リアという無能な人物
どうやら私には治癒能力があるらしい。でもコントロール出来るものでは無く、それは突然起こるのだ。正直、自分がやっているのかさえ疑問である。
例えば、バラで傷ついた手が不意に治ったり、転んだ子に駆け寄って声を掛けると、傷口が跡形もなく消える。これは私の能力か分からないが、毒蛇に噛まれて暴れていた男が、目が合った瞬間苦痛から解放された。
そして最近不思議に思うのは、パニック障害の同僚のメイドが、全く発作を起こさなくなったことだ。いくつか怪しいものはあるが、これらのキセキを要約すると『治癒魔法』に帰結するのだ。
でも私の意思と関係なく発動する不安定な力を、とても厄介に感じていた。
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ここは魔法使いが治める国アービス国。半分の人が魔法を使い、半分の人は使えない。魔法が使える人はプラスと呼ばれており、プラスの中でもランクがある。小さな幸福が起こる程度から敵を倒すレベルまで幅広い。
因みに魔法が使えない人はノーマルと呼ばれ、私の様に魔力があるのか無いのか微妙で、上手くコントロールが出来ない人や、また逆に多すぎてコントロールで出来ない人をファイと呼ぶ。普通、その人の体格や能力に応じた力が身体に宿るが、そうで無い場合コントロール不良となる。しかし、そういう人種はかなり稀だ。その為ファイ=空集合Φと呼ばれる。
そんな国のごく普通のノーマル家庭に生まれた私リアは、王立魔法学校のノーマルクラスに通っている。この学校は魔法の有無に関わらず王族や貴族も通う為とても人気だ。
私がここに通っている理由は、Φだからだ。本当は地元の学校に進学したかったが、力の暴走が何度かあり、危険を感じた両親がこの学校に決めた。
私の持っている治癒能力は、基本的には良い方に作用するのだが、私の体調で左右され、カマイタチの様な力が発現したり、精神作用を呈する事もある。更に悪い事に、この力の暴走で魔法熱が出て、他者を傷つけた事もあった。
そんなこんなで両親を悩ませた私は、2人の為に親元から離れてこの王都に来た。田舎者の私がこんな都会で一人暮らし、しかも周りに知り合いも居ない所に来るのは勇気がいったが、「えい!」とここまで来た。
王都で暮らす為には、仕送りだけでは賄えず、バイトをしないと生活出来ない。その為学校でバイト先を斡旋してもらった所が、あるお屋敷のメイドの仕事だ。貴族の老夫婦で、人種はプラス。
とても穏やかなご夫妻で、学生を何人か受け入れており、理解もある。ここでお世話になり三ヶ月、メイド仲間と楽しく仕事をし、ご主人様夫妻には凄く良くして頂いている。
そこの先輩メイドはしばしばパニック発作を起こす人だったが、私が入ったあたりから全く無くなったそうで、薬の量も次回から減らせそうと喜んでいる。私の作用かは全く不明だが、まぁ良かったと思う。