13.エピローグ
本間と“瑠衣美豚”の話をした日のことである。
カフェを出て二人で駅へ向かって歩道を歩いていた。カフェを出たころから天気は一転し雨がパラついていた。
その時、前方の雑居ビルから一人の太った女性が急ぎ足で出てきて、歩道をズカズカと横切って行った。これまで本間と“豚”について話していたからか、その太った女性が気になり観察していた。
その女性は私から見ても太っていて、ストライプのジャケットにド派手なブラウス、また派手な化粧が印象的であった。
芸術家か何かなのか、一般人には見えず、おしゃれというには浮世離れしたような感じであった。まるでその格好はその女性だから似合うといった感じで、同じ太った女性としてはある意味、素敵だなとも思った。
その女性は通りでタクシーを止めようとしていた。しかし、手を上げかけてはいるものの、赤や黄色のタクシーには手を上げず、見送っていた。何となく不思議な人だなとさらに観察し眺めていた。
その時、私たちから見て左側の雑居ビルから白髪の男性が早歩きで出てきた。その雑居ビルは、通りでタクシーを拾おうとしている先程の女性が出てきたビルと同じビルであった。
白髪の男性は、歩く私たちに対して左側から垂直に勢いよく進んできた。男性は進むというより突っ込んできた。
私の左側には本間がいた。本間は白髪の男性に気づき前を譲った。白髪の男性も本間を避けようとしたのか、退いた本間側に体を向けた。
本間は白髪の男性を避けようと再び前へ出た。すると白髪の男性も本間の方へ体を向けた。
お互いに譲り合いお互いを妨げているような格好になった。本間と白髪の男性は、お互いに悪かったタイミングに笑みを浮かべて会釈し合った。
そして、白髪の男性は通りへ出て行った。そこには先程の女性が黒いタクシーを停めて待っていた。彼女は白髪の男性の妨げとなった我々を不快感たっぷりにキッっと睨んでいた。
それはまるで「お面のオカメのメンチきり」だと後に本間は例えて笑っていた。
そして、彼らが出てきた雑居ビルから、スーツ姿の男性二人が急ぎ足で傘を持って出てきた。彼らは私たちの後ろを抜けるとタクシーへ傘を届けていた。
「早くしなさいよあなたたち!社長を最優先しなさい!」
女性はタクシーに乗りかけながら届けられた傘を掴むと、スーツ姿の男性二人に一喝していた。
タクシーは男性二人を通りに残して走り去っていった。私たちはその姿を呆然と眺めていた。
そして、黒いタクシーは走り出してすぐ前方の信号に捕まり、ブレーキランプを赤く光らせて停車した。
信号待ちしているそのタクシーを見つめながら、本間は言った。
「努力に、苦労に、化粧に、何重ねても化けの皮じゃな...。人間中身だよ」
完




