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僕の親友の勇者がTSして、女神さまになる話  作者: 風親
第1章 魔族の国脱出編
8/50

女たらしなウテン卿

「ようこそ、いらっしゃいました」

 館の中に入ると、当のウテン卿がまるで僕たちが長年のお客であるかのように両手を広げて歓迎してくれていた。

 色々な噂話から想像していたウテン卿は、体も大きく太っていて、好色を隠さないいかにもいやらしいおじさんというイメージだったけれど、実際に会ってみると背は高くすらりとしていて、仕事ができて口ひげが似合うナイスミドルなおじさんという印象だった。

(魔族の国まで来て商売をするからには、やはり仕事ができる人だろうしね)

 僕は手強そうと気を引き締めると同時に欲まみれではなさそうなことには安心していた。

(うん、安心か?)

 どうだろう、美少女を見て惑わされてくれるくらいが楽でいいのかもしれない。

「はじめまして、マーティ・ウテンです」

 館の主は部屋へと招くと、簡潔に挨拶をした。ここまで訪ねてきているからには、自分のことは知っているのだろうという判断のようだった。

「お時間をいただき感謝いたします。私はキーリー・メリングと申します」

 僕は緊張を隠して背筋を伸ばして、握手を交わした。

 まあ、無理をしても分かってしまうだろう。あくまで助けを求める若造でいいと開きなおっていた。

「こちらは、エラと申します。この家のことは、もう全部彼女にお任せしています」

 ウテン卿がそう紹介すると、さきほど門まで走ってきてくれたメイドさんがお茶を入れてくれていた。

 にこやかに会釈をする姿は慈愛に満ちたお姉さんという感じだった。

 他にも館には何人かいるようだったけれど、このエラと紹介されたメイドさんは少し特別な存在だったんだなとさきほどのやりとりもどこか納得していた。

「私の妻のようなものです。いや、もう妻です」

 ウテン卿のその説明に、当のエラさんは眉間にシワを寄せながら『そんな紹介、初耳ですけど』という表情をしていた。

「気をつけた方がいいですよ。このおじさん、女性を口説かないと死んでしまう病気ですから」

 美少女なエイヴェリーに向けてささやくように、でも僕やウテン卿にも聞こえるくらいの音量で忠告するとエラさんは少し下がって待機していた。何事もなく無表情を装っていたけれど『妻』と紹介してもらったことにちょっと嬉しそうな口元だった。

 ただ、どうやら女好きという噂は本当のようだ。

(警戒しなければ……。警戒? 警戒って何にだ?)

「さて、本日はどうされましたか? 船に乗りたいとのことですが……」

 また振られてしまったよと語るおじさんは、表情こそ和やかだったけれど次の瞬間には商人の顔になり僕たちのことを値踏みするように、僕とエイヴェリー、クレイグ、じいさん。そしてエイヴェリーの腕に抱かれている赤ん坊の様子を確認したのが伺えた。

(どうする? 本当のことを話すか? 予定通りに演技を続けるか?)

 僕は、横目でエイヴェリーを見て、意思を確認しようとする。

 ウテン卿は想像していた以上にやり手の雰囲気を漂わせているともに、僕たちが元凶だったとしても協力してくれそうな雰囲気もあった。

「私たちは魔族にさらわれた子どもを交渉して取り戻す仕事をしているのですが……」

 エイヴェリーはそう切り出した。

 どうやら予定どおりにいくらしい。いい人っぽいから素直に助けを求めてみようかなんて僕の考えは甘いと言いたそうだった。

「『仕事』ですか?」

 ウテン卿はさすがは商売人らしくその言葉に反応していた。おそらくそこに食いつくのはエイヴェリーの思惑どおりなのだろう。

 それと同時に、ウテン卿はただの綺麗な幼妻としか思っていなかったエイヴェリーに鋭い視線を向けつつ何者だろうかと値踏みしているようだった。

「失礼しました。まずは自己紹介を……私はエイヴェリー・ランプリングと申します。ソリメム地方の貧乏な貴族の娘で、今はこちらにいるポロア様の神官であるキーリーの婚約者です」

 まあ、性別と僕たちが婚約者だということ以外は嘘は言っていないな。僕がまだまだ見習いだということは隠してはいるけれど。

「それはそれは、神官さまにこのような美しいフィアンセがいるなんて羨ましいですな」

 ウテン卿は、本当に口を開けば女性を口説かないと気がすまないタイプの人なのだろうという気がした。

 それと同時に僕の方を見たけれど、曖昧に肯定しているだけの僕にあまり興味もなさそうにエイヴェリーの方に向き直っていた。

(しまった。もうちょっといいことをいうべきだったか……)

 見捨てられてしまったみたいで、僕は少し焦ってしまった。

「以前、魔族にさらわれたポロア信徒の子どもを助けたところ、他の方からも助けて欲しいという依頼を受けるようになりましてランプリング家の『仕事』として受けるようになりました」

 焦る僕を横目に、エイヴェリーは流れるようにさっき考えた設定で話を続けていた。子どもを助ける依頼が何件かあったというのは本当ではある。

「ふむ。ソリメム地方の……冒険者のような商売ということでしょうか」

 ウテン卿は、後ろのクレイグやじいさんに視線を向けながらそう言って考えこんだ。この人がソリメム地方にたまたま詳しければランプリング家などすでになく、色々と不自然だとばれてしまうので、僕は緊張しながらウテン卿の顔色をうかがっていた。

「そうですね。ただ、今は強引に取り戻しに行くのではなくほぼ交渉です。魔都まで言って魔族の有力者に付け届けをして、子どもを返してもらうように説得してもらいます」

 ウテン卿はソリメム地方には詳しくないようなので、僕もエイヴェリーも内心ではほっとしながら話を続けた。

「なるほど……そこで依頼者との差額で『商売』と……。ちなみに魔族の有力者とは例えばどなたですか?」

「多いのは、ムルミャム殿ですね」

(宿敵じゃないか!)

 僕は一瞬吹き出しそうになってしまった。

 この間も殺し合った魔族の幹部の名前をさらりと出すエイヴェリーの度胸には思わず感心してしまう。

「ムルミャム殿。あの御仁がそのような交渉を……。確かに国境付近への影響は強いでしょうしな」

 ウテン卿は驚きはしつつも納得してくれていたようだった。エイヴェリーが本当の話も混ぜつつ、ウテン卿があまり詳しくはなさそうな地方や魔族の話で嘘をついた成果だった。

 一山を乗り切ったという気がして、密かに僕はほっと胸を撫で下ろしていた。

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