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僕の親友の勇者がTSして、女神さまになる話  作者: 風親
新しい魔王と女神の誕生編
50/50

エピローグ 女神の子どもたちの冒険

「間違いありません。彼女は女神さまです」

 大神官セスさまは、エイヴェリーの頭に手をかざしながらそう認めた。

「おおー」

 こんな状況でなければ、詐欺師か酔っぱらいの発言にしか聞こえないんじゃないだろうかというその言葉にも周囲の人々は大きくどよめいた。

 誰もがそれだけ不安だったのだろう。

 その認定の儀式は、教会が壊れていることもあるけれど、わざと町の開けた場所で行われた。

 マーロンさまの兵だけでなく、町民にも神さまはいると安心してもらうためだ。

「キーリー。では、治癒を」

 セスさまはそう言って、僕を招きよせた。

「は、はい」

 僕は傷ついた町民に対して、神の……つまりエイヴェリーの力を借りて治癒をしてみせた。

「おお、治っていく!」

 つい数日前までなら一応は感謝はされても、驚きはされなかったこの治癒行為に、町民たちは歓喜していた。

「本物だということがお分かりいただけたでありましょう」

 セスさまは、得意げに町民に語りかけていた。

(セスさまは、ポロアさまから何か聞いていたのかな……)

 特にショックも受けることなく、エイヴェリーを新たな神さまに祭り上げようとしているように見える。

 町の人も治癒さえできれば何でもいいのかもしれないけれど、エイヴェリーのことを称えていた。

(それでも、やはり目の前の人間を神さまですと布教するのは胡散臭い宗教みたいな気がしてしまうな)

 エイヴェリーは、特に何も言わずに小さく手だけを振っていた。

(いいのかな。これで……ポロアさまも満足してくださるのかな)

 やはり美しい女神の存在は絶大だった。エイヴェリーに見惚れる人々は徐々に増えていくのを感じていた。




 それから、十五年の時が流れた。


 教会で、僕たち夫婦はスディニアを見送る日を迎えた。

 ポロア教あらため、エイヴェリー教となった教会は修理した際に少しだけ立派になったけれどずっとスレネスの町にあり続けた。

 セスさまはあっさり引退してしまわれたので、僕が今や大神官となってエイヴェリー教を夫としてエイヴェリー本人を支えている。

 紆余曲折はありながらも、美しい女神とともにこの教団とスレネス領をなんとか維持することに貢献してやっとここ数年は落ち着いてきたところだった。

 そんな状況の中、僕たち夫婦は教会の入り口で出兵する若者に言葉をかけていた。

 

「義父上。義母上。それでは行ってまいります」

 スディニアは、眩しいばかりの立派な鎧をまとった若き戦士の姿だった。

 王国の聖騎士とか名乗っている人たちより、こちらこそが本物の聖騎士なのだと惚れ惚れしながら見ていた。

 

 あの旅で助けた赤ん坊スディニアを、結局、僕たち夫婦で引き取って育てた。


 スディニアはここ数年で、あっという間に身長は僕を追い越してしまった。

 肩幅も広くもう僕より強そうなのだけれど、顔つきは穏やかで優しげで僕に似ているとよく言われている。

 血は繋がっていないのだから、それほどで似てはいないだろうと僕は思うのだけれど、周囲の人に似ていると言われるたびに嬉しそうに微笑むこの息子のことは可愛くてしかたがない。


 「マーロンさまのいうことをちゃんと聞いてね」

 

 女神であるエイヴェリーも、この息子のことがずっと可愛くて仕方がないようで、初陣に臨むのこの若い騎士に対して、子供の時のように細かく注意していた。

 最近は、働き過ぎてしまうこととありがたみを増したいのもあって、あまり人前にはでないようにしているエイヴェリーもこの日ばかりは人前で普通のお母さんの姿をみせていた。


 特に大々的な出陣のパレードというわけではなく、町の若者が何人か新たに遠征軍に加わるのを見送る会だったのだけれど、エイヴェリーとスディニアの姿を一目みたいと遠くから眺めている人々が多く溢れていた。


 スディニアは、孤児であり、マーロンさまの養子にはならなかったので遠征軍では教会から派遣されるただの一兵卒なのだけれど、すでに注目を集める存在だった。

 

 マーロンさまに教育を受け、クレイグに剣を教わり……あと、たまにこっそりとエイヴェリーが直々に魔法を絡めた戦い方を教えていた。

 その教育の賜物で、もうスディニアは大人の兵たちでも手に負えない強さと頭脳の明晰さをみせていた。


 マーロンさまが視ていた未来の予言の話は、一部の人しか知らず普通の軍人や町民は知らないのだけれど、マーロンさまがこの若者が成長するのを心待ちにしているのは誰にも隠さずに広まっていたので、スレネス領の誰もが一目置く存在になっていた。


「気をつけてね。チェスラスもあなたのことはずっと監視しているから」


 エイヴェリーはそう諭す。

 普段は若者らしく怖じ気づくことがないスディニアも、魔王に特別視されていると聞くとさすがに身震いして緊張を増していた。

 

 ここ十年で魔族と人類の攻防は激しさを増した。

 

 魔族をまとめあげ、新たに強大な魔王となったチェスラスは、積極的に人類側へ侵略を繰り返していた。

 神との繋がりを度々断絶されて、足並みの揃わなかった人類だったけれど、マーロンさまの元で徐々に体勢を整えて反転攻勢ができるようになっていた。

 ただ、エイヴェリーは呪いにも似たチェスラスの技で、このスレネス領から出ることはできなかった。

 それでも、魔族の国からそれほど遠くない人類側の真ん中の土地に、難攻不落のこの町があることは人類の大きな支えであり、希望になっていた。


「大丈夫。お義兄さまが無茶をしないように私がちゃんと見張っていますし、私が守ってみせます」

 

 スディニアの後ろからひょこりと顔をだした神官の格好をした少女は自信たっぷりにそう言った。

 僕たちの実の娘であるネーヴだ。

 

 スディニアとは二歳差で、左右で結んでいるけれど赤い髪と可愛くもはっきりとした目が凛々しいのはエイヴェリーとよく似ている。

 でも、自信たっぷりに胸に手を当てて、目を輝かせて宣言する様子は、まだどこか幼い子どもの無邪気さが残っていると僕だけでなく誰もが思っていた。


「ネーヴは着いてこなくっていいから、お義母さんやお義父さんを守ってあげて」


 今までとても神妙な表情だったスディニアが後ろを振り返ると、ちょっと情けなく我がままな妹に振り回されるお兄ちゃんの表情になっていた。

 

「お母さまは、この土地じゃ無敵だもの大丈夫。お義兄さまの方が心配です。あと悪い女や遊びに巻き込まれないか、見張っておきませんと。クレイグ将軍にも言われておりますから」


 ネーヴのその言葉に、町の人たちからはスディニアを尻にひくようなおませな小さな妹に対して頼もしいと称賛するような声が起きていた。


「マーロンさまからも、ぜひ着いてきて欲しいと言われておりますから。もう抵抗しても無駄です。ご一緒にまいります」


 勝ち誇ったように、ネーヴは言う。

 こういう表情はエイヴェリーともちょっと違うおませな女の子ならではだなあと思う。


 マーロンさまは、ネーヴのこともとても歓迎していた。

 立場上は神官見習いなのだけれど、現女神さまの実の娘なので、どうしたってそりゃあ加護は手厚い。その上、いつの間にかネサニエルじいさんに魔法を教わっていたらしい。じいさん最後の弟子として、『すでに試練にも合格した。教えることは何もない』とじいさんは嬉しそうに言っていた。

 特に『変化』と『魔法人形』に関する魔法は、あまり得意にしている魔法使いも少ないのですでに大陸でもトップの魔法使いらしい。

 

 マーロンさまは、父親である僕よりも先にその情報を掴んでいた。

 さすがすぎる。

 

『あの娘は人類側の切り札になりえます』とまで言われてしまうと、不安はあったけれど送り出すことに決めた。


「あ、そうだ。もし、二人でマクワース国に行くことがあったらマリア女王陛下にこれを渡して。力を貸してくれると思うから」


 僕はスディニアにそう言って、王家の印のついた封筒を手渡した。

 マーロンさまと一緒に行動しているうちは問題ないと思うけれど、もし独自で動くようなことになった時のために渡しておいた。

 

「え? お父さま。マリア女王陛下とお知り合いなの?」


 後ろから覗き込んだネーヴの方が驚きながら目を輝かせている。

 女王となったマリアさまは今や大陸中の女性にとって憧れの存在になっているらしいとは聞いていた。


「ええ。スディニアは赤ん坊の頃に抱っこしてもらったこともあるのよ」


 エイヴェリーが僕の代わりに懐かしそうに笑みを浮かべて答えてくれる。

 

「え? 私は?」


「残念。ネーヴはまだ生まれてなかった頃の話ね」


「ずるい。お義兄さまばかり!」

 

 ネーヴは本気で地団駄を踏んで、周囲の大人たちに楽しそうに笑われていた。


「ありがとうございます。何かあったら頼りにさせていただきます」

 

 スディニアは大事そうに手紙を受け取ると大事にしまいこんだ。

 そのまま片膝をつくと、僕たちに頭を下げてお礼を伝えようとする。


「義父上。義母上。身寄りのなかった私を育てていただき感謝しております」


「なんだよ。そんなに改まって、もう」

 僕はそう照れ隠しに言いながらも、目頭が熱くなって今にも泣きそうになっていた。


「必ずや宿敵チェスラスを倒し、義母上が自由に旅ができるようにしてみせます」


 力強くそう宣言してくれた。

 ああ、もう涙がでてしまう。


「ありがとう。でも、オレ……じゃなかった私は、キーリーと一緒ならこの土地でも全然困ってないから、そんなに気にしないでね」


 エイヴェリーはそう言いながら、僕の腕にしがみついた。

 そんな子どもたちの前で……と照れてしまう。

 まあ、それは嘘ではないだろうけれど、スディニアが変にこだわって無理をして欲しくないからそう言っているのだろう。


「私たち二人なら勝てない相手なんていないから。お母さまはお父様と旅行に行く準備をしておいて」


 ネーヴも腰に手を当てながら頼もしくそう宣言していた。


「ネーヴ。油断しちゃ駄目。チェスラスは、お母さまでも勝てなかった相手なのだから」


「は、はい」


 調子に乗っているネーヴをたしなめるように、エイヴェリーは鋭い声で人差し指を立てながら注意するとネーヴも真剣な表情で受け止めていた。


「無事に帰ってきてくれるのを楽しみに待っているから」


 そう言ってなんとか涙をこらえていたエイヴェリーも、二人の姿が小さくなると、僕の腕にしがみつきながら大きな声で泣きながら見送っていた。








 僕たち夫婦が北の大地に旅をすることになるのは、これから五年後のことだった。

 

当作品は、この話で最終話になります。

ここまで読んでいただきありがとうございます。



ブックマークや評価、感想を頂けると嬉しくて新作や続編の励みになります。


よろしくお願いします。

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