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【書籍化決定】本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす  作者: 初瀬 叶


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第52話

「久しぶりだね、マーガレット」


「お久しぶりです。ハウエル侯爵」


私が腰を落として挨拶すると、


「もうすぐ家族になるんだから、そんな堅苦しい挨拶は無しだ」

と侯爵は少し口角を上げた。


フェリックス様はお母様であるハウエル侯爵夫人に瓜二つである為、騎士らしく体躯は良いが、顔は意外と柔和だ。ハウエル侯爵とフェリックス様の体つきは良く似ているが、何と言っても顔は真逆。侯爵の顔つきはかなり厳つい。


「あとは……宰相を待つだけか」


今回の謁見に呼ばれたのは、我がロビー伯爵家、ハウエル侯爵家……そして……


「皆様、お揃いで」

そう言って入室して来たのは、アンダーソン公爵とステファニー様だ。


宰相は父と私をチラリと見ると、


「おや?部外者が居る様だ」

と半笑いでそう言った。


「あら、お父様。部外者じゃありませんわ。こちらと婚約解消して、私と改めて婚約を結ぶのですもの。一堂に会せば、全てが今日済むというもの。合理的だと思いますわよ?」

ステファニー様は口元を扇で隠した。扇の下ではきっとニヤついているのだろう……どうしてこんなに自信があるのかしら?ある意味羨ましい。


そう言えば夏の夜会で『私が主役だ』とステファニー様が言っていた事を思い出す。あの時も私は自分を脇役だとしか思えなかった。

その考えは今もあまり変わらないが、少なくとも、フェリックス様の目には私がヒロインとして映っている様だ。

しかし、恋愛小説のヒロインと私を重ねるのは、そろそろ止めて欲しい。ヒロインと同じような反応が貰えないからと、歯の浮くような台詞を何度も何度も繰り返すフェリックス様に、正直困る事も……。いや、せっかくの彼の努力に水を指すのは止めよう。放置されるよりマシだ……多分。


アンダーソン公爵親子の会話に不快感を示した人物……それはハウエル侯爵だった。厳つい顔がますます厳つくなる程、眉を顰めた。


「俺の与り知らぬ所で妙な事になってるな。我が息子、フェリックスの婚約者はここにいるマーガレット・ロビー嬢と記憶してるんだが?」


「そんなもの……どちらを選ぶほうがメリットが大きいかなど、考えなくても分かるだろう?」


相変わらず小馬鹿にした喋り方の宰相に、フェリックス様の柔和な顔も険しくなった。



しかしフェリックス様が反論する前に、ハウエル侯爵がすかさず口を開く。



「確かに。考えなくても答えは明白だ」


「ふむ。侯爵なら分かってくれると思っていたよ」

宰相はしたり顔で頷いた。



「お前の馬鹿娘を選ぶ男は居ないって事は確かに明白だ」


ハウエル侯爵の放った言葉に、そこに居た皆が一瞬固まる。


すると、宰相が顔を真っ赤にして怒りだした。


「お前!!なんて失礼なんだ!!」


「失礼?失礼なのはお前達の方だろう?俺が頭を下げて取り付けた婚約にケチをつけた」


ハウエル侯爵の言葉に私は思わず父の顔を見た。


「頭を下げた?」


「まぁ……。うちとしては願ったり叶ったりの相手だったから、断るという選択はなかったんだ。……途中は何度もフェリックスの態度に断れば良かったか?と考えたがな。だが侯爵に『是非』と言われて頭を下げられたのは本当だ」


何故そんな?と思った私は、ついハウエル侯爵の顔を見つめた。


しかし侯爵は宰相と睨み合っている。


「き、貴様……っ!!自分の立場が分かっているのか??」


「立場?」


「お前など……!お前など、団長に言って解雇させてやるからな!」


二人の言い合いがヒートアップしている。ついハラハラしてしまう。


「団長に言って?なるほど、言えば良いんじゃないか?今すぐ」


「グヌヌ……本当にいいんだな?!」


「良いと言ってる。ほら言えよ『ハウエルをクビにしろ!!』ってな、ほら」


侯爵が大袈裟に手を広げてみせた。そのおどけた様な態度が宰相を煽る。


「後悔しても知らないからな!!この後すぐ、団長の所へ行って……」


「後である必要はない。俺が団長だ。ほら言えよ」


ハウエル侯爵の言葉に私も父も……フェリックス様も驚いた。もちろん宰相とステファニー様も。


「お前が……団長?!」


「そうだ。どうせ宰相って立場や公爵って立場を振りかざして自分達の思い通りに事を進めようとするだろうと思ってな。ならば俺も立場を利用するだけだ。団長をクビに出来るのは陛下だけだ。ほら?どうする?」


「……どうして……」


宰相の呟きにハウエル侯爵は淡々と答える。


「団長の打診など受けるつもりはなかったが、可愛い息子の為だ」


「父……いや、団長。何故先に言ってくれなかったんです?」

フェリックス様が侯爵にそう尋ねる。ハウエル侯爵はフッと笑うと、


「決まったのはついさっきだ。言う暇が無かっただけだよ」

と言ったが、フェリックス様は不満そうに、


「嘘つけ……驚かせたかっただけのくせに」

と呟いた。



私は驚く事ばかりで頭が追いつかない。


すると……、


「お!盛り上がってるなー!」

とその部屋に入って来たのは王太子殿下だった。


私達は一斉に礼をとる。


「あー、頭を上げて。そんな畏まらなくて良いよ。今日は皆で楽しく話をしたくってさ」


殿下の軽い雰囲気がこの場に似つかわしくない。


「楽しい話など、ありませんよ!!ここには自分の立場や身分を考えない非常識な奴ばかりだ」


宰相は先程の出来事を引き摺っているのか、殿下にもぞんざいな物言いだ。


殿下の目がキラリと光る。……獲物を見つけた獰猛な獣の様で、私は少し恐ろしかった。


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