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第9話

「これ……使ってもらえるかな?」


デービス様が小さな箱を私の前に差し出した。

いつもの私のお気に入りの席に向かい合って座って、さて本を読むか……と開いた拍子だった。


差し出したデービス様は少し恥ずかしそうにはにかんでいる。

私はその箱を手に持って、そっと蓋を開いた。

そこには綺麗なエメラルドのイヤリングが入っていた。


「これは?」


「ドレスに合うんじゃないかと思って。緑のドレスだって聞いたから」


確かにドレスは緑色。……そうデービス様の瞳の色と同じ色だった。

私がそのイヤリングをじっと見つめていると、


「母の形見だから、プレゼントする事は出来ないんだが、僕が持っていても使う機会がないからね。たまには、このイヤリングも外の世界を見たいだろうと思ってさ」



「でも……そんな貴重な物……」

正直、別に目利きな訳ではないが、これが高価な物だというのは分かる。


「いいんだ。母も喜ぶさ。夜会が終わってから返して貰えば良いよ」

ニコニコと笑うデービス様にあまり強く拒否するのも申し訳ないと思って私はありがたく借りる事にした。


「きっと、あのドレスにも合うと思います」


「そうか。色は聞いたんだが、見せて貰ってはないんだ。僕も当日楽しみしているよ」

デービス様の言葉に私も生まれて初めて夜会が楽しみだと思えた。


夜会当日。私よりメイドと母が張り切っていた。


「ドレス、良く似合うわ!ねぇ、そう思うでしょう?」

母は私の支度を手伝うメイドに同意を求めた。


「本当にそうですね。お嬢様は元々綺麗なお顔立ちなので」


「そうなの!本当は可愛らしいのに……眼鏡と洒落っ気の無さで地味に見えちゃって……」

と母は肩を落とした。……そんなに落ち込まなくても良いじゃない?と思わなくはないが、私は口を挟むのは止めた。


あれよあれよという間に仕上げられ、


「今日ぐらいは眼鏡を外しましょうね」

と母に眼鏡を取り上げられた。



「あっ!!」

つい手を伸ばして眼鏡を追いかけるも、母は眼鏡を自分の背に隠した。


「流石にドレスに眼鏡は合わないわよ。本当は本を読んだり勉強したりする時以外には必要ないんでしょう?」


「で、でも……」


「ほらほら次は化粧よ。あ~本当はこうして娘を着飾らせてみたかったのよ~」

と母は楽しそうにしている。私もあまりそれを邪魔するのも申し訳なくて、全てを任せる事を決めた。


そして最後に母は、


「これ、貸してあげるわ」

とエメラルドのネックレスを私の首に掛けた。


「こんな高級そうな物……」

私が恐縮すると、


「デービス様のお母様の形見のイヤリングにもピッタリよ。ね、ほら見てご覧なさい」

と母は私の背中にそっと手を当てて鏡を指差した。


「本当に……」


薄い緑色から裾に向かって色が濃くなるドレスにそのネックレスとイヤリングはとても良く映えた。


「メグ、デービス様がお見えよ」

終始笑顔の母がデービス様の来訪をウキウキと伝えに来た。



「やぁ、メグ!凄く綺麗だ……すっかり見違えたよ」


……見違えたって……。私ったら本当にいつもは地味なのね。女性として……少し反省だわ。


デービス様はの胸元には、私のドレスと同じ色のポケットチーフがある。


「あ……これ」


「うん。友人として参加するのに、まるっきりお揃いってのは不味いかもしれないけど、これぐらいならね」


一応私の婚約者であるフェリックス様への気遣いの様だが、私が身に纏うドレスはデービス様の瞳と同じ色。これは大丈夫なのかしら?


デービス様は母への手土産を渡し、完璧な挨拶をしてみせた。……フェリックス様とは大違いだ。



「気を付けて行ってらっしゃい。楽しんで!」

母は紳士的な振る舞いを見せたデービス様にすっかり心を許してしまった様だ。……いや、デービス様は普通なのだ。フェリックス様が普通じゃないだけで。




「マーガレット様!」

会場の入口で入場を待つ私達に声を掛けて来たのは、アイーダ様だ。

深紅のドレスがアイーダ様の黒髪をより一層美しく引き立てている。


「アイーダ様!それにゴードン公爵令息様」

私は身分が上である二人にカーテシーで挨拶した。デービス様も頭を下げ挨拶をする。


「あぁ、堅苦しい挨拶はいいよ。アイーダが君の話をしていて、会ってみたいと思っていたんだ。僕の事はジェフリーと呼んでくれたらいいから」


ジェフリー様は人懐っこい笑顔でそう言った。そして、デービス様に、


「ルーベンス子爵のデービスだね。はじめまして。色々と聞いているが、あの国は……まぁ、伝統を重んじる国だから、仕方ない。この国を好きになってもらえると嬉しいよ」

とウィンクしてみせた。


デービス様がルーベンス子爵の養子になった経緯を知っている様だ。きっと……多くは語らないがデービス様は苦労したのだろう。ジェフリー様のその言葉で私はそう理解した。



「僕にはこの国の方が合ってるみたいです」

デービス様もジェフリー様の意を汲んで頷いた。


アイーダ様は私の耳元で、


「ねぇ、デービス様って素敵な方じゃない」

と囁いた。


そして、ジェフリー様の腕を取り言った。


「私、実はマーガレット様に前に意地悪を言ってしまったの。『夏の夜会に参加するの?』なんて。私だって初めて参加するくせに……本当に嫌な奴だったと思うわ」


そんなアイーダ様にジェフリー様は、


「自分の悪いところを認められるのは素晴らしい事だよ。僕がやっと夜会に出席出来る歳になったからね、何なら君を待たせていた僕が悪い」

と微笑んだ。


二人の雰囲気がとても素敵で私が見とれていると、


「ジェフリー様は歳下だと思えないぐらいしっかりされてるね」

と隣のデービス様が私に囁いた。


「ええ、本当に」


夜会の前に何となく胸が温かくなる。すると、


「僕らの入場はもう少し後になるから、また」

とジェフリー様が私達にそう言うと、


「あ!そう言えば。ステファニー様は遅れるそうよ」

とアイーダ様が思い出した様にそう言った。


……忘れてた。そう言えばフェリックス様もこの夜会に参加するんだった。

私はワクワクした気持ちが少しだけ萎んだ気がした。

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