凶」が出やすいことで有名な、逆に縁起の悪い場所だ。
(見てろよ。ここで大吉を出せば、俺のメンタルは最強になるはずだ)
貯は賽銭箱に5円(これ以上は出さない)を投げ入れた後、100円おみくじの筒を振る。 ガラガラと音を立てて出てきた棒の番号を告げると、巫女さんが無表情に一枚の紙を差し出した。
【第○番 大吉】
「……よしっ!」
貯は拳を握った。確かに気分はいい。どれどれ、中身は……。
【願事】 叶う。ただし、叶った瞬間に「あ、これ別に欲しくなかったわ」と思う程度のこと。 【待人】 来る。ただし、金の無心に来る。 【失物】 出る。ただし、賞味期限が4日切れた納豆のパックの底から出る。 【学問】 安心して良い。名前さえ書けば、名前だけは正解になる。
「……嫌な予感しかしない大吉だな、おい」
内容は最悪だが、見出しはすべてポジティブだ。これがこの能力の正体。 「事実はどうあれ、表記だけは大吉」。
貯は納得がいかず、もう一度おみくじを引いた(200円の出費に血の涙を流しながら)。
【第×番 大吉】
【恋愛】 素晴らしい出会いがある。相手は100歳。 【商売】 利益あり。道端で1円拾う。 【病気】 治る。ただし、新しい別の病気が見つかる。
「これ、実質『大凶』だろ!!」
貯は叫んだ。周囲の参拝客が「あの人、大吉なのにキレてる……」とヒソヒソ声を出す。 そう、この能力の最大の弱点は、「大吉を引いて喜んでいる幸せな奴」という皮肉な目で見られるのに、中身が伴っていないという地獄のようなマヌケさにあった。
その後、合コンに向かった貯だったが、道中で犬のフンを踏み、鳥のフンを肩に受け、財布を落としかけた。 しかし、彼のポケットには2枚の「大吉」がある。
(俺は……大吉なんだ……。表記上は……最強なんだ……)
魂の抜けた顔でそう呟く貯。 結局、合コンでは「目が笑っていない大吉男」として気味悪がられ、収穫はゼロだった。
帰宅後、彼はセールスマンの売野に電話をかけた。
御得「おい売野! あの能力、返品だ! 1万円返せ!」
売野「おや、旦那。でも大吉は出たでしょう?」
御得「中身がゴミなんだよ!」
売野「中身まで保証するなら、10万円は頂かないと。1万円ですからね、そんなもんです」
貯は電話を叩き切り、財布を確認する。(さて、次はどんな能力を買おう)
貯の戦い(というか無駄遣い)は、まだ始まったばかりである。




