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現状の話

夕暮れも近付いて来て、神達は蒼に促されていつもの応接間へと入って行った。

窓から庭の満開の桜が見えて、それが松明の灯りに浮かび上がり、チラチラと降る花びらがとても美しい。

維月がそう思いながら維心の隣りに座っていると、維心が維月の肩を抱いて、維月の耳元で言った。

「桜の散る様が美しいの。枝垂桜を見に参るのは毎年のことであるが、夜の枝垂桜はそういえば見ておらぬな。今から参るか?」

維月は、フフと笑った。

「まあ。皆様と同席しておるのですから、今は。後で寝る支度をする前に参りませぬか?確かに夜の枝垂桜も見てみたいと思いますもの。」

炎嘉が、維月の反対側の隣りから言った。

「こら。維月は見たければ月からでも見られるのだ。皆と共にせっかくに集まっておるのに、己だけ席を立とうとするでないわ。」

維心が、炎嘉を睨んだ。

「良いではないか、二人で見るから良いのだ。」

焔が、言った。

「まあ、今回は妃だけで場を離れて散策もなかったし、ずっと桜の下で一緒だったのだから、少しは堪えよと我も言いたいかの。」

維月は、頷いた。

「そうですわ、維心様、申し訳ありませぬが、妃の皆様と共に別室に参って良いですか?共に茶でも飲みながらゆっくりお話しをしたいと思うて茶菓子も用意しておりますのに、そのお席も設けられなくて。先ほどは、お話が弾んでおって割り込むのをご遠慮致しましたが、蒼がお隣に茶の準備を整えてくれておりますの。」

維心は、残念そうに息をついた。

「…そうか。そうだの、本日は何も言わぬなと思うておったのだ。ならば、言って参れ。主らも話したいことがあろうし。」

維心が、名残惜し気に肩から手を離す。

維月は、頭を下げた。

「はい。ありがとうございます。」

維月は、振り返って妃達に頷き掛ける。

綾も、隣りの翠明に言った。

「では王よ、維月様のお誘いでありますので、行って参りますがよろしいでしょうか。」

否と言えるだろうか。

翠明は、渋々頷いた。

「行って参るが良い。」

そうして、他の妃達もそれぞれの王に問うてから立ち上がり、維月について廊下へと出て行った。

王達は、それを黙って見送った後、言った。

「…まあ、途中で抜けるのはいつものこと。本日は珍しく外では一緒であったし、あれらも積もる話もあろうし。良いのではないか?」

箔炎が言う。

維心は、頷いた。

「朝から茶菓子がなんだとバタバタしておったのに、何も言わぬなとは思うておったのだ。」と、皆を見た。「まあ良い、妃がおっては話せぬこともある。北の様子ぞ。何か聞いておるか。」

焔が、言った。

「こちらは何も。とはいえ、維月を烙だと思うておるゆえ、未だにエミーリアから婚姻の打診が参るがの。最初に何の冗談だと突っぱねてからは、全部無視しておる。そもそもあれは、烙ではないしな。」

翠明も、言った。

「そちらも未だにか。こちらにもぞ。紫翠をどうあっても城にと矢のような催促だが、全部無視しておる。段々に腹が立って来たなと、綾とも話しておったのよ。」

面倒だな。

皆が、眉を寄せる。

炎嘉が言った。

「紫翠はあれよりどうよ?闇の力を扱えるようになったとか聞いて、なんと便利なと思うておったが、何かあるか?」

翠明は、首を振った。

「特に変わりなく。紫翠本神も、側まで行かねば霧の目を使うのもできぬし、誠の闇と比べてほんの少ししか扱う事はできぬのだと申しておった。時々にルシウスから話し掛けて参るようだが、もっぱら黄泉でのこととか、生まれた時の前世の記憶などを知りたいと言う話ばかりだとあれは言うておったな。なので北のアマゾネスのことなど、遠すぎて紫翠には見えぬのだ。」

志心が、言った。

「主はどうよ?何か情報はあるか。」

維心は、話を振られて頷いた。

「最近の様子とて、義心が何度も見張っておって調べて参る。ヴァルラムも、気にしておってくれるようぞ。定期的に書で報告してくれるので、我は大体の事は把握しておるが、ここで共有しておこう。まず、エミーリアが愚かなのはやはり確かぞ。政務はからっきしで、とにかく臣下が回してそれを承認することで、対面を保っておる。維月と紫翠が調べて参ったヴァルヴァラは、相当に優秀な奴のようで、もうほとんどがヴァルヴァラについており、最近では政務のことになど口出しするようになっておるらしい。ヴァルラムが出す書状にも、ヴァルヴァラが卒なく返して来たのだと聞いておる。どうやらエミーリアがあまりにもできぬので、臣下が案件をヴァルヴァラに回すようでな。ヴァルヴァラは軍務の傍ら、そういった内向きのことまで采配し始めておるそうな。そろそろまた、王座が変わってもおかしくはないし、そうなったからと外からは何も言えぬ状況になって来ておる。何しろエミーリアは、何一つできぬで、烙だ紫翠だとそればかりらしいからの。」

焔が、言った。

「愚かな王ではそう保たぬ。遅かれ早かれといったところか。ヴァルラムはなんと?」

維心は、息をついた。

「そもそもドラゴンは下剋上であるから、強く賢い神が、愚かで弱い王を弑して王座を奪取した所で文句は言えぬと申しておった。もしこのままヴァルヴァラが王となるのなら、それも良いやも知れぬと周りの城では思うておるらしい。そも、いろいろとやることがあってそれを振り分けておるのに、今のアマゾネスでは全く任せる事ができぬでおるし、各城の負担が多くなって面倒なのだそうだ。我もそのように。」

箔炎が、難しい顔をした。

「つまりは…ヴァルヴァラのしたいようにさせて様子を見るということか?」

維心は、頷いた。

「その通りぞ。また昔の状態に戻るのならこちらから口出ししようが、しかし上手く回すのなら、こちらも面倒がなくて良い。」

「ソフィアの件はとうするのだ?」志心が言う。「あれの胸にある玉は?ヴァルヴァラの仕業であったではないのか。」

維心は、答えた。

「確かにそれは懸念であるが、そも闇に聞いて来たところによると、あれはヴァルヴァラではなく側近達がやったことのようで。ヴァルヴァラが命じたのは、あくまでもエラスト殺害であって、その他は知らぬ。その側近達も、結局はこちらで試してみただけであって、本来の目的は龍ではなくエラストだった。ゆえ、今のところは問題ないと見ておる。とはいえ、放置はできぬな。ソフィアはベンガルであるし、その気になればソフィアを使っておかしな術も放ちよるやも知れぬから。しかし、いつイゴールにそれを明かして、その術を始末したら良いのか考えておかねばなるまい。」

炎嘉が、息をついた。

「…術の始末とて、その玉を取り除けばソフィアは死ぬのだろう。どこぞに監禁でもするか。だが、それでは解決したことにはなるまい。月の眷属達でもベンガル絡みの仙術には警戒しておるのに。イゴールとて、そんな話を聞かされたらどう対応したら良いのか分からぬだろうぞ。ソフィア自身は悪くないわけであるし…とはいえ、イゴールならばソフィアを始末するであろうな。碧黎に一族の命運を握られておるからの。」

維心は、ため息をついた。

「ゆえに、我とて早う懸念をなくしたいが、できずでおるのよ。維月が何よりソフィアの命を奪う事を恐れておるからな。本来なら、わからぬ間にさっさと始末したいところ。だが、あれに気取られずにそれは無理ぞ。」

志心は、頷いた。

「その通りぞ。しかしあの術の玉がある限り、誠の平穏などない。どうする?大会合でイゴールに話すか。」

大会合は、長月の中旬の予定だ。

炎嘉が、頷いた。

「そうしよう。ここは大会合でイゴールに話して、あやつがどう判断するのか見るしかない。イゴールとて面倒なはずなのだ…が、どこまで話すかだの。イゴールは、話を聞いたらソフィアに問い質すだろう。その際アマゾネスの母親のことなど出て参るだろうし、そうなった時にどうなるかよ。マトヴェイとて、己の娘を殺されて、未だに憤っておるのだと聞く。ソフィアとアマゾネスが術で云々なると、もしやソフィアがエラストとマリーナを殺したのかと、あちらの関係も面倒になろう。北が乱れる。それは喜ばしくない。」

面倒ばかりを謀りおってからに。

皆は、そう思いながら大きなため息をついたのだった。

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