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茶会

妃達は、面倒な最初の挨拶を一通り終えて、ホッとひと息ついて菓子を楽しんでいた。

本日は多香子、椿、杏奈、楓、綾、恵麻、明日香、桜、楢と上位が全員揃っている。

維月は、機嫌よく言った。

「多香子様にも、どうしておられるかと案じておりましたが志心様までが子育てに携わっていらっしゃったなんて。誠にお心強い事でありましょうね。」

多香子は、答えた。

「誠に我が王にはお手を煩わせてしもうて。それなのに嫌な顔一つなさらずに、誠に感謝致しておりますの。」

椿は、言った。

「誠に。稀な事でありますわ。我が王など、全くでありました。乳母も侍女も揃うので、なんとかこなしておりましたが、我にしか懐かぬ子らであったらと思うと身の毛がよだちますこと。」

まあ、殿方はみんなそうよ。

維月は、苦笑した。

「王は皆そのようですわ。志心様が良い夫君なのでしょう。」

綾が、ケーキを食べ終えて茶を啜りながら、言った。

「しかしながら…維月様には誠にお手数をお掛けしましたのですが。美穂のことでありますわ。蒼様が、こちらでお役目をくださってお仕えさせてくださっておるとか。あの子は、きちんとお役を果たせておるのでしょうか。」

維月は、頷いた。

「はい。蒼に聞きましたところ、侍女ではひと目にも付くだろうとのことで、今は編み物の神たちについてレース編みを習っておいでです。器用な質であられるようで、もうかなり上達されておるのですよ。一心不乱に没頭なさるので、その間は嫌な事も忘れてしまえるのだとか。良いことでありますわ。」

椿も、愁傷な顔をした。

「…誠に。蒼様には頭が下がります。あのような訳ありの女神を使ってくださるなんて。どこの宮でも厄介であるからと、里であっても扱いに困るところでありましたのに。」

維月は、答えた。

「こちらにはそのような訳ありの者たちも多く仕えておりますから。何かをしでかしてしまったとしても、改心すれば受け入れるというのが蒼の考えです。ですから、あの子に任せておけば問題はありませぬから。」

とはいえ、蒼にとっても本当に改心していない神は面倒でしかない。

美穂は心から反省し、やり直そうと一生懸命なのが蒼に伝わった結果なのだ。

美穂には、幸せになってもらいたかった。

明日香が、言った。

「時に維月様、何やら魔法陣がどうのと、去年のお月見の後辺りから、我が王が神経質になっておいででしたけれど、そちらはもう問題はないのでしょうか。我が宮でも、便利な魔法陣使って侍女達も役目を果たしておりましたので、しばらく大変に気を遣ってあちこち見ておりましたもの。王は仕える神をこれ以上増やしとうないと、とりあえず使うのをお許しくださっておりましたが、あれこれ未だに気を遣うのですわ。皆様はいかが?」

それには、多香子も頷いた。

「確かに洗濯など、一時はどうなるのかと。今は特に王は何も仰いませぬが、それでも気を遣って皆、魔法陣を発動させておりまする。」

他の妃達も、頷く。 維月は、ため息をついた。

解決したと言えば解決したのだが、しかしヴァルヴァラが命じたことではなかった件で、龍の宮であんな事件があった。

ヴァルヴァラ自体が問題ではなかったが、その側近達がどう考えているのか全く分からなかった。

ソフィアには相変わらず仙術の玉が入っている筈で、それを取り除かない限り、ソフィアが訪ねた宮では安心はできない。

ソフィアをこさせなければいいわけなのだが、そうなるとイゴールにソフィアの事を話さねばならなかった。

その時、イゴールがどう判断するかまでは、維心も保証はできないと言っていた。

が、いつまでも放置しておくつもりはなく、そのうちに話し合って対応はするつもりだと聞いてはいた。

維月も、その事に関してソフィア自身が悪くないのが分かっているので、命まではと思うのだ。

だが、恐らくイゴールの耳に入れば、ソフィアの命はないだろう。

どうにかしてあの玉を取り出す方法さえあれば、面倒はなくなるはずだった。

維月は、言った。

「…その件に関しては、未だ。大丈夫だろうというだけで、完全に懸念が失くなったわけではありませぬの。そこは我が王が、他の王達とお話し合いの上対応されると仰っておりました。ですが、今のところは。普通に便利な魔法陣を使われる分には、問題はないかと。」

綾が、息をついた。

「では、未だに。我が王も、特に煩う言われなくはなりましたが、それでも魔法陣を使う時にはそちらを見ておられるようで。気になってはおりましたの。お止めにならないので、使わせてはおりましたけれどね。」

椿も、頷く。

「誠に。早う解決してくれればと願っておりますわ。」

ソフィアの胸の玉をどうにかできないのかしら…。

維月は、また話題を変えて話す妃達に相槌を打ちながら、考えていたのだった。


そうして、しばらく話した後、月も高く昇って来たので、そろそろ妃の立場では控えの間に戻らねばならない時間だ。

維月が、立ち上がった。

「…お名残り惜しいですが、そろそろ時刻ですわね。王はまだ、きっとお戻りにならぬのでしょうけれど、長く居ったらご機嫌が悪うなりますわ。我らは控えに戻りましょうか。」

皆が、立ち上がって頷いた。

「はい、維月様。夜更かしをお許しなるのも正月にお遊びに夢中になられておる時ぐらい。我らも少しは羽目を外したいと思いますのに。」

椿が言うと、維月はフフと笑った。

「誠にそのように。ですが、しようがありませぬわ。」と、侍女を見た。「王に、我らは控えに戻りますと伝えて。」

侍女は、頭を下げてそこを出て行った。

綾が、扉へと歩きながら言った。

「そういえば…北ではどうなっておるのでしょうか。エミーリア様という女王の女神が、断って、後は無視しておるにも関わらず、紫翠に婚姻をとそればかりを訴えて参るのですわ。もう面倒を通り越して、我が王と何やら腹が立って参りましたねとお話ししておりました。何しろ、普通にお輿入れしたいというのではなく、紫翠にあちらの城へ入って欲しいなどと申して参ったのですわ。第一皇子相手に、何を考えておられるのかと申しておりましたの。」

維月は、綾と並んで廊下を歩き出しながら、言った。

「まあ。確かに王から紫翠様と烙様宛に、そのような申し出があったらしいと聞いてはおりましたけれど、まだ申しておるのですか?あれから半年ほど経っておりますのに。」

皆でぞろぞろと回廊に出て庭を横に歩いて行くと、後ろから来ていた、椿が言った。

「一度ならば習慣が違うのかと思うものですが、何度もとなると何を申しておるのかと憤って参るのは分かることですわ。維月様は、エミーリア様とは面識がおありなのですか?」

維月は、烙として面識があったが、維月としてはなかったので首を振った。

「我も、お会いしたことはございませぬ。ですが、月でありますので、月からはようお顔を見ておりますね。まだ成神前の若い女神であられて、父王を亡くされていきなりに王座に就いたので、まだ分別がついておられないのやもしれませぬ。」

明日香が、言った。

「それにしても、臣下が弁えてそのような事は普通は言うて来ぬものではありませぬか?何度もなど、あまりにも不躾でありますわ。我なら、王に申し上げて抗議の書状を送っておったやも知れませぬ。」

綾は、ため息をついた。

「我とてそのように思い申して、王には申し上げましたの。ですが、代替わりしたばかりであるし、複雑な事情を抱えておるので、今しばらく放置しておくより無いと申されて。刺激をして面倒が起こるのは避けたいと仰っておりました。そも、王が弑されることから普通ではない事態であるので、様子を見ておった方が良いのだそうですわ。なので我も、仕方なく放置しておる状態で。」

翠明は正しい。

維月は、思っていた。

今、刺激してあちらから会いに来るとか言い出したら、また面倒だからだ。

紫翠を連れて戻れなければ帰らないとか言い出しそうで、維月も放置が一番良いと思えた。

「…世の事は王にお任せするのが一番ですわ。綾様が正しいと思います。あちらはまだ、落ち着いておらぬようですし。これからも、どうなるのか分からぬようで。王座とて、コロコロと変わる可能性もございます。何しろ、北では血で王座を継承するのではなく、下克上の城もあるようですので。落ち着くまでは、静観するのが良いと思いますよ。」

皆は、頷く。

維月は、そういえばヴァルヴァラはどうしているのだろうと、そっと月からアマゾネスの城の方角を見つめたのだった。

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