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僕の親友の勇者がTSして、女神さまになる話  作者: 風親
第2章 王国での待ち時間編
26/50

元通りの日常からは程遠く

 いつもの酒場、いつものテーブル。

 なんとなく僕たちのパーティの待ち合わせ場所みたいになっている窓際の席で、僕は赤ん坊を籠に入れて寝かせつつ遅い朝食を食べていた。

 今朝はエイヴェリーが早くから仕事に行ってしまったので、寂しかったのか珍しく赤ん坊も何度も泣いてぐずっていたので落ち着いたのはかなり日が高くなってからになってしまった。

「あれ? キーリーは男に戻っちゃったの?」

 ルーシー姉さんがひとりぼっちの僕に向けて、残念そうな声で呼びかけながら目の前の席に腰掛けた。

「ルーシー姉さんから紹介された依頼は、危険ではなさそうだったのでいいかなと……」

 不安だったけれど、ネサニエル爺さんに頼んだらわりとあっさりと元の体に戻ることができた。

「あら、残念。エイヴェリーとは違う方向で可愛らしかったのに」

 本当に残念そうにルーシー姉さんは言うので、ちょっとこそばゆい感じで嬉しくなってしまう。とはいえ、今の自分の容姿が褒められたわけでもないのでちょっと複雑だった。

「ほんとだよ。可愛らしかったのに。戻る前にせめておっぱいを揉ませてくれよ!」

 朝から自分で酒をついで席までもってくる典型的な駄目冒険者のクレイグは、そう嘆き悲しんでいた。

「うるさい。誰が揉ませるか」

「クレイグは、自分を女の子にしてもらって、自分でいくらでも好きに揉んだらいいんじゃない?」

「姉さん。それは気持ち悪いだろう」

「この都中の女性があなたに対してそう思っているわよ!」

「えー。いやー。それは違う話だろー」

 僕をそっちのけで、いつも通りに険悪な雰囲気での言葉が飛び交うルーシー姉さんとクレイグだったけれど、あまり心配することもなくいつも通りにおさまりつつ最後は同じ席に並んで座っていた。

 実は二人とも仲が良いのだろうか。朝食のパンをかじりながら、女の子になった経験からか、今までとはちょっと違う視点で二人のやり取りを眺めていた。

「変化の魔法は実は危険って言われるのが、なんとなくわかったよ」

 僕はぼそりとつぶやいた。いつの間にかネサニエルじいさんもまだ眠そうな目で、飲み物をかかえて僕の席の隣に座っていた。

「そうらしいな。わしは変化させることはあっても、自分では変化したことがないから実際のところは分からないんじゃが」

 獣に変化した魔法使いがそのまま人間には戻らなかったというエピソードをいくつも聞いたことがある。

 呪文を忘れて戻れなくなったのか、それとも戻りたくなくなったのかは分からないけれど、外見に人間は引っ張られると言われていることが今回、実体験として味わえてしまった。

「あんな……いつも通りでいられるエイヴェリーがおかしいんだ」

 どんな状況でもエイヴェリーはエイヴェリーだった。獣になっても、冒険心を失わず困っている人間がいたら躊躇なく助けようとするのだろう。

「でも、エイヴェリーもだいぶ可愛らしくなっていると思うけれどな」

 僕がぼそりとつぶやいた言葉に、ルーシー姉さんはニコニコと笑いながらそう反応していた。

「いや……まあ……それは……」

 髪などいつも適当でぼさっとしたままリーダーが、女の子になってからは綺麗にしていると思う。

 服もそうだし、肌も綺麗にしているんじゃないかな……いや、服の中とかは女の子になってからはそんなにじっくり見たことはないけれど……。

「確かに……可愛いな」

「そうだよねー」

 僕が頭に浮かんだエイヴェリーの姿に対してぼそりとつぶやいたのを、ルーシー姉さんは聞き逃さずに僕の背中を叩きながら同意しながら飲んでいた。


「えっ。依頼主は、マリア姫さまだったの?」

 特に秘密にしなくていいと言われていたので、僕は素直に三人に今回の依頼主のところにいったときの話をした。

 経験豊富なルーシー姉さんであってもさすがに驚いたらしい。それだけ、この街に、この国にいればマリア姫さまは有名人だった。

 珍しくて貴重な依頼だったので、自分が受ければよかったとちょっと残念そうにしている。

「でも、キーリーは大丈夫?」

「え? 何が?」

 ルーシー姉さんは心配そうに、僕の方を見た。

 依頼は危なくもなさそうだし、遠くにもいかないし、もうしばらく待っている間のアルバイトとしてはこの上ない仕事なのではと思っているのでルーシー姉さんが何を言っているのかは良く分かってなかった。

「マリア姫さまは、有名な女好きなんだけれど……」

「え。そんなクレイグと同じようなカテゴリーに入れられても困ってしまうんだけれど」

 ルーシー姉さんが真面目な話のように言うのを、僕は何を言っているのかいまいち理解できずに呆れた目をしていた。

「えっ? 俺と同じか。何がだ?」 

 うるさい。クレイグは黙ってろと僕は割り込んできたクレイグの顔を押しのけて横にどかした。

「きれいなお姉さまキラーって感じかな。マリア姫さまは、ふんわりした妹って感じだし」

 そんな説明をしてくれても、あまりぴんとこない。

「ふんわりした雰囲気なのはわかる。確かに……エイヴェリーが男だったなら、好きそうな女の子だけれど……いやー別に大丈夫でしょう」

 姫さまは特に我がままでも傲慢でもなく、ちゃんと常識を持っていそうだった。

 とはいえ確かに思い返すと、マリア姫さまはひと目見た時からエイヴェリーに対して興味津々だったし、ずいぶん積極的だった気がする。

「大丈夫? 手が震えているけど」

「震えてないです」

 茶化そうとするルーシー姉さんだったけれど、僕は冷静に受け答えていた。

(そう。別にエイヴェリーが誰と付き合おうと関係がないし、恋愛かどうかは別として、姫さまに気に入られたならめでたいことじゃないか。好色なおじさん貴族に無理やりに押し倒されたりするんだったら心配するけれど、いいことだ。いいことなんだよ。うん)

 そんなことを考えながら、ふと視線を上げるとルーシー姉さんも、クレイグもネサニエルじいさんも楽しそうな目でこちらを覗き込んでいた。

「悶々としてますなあ」

「青春じゃのお」

 ルーシー姉さんだけでなくネサニエルじいさんまでも、自分の過ぎ去った日々を懐かしむかのように遠い目をしていた。

「わかるぜ。何とか二人の間に挟まって三人で一緒のベッドでお相手したいと考えているんだろ。いいよな。王女さまとかいい匂いしそうだもんな。一度、抱いてみたいぜ」

「お前の下品な発想と一緒にするな!」

 クレイグだけは、いつも通りの言動だった。

 姫さまのことは全然知らないだろうに妄想だけが大きくなっているようで、呆れたけれどこんなやり取りが頭の中が混乱している僕にはちょっとだけありがたいと思ってしまった。

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