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第6話

「何だか解せないのよね。殿下の婚約者っていう立場を最大限利用しているくせに、フェリックス様まで手に入れようとしている様で」

私はそんなアイーダ様に、


「もしや……アイーダ様はステファニー様の事を?」


「苦手だわ。私も同じく公爵家の娘だから、顔を合わせる事は良くあったのだけど……。子どもの頃から大人の前では良い顔を見せて、その裏では猫や鳥をいじめていたもの」

その言葉に私は目を丸くした。


「あのステファニー様が?」


「ほら。貴女もそう思うでしょう?大多数の人間がそう思ってるの。ステファニー様は可愛らしくて優しくて、愛くるしい。それが皆の印象だけど私はたまたま目撃したの。

それからというもの、あの子の言う事は何だか嘘くさくて」


「驚きました。そんな事が……」


「貴女は私の言葉を信じるのね」

アイーダ様のその言葉に、


「??もちろんです。アイーダ様がそんな嘘をついて何の得が?」

と私は首を傾げた。


「子どもの頃そう言っても『まさか、あの天使の様なステファニーが?』って皆私の言葉を疑ったわ。それに、私が殿下の婚約者になれなかった腹いせにそんな嘘を言っているって言う人も少なくなくて……。いつしか私はそれを誰にも言わなくなった。

ただ、これだけは言っておくわ。私、殿下の婚約者の座なんて、これっぽっちも欲しくないの。私には立派な婚約者がいるのだから」


アイーダ様の婚約者は、ゴードン公爵のご嫡男だ。アイーダ様より二つ歳下で今年学園に入学してきた。

アイーダ様が歳上な事を、色々と言う人も居たらしいが、二人はとても仲が良かった。


「そう言えば、ジェフリー様は?いつもは一緒にお帰りになるのに」

私は今更その事に気付き、アイーダ様に尋ねた。


「ジェフリー様は先週から王都を離れているの。領地へ視察に。明日には帰って来るわ」


そう嬉しそうに言うアイーダ様はとても可愛らしかった。しかし、その顔は直ぐに曇る。


「フェリックス様がどんなおつもりか知らないけれど……もし婚約が解消されたりしたらどうするつもり?」


「そうですね……私も貴族の娘なので家の為に嫁ぐつもりでおりますが……。もっと女性が自立出来る手段があれば良いのに……とそう思います。そうすれば、私一人でも生きていける。フェリックス様を自由にしてあげる事も可能です」


「貴女……人が良すぎない?」


「ふふ。私は本さえ読むことが出来れば、それで良いんです。だって『本の虫令嬢』ですから」

と私が笑えば、


「貴女……知ってたの?そう呼ばれている事」


「もちろん。本当の事ですから。言い得て妙だなと感心しておりました」


「まぁ……貴女が気にしていないなら良いけど。でも……ごめんなさい。私も最初は面白がって、悪い事を言ったわ。貴女がどんな人か……知らなかったから」


「大丈夫です。アイーダ様のお気持ちはわかりましたから」


彼女は本当に根が悪い人ではないのだ。

皆が陰で面白がっているのを、彼女は私に直接聞いてきた。陰口よりもずっと清々しい。



カフェは思いの外楽しかった。アイーダ様も楽しそうにして下さっていたのは、私にとっても意外な事だった。


「マーガレット様って……お話面白いのね。博識だし」


「全て本の知識です。丸覚えしてお話ししていただけで……私、口下手ですし」


「あら?そんな事誰か言ったの?」


……私が口を開くたび私の顔を睨んだ人物が居た……フェリックス様だ。私はその目を直接見るのが怖くて……眼鏡を外さなくなった。正直、眼鏡があると私とフェリックス様との間に壁が出来たようでホッとするのだ。


「いえ……。直接そう言われた訳ではないんです。多分、私の話なんて面白くないんだろうなって……」


「そんな事ないわ。私も公爵令嬢として歴史を学んだけれど、貴女が話してくれる歴史の方がずっと面白かったし、ためになったわ」


そうアイーダ様に言われて、私は嬉しくなって頬が緩むのを抑えられなかった。



アイーダ様に屋敷まで送ってもらって、何となくウキウキと楽しい気分で家に帰り着いたのに……私は今、ある手紙を前に暗い気持ちになっていた。


今日は図書館に行かなかったので、借りてきた本もない。珍しくさっさと課題に取り掛かろうと思っていたのに……。


「どうして急にお茶会をしなきゃならないのかしら?」


私はその手紙……フェリックス様からの手紙を穴が開く程見つめていた。

その手紙には一言

『定例のお茶会を催す。明日、学園が終わったらカフェに来い』

とだけ書かれていた。カフェの名前も書かれているが、今日、私とアイーダ様が訪れたカフェだ。


前回のフェリックス様とのお茶会は一ヶ月半前。いつもなら、三、四ヶ月に一度だから、まだまだ先の筈なのだが……。


「はぁ……」

気が重くなる。明日も図書館には行けそうにない。




学園が終わり、私は昨日も訪れたカフェへと足を向けた。


昨日はアイーダ様の馬車に乗せて貰ったので、然程遠いとは思っていなかったのだが、歩くと中々の距離がある。……足が重いのはカフェが遠いからか……それとも今から会う人のせいか……。


本ばかり読んでいる私には良い運動になったが、カフェに到着する頃には少し疲れてしまった。

素直に自分の家の馬車を用意すれば良かったと後悔しても、もう遅い。約束の時間を少しだけ過ぎた私は、腕を組み、苦虫を噛み潰した様な顔でふんぞり返っているフェリックスの姿を認めて、逃げ帰りたくなった。


(怒られる……)

そう思いながら、早足にフェリックス様の前に立つと、私は素直に頭を下げた。


「遅くなり申し訳ありません」


「遅い!!道草でも食っていたのか?」



やっぱり怒られた。



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