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それからキース様は毎日我が家にやって来るようになった。
毎日ほんのちょっとした贈り物を持って来てくれる。
お花を一本。人気のパン屋さんのパンだったり、本や刺繍糸。時には果物ひとつだったりした。
「俺の家は男兄弟で母は早くに亡くなったから女性を喜ばせる方法を知らないんだ。こんな贈り物嫌かも知れないが…」
「そんな事、すごく気持ちがこもっててうれしいです。あの…今の私にできる事と言えば刺繍や本を読むくらいで…これをキース様にどうかと」
先日貰った刺繍糸で彼のイニシャルを刺繍してみた。
これでも淑女教育の一環で刺しゅうは得意だった。
男性でもおかしくない色合いのグリーンのハンカチに彼の瞳の色に近い茶色の糸でイニシャルを刺繍した。
キース様はハンカチを嬉しそうに受け取ってイニシャルの刺しゅうを見入った。
「これを俺に?」
「あっ、ごめんなさい。男の人に贈り物なんて…迷惑だ「すごくうれしい。大切にするから」はい…」
ぎゅっと握られた手が力強くて温かくて…思えばラビン殿下にハンカチをプレゼントした時はこんなものはいらないと返されたっけ。
こんな甘い時間を過ごしたことさえなかったな。
月に一度のお茶会もほとんどすっぽかされてプレゼントを頂いたのは側近が選んで届けられた品ばかりだったと思う。
彼と一度でも一緒に出かけて買い物もしたかった。でも、それは無理だった。
「二人きりになんてなれないんだぞ。護衛付きで出掛けて楽しいのか?やめておけくだらん!」
なのに…イルネさんとは楽しそうに良く出かけていたわよね。
クッキーを焼いて渡そうとしたらメイドが慌てて取り上げて…
「そう言うのだめだって王妃教育で習わなかったのか?」
ラビン殿下に苛ついた声で冷たくあしらわれた事もあったわね。
胸の中に真っ黒い塊がつっかえたみたいに嫌な思い出が脳裏をよぎる。
「リザベル?気分でも悪いのか?」
「ううん。ちがう。ただ嫌な事を思い出して…キース様の事じゃないの。殿下は一度もこんな風に喜んでくれなかったから…戸惑ってしまって」
「ああ、何度もそんな事があったな。でも王子という立場からすれば仕方のない事でもあったかも知れないがやり過ぎだとも思った。でも、殿下がそんな態度でよかったと今なら思う。リザベル。もうそんな事を気にする必要はないからな」
「ええ、私ほんとに信じらないくらい幸せよキース様」
「俺も今も夢じゃないかって思ってるくらいなんだ。リザベル俺の頬を抓ってくれないか」
「もう、夢なんかじゃありませんよ」
私はキース様の頬を両手で挟み込む。
彼の琥珀色の瞳に熱がかごって熱い吐息が指先をかすめる。
「リザベル好きだ。誰よりもお前が好きだ。俺達婚約しよう」
「ええ…」
唇はそんな言葉を紡ぎ彼の顔が私の前に近づいてそっと彼が唇を合わせた。
そっと触れあうほどの口付けだった。
私はキースにのめり込んだ。