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その翌日私は自宅の屋敷に帰った。
幸いにもラビート侯爵家とキャッツ家は王都のタウンハウスにあって近いが歩いて帰るわけには行かなかった。
ダリアの父親は領地に行って留守で結局翌日もキースが駆け付けてくれた。
「あの…キース様。私歩けます」
「ばかだな。今無理をしてもっと悪くしたらどうするつもりだ?ここは言いから言うことを聞け!」
「そうよ。リザベル。無理はだめよ」ダリアも口をそろえて言う。
「…わかったわ。叔母様。ダリア。キース様。ありがとうございます」
お礼を言い終わる前に有無を言わさない態度でキースは私を抱き上げて馬車まで運び、馬車から自宅までも運んでくれた。
屋敷では母が迎えてくれた。
「キースってゴート家の令息だったわよね。まあ、こんなに親切な男性がいたなんて。ほんとに助かったわ。うちは父親は毎日忙しくて…さあ、いいからお茶でも飲んで行って」
母は上機嫌でキースにお茶を誘う。
「リザベルも一緒に。それで脚の痛みはどうなの?」
私は母の隣にキースは向かいの席に座った。
「ええ、かなり痛みは治まったみたい。ダリアの家で頂いた薬湯が良かったみたい。これはお医者様から頂いたものでもう数日飲むように言われたわ」
「そう、良かったわ。そう言えばキースは殿下の側近だったわね」
「はい、ですが殿下は今謹慎中でして俺達は第2王子の護衛に回されてるんです」
彼は困った熊みたいにもそっとそんな話をする。
(かわいい…)
「まあ、大変ね。殿下も少し周りの事を考えて頂かないと…それにリザベルは婚約者がいなくなって新たにお相手を探さなければならないから…」
お母様はしきりにキースに目配せしている。
(もう、嫌だ。もしかして私の婚約者にキース様を…?)
そう思った途端胸の奥が熱くなる。
頬に血が上り耳たぶがかっと熱くなってしまった。
「リザベル?どうした気分でも悪いのか?顔色が赤いぞ。もしかして熱でも…」
キースは向かいに座っていたが急いで立ち上がり私の額に手を当てた。
「ちがっ!これは…何でもありません」
「キース。あなた婚約者とか恋人は?」
「俺?いませんよ。俺こんな顔ですから女の子から敬遠されるみたいで…」
「あなたこの先はどうされるの?」
「もちろん騎士として身を立てるつもりです。実家にはすでに跡取りもいますしいずれは騎士隊長にでもなりたいと…」
「それなら好都合だわ。リザベルは王子の婚約者だったから諦めていたんだけど私は子爵籍を持ってることは知ってるでしょう?あなたさえその気ならリザベルと婚約してはどうかしら?」
「お母様。そんな話いきなりするなんて…それに私もう結婚はこりごりなんです。ほんとはダリア見合いに仕事もしたかったのに王妃教育で忙しくてそれに仕事なんてとんでもないって言われて…だからこれから仕事をしようと思ってるんです。キース様ごめんなさい。お母様ったらこんな話をしてしまって」
「いえ、とんでもありません。出来たらリザベルさえ良ければ婚約したい。ずっと憧れてた。でも君は殿下の婚約者だったから…あの、いや、こんな事言うのは…参ったあ。クッソ恥かしい」
キース様は顔を真っ赤にして俯いた。
私はそんなキース様を見て嫌ではなかった。
(私ったら婚約を解消したばかりなのに、もう別の男性に気が向くなんて。不謹慎だわ。こんなのだめよ。でも、キース様だったら信頼できるかも…)
「とにかく、婚約はすぐでなくていいの。しばらくお付き合いしたらどうかしら」
母の一言で私達は付き合うことになった。