初めての治癒魔法
翌日登校すると、早速転科の手続きが行われた。本来魔法科に途中から入る人は珍しく、手続きがとても難しい。魔法の実技テストや魔法に関する知識などの筆記試験もある。
しかしどういう手続きを踏んだのか、リアは朝一に校長室に呼ばれ、今から魔法科だと告げられる。それも王様から。
「あのぉー、何で私が魔法科になるのでしょうか…?」
「それはね、君の後ろの神様からお告げがあったらからね。」
「お告げ?」
リアがラクアを振り返ると、彼は誇らしげにしている。
「ジェドから聞いたよ、ラクア様からリアの修行環境を整える約束をしたと。」
「あー、そんな話してましたね。わー動きが早いですね(^_^;)」
「善は急げと言うでしょ(^_-)」
「あーはい。ソウデスネ。」
「そして、早く私たちの呪いを解いーーー」
王がそう言おうとした時、強い風が吹き王の体が急凄い勢いでぐるぐる回る。
「のー!」
漫画みたいに王がクルクル回されている。
「ラクア、やめて。」
「しかしこやつはそなたを道具にしようとしている。」
「そうかもだけど、もしかしたら助かるかもしれない可能性が目の前にあったら、人間は縋りつきたくなるもんなの!だから、やめて!」
「ほんに俗物だのぉ。」
ラクアの回転芸から解放された王は目を回し動かない。顔色が悪い。
「ねぇラクア、私で楽にしてあげる事はできないかなぁ?」
「は!?ちょっと待ちなさい!」
ユーラが慌てる。
「王様へ治癒魔法を使うつもりですか!させません。私がやります。」
ラクアはユーラを睨み口を魔法で塞ぎ動きを停止させる。
「こやつが楽しみにしている力だ。修行も兼ねてやってみろ。まず、どうなって欲しいかを強くイメージする。そして、ゆっくり自分から力が流れてる意識をする。両手をかざしてゆっくり放つのだ。」
「でも暴走したら!」
「大丈夫だ。仮契約をしているから、コントロールは私がする。さぁ、両手をあてがってはなつのだ。」
「うん。」
するとリアは光だし、両手から光の粒が出て王を包む。
「そう、その調子だ。ゆっくり。一気に放つとまた倒れるからな。」
「う、あ、あ、あ、ゔー。」
「ストップ!今はコレが限界だ。」
急に苦しみだしたリアを、ラクア後ろから抱き止めながら力を止める。その光景を見ていたユーラが不思議な顔をする。
「?どういう事ですか?」
「続きはお前がやれ。リアは見ての通り副作用が出る。だから治癒魔法は程々にしなければならない。」
「そうですか…。」
そう言いながら治癒の続きをしようと両手をかざすと、ユーラの体に電流の様なものが流れる。それに驚き手を引っ込める。
「何ですか!!コレは!!」
「ほぉ。お前は魔力の流れが感じられるのか。」
ラクアは関心した様に言う。
「今まで王様をご治療し、こんな事は無かった。」
「それがリアの力だ。その強い力で今王の体内から治療をしている。リアはどうやら眩暈だけで無く呪いの方にも少し干渉した様だな。慣れないくせに無茶をする。」
グッタリとしたリアが答える。
「昨日の王子様より体が辛いんだから、少しでも緩和出来たらいいなって思っただけでだよ。」
「お人よしだな。少し眠れ。」
ラクアはそう言うとリアの額にキスをする。リアはスーッと寝息を立てて眠りに落ちた。ユーラは難しい顔をして、ラクアに声を掛ける。
「リアさんの力が、今も王様を治療しているということですか?」
普通、手をかざしている時にしか治療出来ない。力を他人の体の中で保つなんて高度な事は、そもそも考えつかない。
「そうだ。リアの力はそもそも治癒能力では無いのでな。」
「えっ?じゃぁ何ですか?」
「お前に教える必要がない。」
ギロリと睨まれ、神の怒りを纏ったラクアに恐怖する。本来ラクアは神の中でも扱いにくい性質をもっている。だから、リアが召喚した事も仮契約できた事もおかしいのだ。
「ひー!申し訳ありません!」
ユーラはブルブル震えひれ伏す。
「ふん。早くリアのベッドを用意しろ。」
「は!」
「それから、今後はこの様に頻繁にリアは倒れる事になる。最上級の部屋とベッドを用意しろ。いいな。」
「はいぃぃぃ!」
震えながらも背筋をピンッピンに伸ばしユーラは答える。
「それよりも良いのか?」
「へ?」
ラクアの声が急に穏やかになりユーラは拍子抜けし、変な声が漏れる。
「お前たちの王がさっきから床で転がっているぞ。」
「あ!」
王を急いで休養室へ運ぶのだった。