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【書籍化決定】本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす  作者: 初瀬 叶


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第30話

「お話ですか?」

隣を歩く長身のサーフィス様を見上げる。長く伸ばした銀髪が一つ結びで風に揺れていた。


「うん。……何から話そうか……。そうだな……僕の友人の話をしよう」

ちょっとだけ思い出し笑いの様に微笑んだサーフィス様が話し始めた。


「僕は前にも言ったように、ちょっと複雑な家庭環境に居た。そんな僕がこの国に来て、ある男と会った。そいつは騎士を目指していてね。何となく威張った男だった。だが話してみると、結構いい奴でさ。

だけど彼には少しだけコンプレックスがあった。高い身分に生まれたくせに、身分に拘る妙な所があったんだ。話を聞いて……ちょっとだけ分かる気がした。僕も実家が没落して……色々と嫌な思いをしたからね」

その時を思い出したのか、サーフィス様は悲しそうな、痛そうな表情を浮かべた。


「大変な思いをされたのですね」


想像する事すら出来ないが、きっと辛かっただろう。そう思った私はつい口に出していた。


「まぁ……ね。若い時は。今は逆に自由だと感じてるけどね。好きな事が出来る。

で……だ。その男と僕は友達になった。全く性格も真逆だったが、何かと気が合った。歳は少し離れていたが、弟の様に思っていた。

その友人には婚約者がいてね。大人しくて少し地味だが、キラキラした瞳で本を読む。その横顔が凄く可愛い婚約者だ。友人がその婚約者に夢中なのが理解出来た。けれど……その友人は婚約者を全く放置していたんだ」


………おや?そう思ったが私はサーフィス様の話の続きを待った。


「理由を訊いても秘密だと言われた。僕は何度か苦言を呈したんだがね。でも彼が婚約者の事を想っているのは知っていたから、それ以上言えなかった。そんなある日彼からある事を頼まれた。彼女が好きそうな本を教えてくれって。

お!彼女にプレゼントでもするのか?と思ったんだが……僕が教えた本を奴は図書館に寄贈したんだ。訊くと彼女へのプレゼントは花束と決めてるからって訳の分からない事を言っていたな」


「あの……そのご友人って……」


「フェリックスって言うんだ。君、知ってる?」

とサーフィス様は少しいたずらっぽく笑った。


「ええ。フフフッ。一応知ってます。サーフィス様はフェリックス様とお友達だったんですね」

私も笑って答えた。


「そうなんだ。知り合ってもう七年になるかな?あいつは……本当に不器用でさ。やる事がズレてるし、訳がわからないけど……悪い奴じゃないんだ。この三年間で、図書館に寄贈した本は数百冊になるよ」


「数百冊?!そんなに?!」


「そうなんだ『今日はこんなジャンルの本を読んでいたよ』と教えたら翌月にはドン!とそのジャンルの本が贈られてきたよ。直接君にプレゼントすれば、君は喜んだだろうにね」

そうサーフィス様に言われて私は心の中で『数百冊もプレゼントされていたら、本当に『家の床が抜ける!』って父に怒られただろうな……と思って私は逆にホッとした。


「マーガレットに謝らなきゃなって思ってたんだよ」


「謝る?何故です?」


「フェリックスとの事を黙っていた事だ。僕は別にだからと言って君を見張っていた訳じゃないんだが」


「それなら別に謝る必要はないじゃないですか」


私はクスクス笑う。サーフィス様が謝る様な事じゃない。


「実はフェリックスに怒られてね」


「怒られた?」


「君とデービスが夏の夜会に行っただろう?あれでさ」


「どうしてサーフィス様が怒られるんです?」


「僕は君とデービスが仲良くしてる事なんて一つも言ったことがなかったんだ。まさか君が夏の夜会に男連れでやって来るとは思って無かった奴はかなり焦ったみたいでね」


その時を思い出して我慢出来なくなった様にサーフィス様は吹き出した。


「ご自分はステファニー様とご一緒してるのに?」


「本当にそうだよな。でも、君がまさか夜会に来るなんて思ってなかったらしいよ。デービスと君が何処で出会ったのか心配になって僕に尋ねてきたから、あっさり『図書館だよ』って答えたら、怒られた」

サーフィス様はそう言って肩をすくめた。


「まぁ……私が男性と出会うなんて学園か図書館か本屋ぐらいしかありませんから」


「それからあいつが考えた事といったら……君を図書館に行かせない事だったんだから、本当に馬鹿だよなぁ」


「まさか……あのお茶会……」

私は夜会の後、毎日の様にフェリックス様にお茶会の招待を受け、直前にキャンセルされたあの時を思い出していた。


「思い当たるだろ?君に行くなとも言えず、かといって毎日側にいる事も出来ず……奴の考えた苦肉の策さ。まぁ……許してやってくれ」


「フフフ。サーフィス様ったらフェリックス様の保護者の様ですね」


「あー、まさにその気分だよ。その上、あれからは君を見張れって言われた……いや、勘違いしないでくれよ?僕はスパイの様な真似はしていないから。君が図書館で過ごす時間は君の宝物だ。それを邪魔したくなかったからね。……デービスとの会話で婚約解消の話が出ていた時は焦ったが」


あの時……そう言えばデービス様が『スパイが居る』と言っていたが……あれはサーフィス様の事だったのか。デービス様はサーフィス様とフェリックス様の関係に気付いていたのか。彼の観察眼に恐れ入る。


「デービス様は薄々サーフィス様とフェリックス様の関係性に気付いていたかもしれません」


「彼は……きっと幼い頃から他人の顔色を窺ってたんだろうな。彼も複雑な家庭で育った様だから」


「そうですね。でもデービス様の観察眼はデービス様がこれから小説家になるのに、きっと役立ちますね」


「ほう……デービスは小説家を目指してるのか。今からうちの出版社で唾でも付けとくかな」


そう言ってサーフィス様は笑った。


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