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僕の親友の勇者がTSして、女神さまになる話  作者: 風親
第1章 魔族の国脱出編
18/50

戦いを終えた港にて

 当のエイヴェリーは、海賊を片足で踏みつけて動けないようにしながら視線を海賊船の方に向けていた。

 海賊船は、近寄ってはこない。

 エイヴェリーの圧倒的な力を見たからではなく、元々再び近寄る素振りは見せていなかった。

 マストにいた少年は、こちらの戦いを見届けたあとでゆっくりと下の海賊たちに指示を出していた。親分たちが死んだことを確認したので満足したかのように船は離れていった。

 

 一日後、無事にマクワース国の最北端の港についた僕たちは、ウテン卿とも分かれて陸路で都を目指すことにした。

「この度は本当にありがとうございました。無事に私たちが国に戻れたのは皆さんのおかげです」

 ウテン卿は深々とお辞儀をして、港に降り立った僕たちにお礼を言う。

 ウテン卿の隣では夫人であるかのようにエラさんが立っていて同じように頭を下げてお礼を言っていた。

「大丈夫ですか? エラさん」

 色々、ひどい目にあったエラさんはまだ顔が青ざめているように見えた。おそらく凄惨な死体を見たのも初めてだろう。エイヴェリーはそんなエラさんを気遣って慰めようとしていた。

「ウテン卿はあなたを大事に思ってくれてます。一緒にいてあげてください。まずはゆっくりとお休みになって」

 エラさんの表情は強張ったままだった。

 エイヴェリーは手をとって、エラさんを励ます。

 おそらくエラさんは自分のせいで何人もの人が亡くなったと思ってショックを受けているのだろう。

 でも、男性の心が分かるエイヴェリーは、何とかウテン卿と気まずくならないで欲しい、嫌わないで欲しいと援護射撃をしてエラさんもやっと少し笑ってくれた。

「それにしても、キーリーさまはお若いのにすごい高位な神官でいらっしゃるのですね」

 エラさんのそんな気持ちになど気がついていないみたいで、ウテン卿は目を輝かせて僕へと近づき両手を握ってきた。

 エイヴェリーに対する強力な加護を見れば、僕のことをそう思ってしまうのは仕方がないのだろうとは思う。今回の船旅の感謝もあるのだけれど、高位の神官と親しくなっておけば、今後の商売の際にも何かと役に立つだろうと商人の本能で僕に近づいているようだった。

「いえ、そんなことはないのです。今回は特別にポロアさまがお力をお貸しくださっただけで」

 僕はちょっと迷ったけれど、嘘をついたりごまかしたりするのはポロア教会のためにもよくないと素直に話すことにした。

「そ、それは『ご神託』というものでは?」

 ウテン卿は僕の言葉にさっきよりも目を輝かせて、僕の両手を強く握っていた。

 情報通だけに、先日の強力な加護と今の言葉を結びつけて、希少な出来事に出会えたことに興奮しているようだった。

「ええ、まあ、そう……なのかもしれません」 

 僕だって、もちろんその可能性は考えていた。いや、それしかないだろうと思っていた。

 ただ、ただ、ポロアさまがあんなクレイグよりも軽薄そうで好色そうな男だとはどこか認めたくもない気持ちで引きつった笑いになっていた。

 

 僕たちはウテン卿とエラさんと別れるとウーテーズの港街で寄り合いの馬車に乗せてもらうと都を目指した。

 ウテン卿は今回のお礼にと路銀を多く渡してくれたので僕たちは何も心配することなく安全な道を通る大きな馬車の中でゆっくりしていた。

「でも、ポロアさまは全女性を愛して、美少年も好きで女装した美少年も大好きな神話もあるんだろう?」

 エイヴェリーはさきほどのウテン卿との話を聞いていたのか、馬車に乗るなりそんなことを言ってきた。

「何の話だ?」

 クレイグはウテン卿との話を聞いていなかったので何のことだか分かっていないようだった。

「ポロアさまに気にいられてしまったかもしれないという話さ」

 可愛らしくエイヴェリーはウィンクしながらそう説明した。

 くそう。そのあざといウィンクはいつ覚えたんだと僕とクレイグはあまりの可憐さに一瞬、悶絶していた。

「ああ、昨日の加護か。確かにな、キーリーとは思えないくらいに異常だったな」

 クレイグは、僕の普段の加護がどれくらいなのかも良く知っている。それだけに不思議だとは思っていたようだった。

「『ご神託』となれば、神官としては異例の出世コースなのだろう?」

 エイヴェリーは、僕が出世しそうなことを僕以上に喜んでくれていた。

「『ご神託』……ねえ」

 僕は少し遠い目をしていた。確かにご神託なら今の大神官たちも経験したことのないことだろうけれど、僕がどうというわけではなく、エイヴェリーのことを気にいっただけのことの気がするだけにポロアさまがもう一度、僕に力を貸してくれることがあるだろうかというと疑問だった。

「都に行けば、オレたちは魔王を倒した勇者パーティで、キーリーは大神官への出世コースだ。万々歳だな」

 いつだって前向きで人を信じるエイヴェリーからは、今すぐにでも乾杯をしたそうな声があがっていた。

 一緒に馬車に乗り合わせた他の乗客からは、可愛らしい少女が勇ましいことを言っているみたいにみえて微笑ましく笑われていた。

(そう、うまくいくといいんだけど……)

 マクワース国の腐敗を知っていると不安にもなるけれど、希望はもちつつただエイヴェリーの姿を見て微笑んでいた。

「おお、どうした。ああ、お腹がすきましたですか」

 少し元気な声を出しすぎたのか、エイヴェリーに抱きかかえていた赤ん坊は起きて泣き出してしまった。

 ためらいもなくエイヴェリーは胸をだすと、赤ん坊に吸わせていた。

 あっという間に大人しくおっぱいを吸い始めた赤ん坊を見て、『本当のお母さんみたいだ』と僕は思いながら眺めてみた。

 可憐な美少女が、乳をあげている光景は乗り合わせた馬車の他の男性客からは、ちらちらといやらしい目で見られ、女性のおばさんからは『赤ん坊を連れての旅は大変ね』と言われて、手伝われていた。

(そういえば、もう人間側の国に戻ってきたんだから、エイヴェリーが直接あげなくてもいいんじゃないだろうか)

 そう思ったけれど、僕ももう少しの間、この美少女の姿を見ていたいと思ったので何も言わないことにして馬車に揺られていた。

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