リアの魔法
休養室では、王が眠っている。その隣で女子生徒らしき娘が眠っている状況を見て、王を迎えにきた者達が困惑している。近衛兵や執事だけあり、顔には出さないが総じて「何?この状況!?」と言いたいとこだろう。それを察してユーラが言う。
「こちらの生徒は、王様を治療してくださった方で、神と仮契約をされている方です。そんな方を保健室に移す訳にもいかず…。」
その発言に、保守的な考えを持つ執事が答える。
「確かにそうかもしれませんが、それにしても王様と同等のベッドとは。王妃様では無いのですよ。」
ユーラへ厳しく良い放つ。それを聞いていたラクアが王を魔法で浮かせ、執事の前まで連れて行く。
「ならばさっさとと去れ!」
魔力の無い者達には、いきなり王が宙に浮き地響きの様な声がどこからとも無く聞こえた様に感じただろう。執事達は驚くが、魔力のある者は数倍怖かったことだろう。何故ならそこには、今にも襲い掛かりそうな般若の顔をした神がいる。
「ゔ、急に悪寒が!ガクガクする。」
「俺は体調が悪くなってきた…吐きそう…。」
「なんだか体が重くて…頭も割れそうにガンガンする…」などなど、その場にいたものは皆急激に不調を訴え出す。皆、神の気に当てられた為だ。もちろんユーラも気分が悪くなっている。しかし、ここで倒れる訳にもいかず、撤退の指示を出す。
「王様を早く王宮にお連れして下さい!」
「は、はい…。」
覇気のない近衛兵らだが、一刻も早くこの場を去りたかった為、力を振り絞りゲートをくぐる。
「さすがは近衛兵というところか。魔力の無い者は既に意識を飛ばしているが。」
ラクアは馬鹿にした様に鼻で笑う。ユーラは騎士団を背にかばいながら、ラクアに膝をついた。
***王の寝所
王は数時間後に目を覚ます。体を起こし周りを見渡すと、いつもの自分の部屋だ。意識がハッキリしてくると、ある事に気づく。それは、体の痛みや締め付けられる様な苦しさが無い事、頭がスッキリし体の重怠さも無い事。いつも悪夢にうなされ、深く眠れないし、体も重くて怠い。皆の前では気張っているが、正直無理して飄々としている。それが何だ?この爽快感は。心当たりは神に回された事くらいだ。王は呼び鈴を鳴らす。
チリンチリン
「あー!王様!お目覚めになられたのですね!!良かったです。」
先程迎えに来た執事頭であるワトソンは、目をウルウルさせる。
「ワトソン、ユーラを呼べ。」
「はい、かしこまりました!」
数刻してユーラが到着し、今回の経緯を説明させる。
「やはりリアか。リアが修行を積めば呪いをどうにか出来るかもしれないということだな。」
「その可能性は高いですね。今までどの術師は呪いへの干渉すら出来ませんでしたから。私含めて。」
「…私はある考えが浮かんだのだが、聞くか?」
「兄上がその様な口ぶりをする時はあまり我々側近には喜ばしく無い事が多いですから、やめておきます。」
「そうか。懸命な判断だ。もっと具体的になってから話すとしよう。」
「…。」
「折角体調が良いから、久しぶりに騎士たちの稽古を見学に行こう。」
「畏まりました。」
ユーラは寝所を出て、王の側近であるフレデリック(フレッド)に声を掛ける。
「フレッド、兄上が騎士団の訓練を見に行きたいそうだよ。」
「…さっき起きたばかりなのに、大丈夫なのか?ルーカスは。」
「いつもより体調が良いみたいだよ。」
「倒れたのに?」
「あぁ、フレッドはまだ聞いて無いのか。リア嬢が治癒魔法をかけてくれたおかげで、少し回復したみたいなんだ。」
「昨日神殿で勝手に玉に触ったというお嬢さんのことだね?」
「そうだ。彼女は呪いに干渉できるらしい。」
「そうか。流石は神の力だな。なら次期に呪いも解けるかもしれないな。」
「あぁ。でもその反動が彼女にいってしまう様だ。」
「…。でも王族を守る為だ。王族の呪いを解けばリア嬢は英雄そのものだ。一緒困らないで生活出来るだろ。例え好ましく無い顔や性格でも、王族との婚姻もあり得る。」
「…。」
ユーラは答えない。
「何!?本当にブサイクで性悪なのか!!」
「…いや、そういう訳では無いが…。」
(人を悪く言わないユーラが閉口したという事は、相当なのだろう。)
(兄上が不穏な事を言っていたのは、秘密にしておこう。)
2人にそれぞれ無言が流れる。