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グランド・デュークの息子

作者: 瀬崎遊

楽しんでいただけたら幸いです。

日本の戦国時代のような国盗りを行っています。

戦闘シーンはありません。


ヒューマン日間ランキングで6位になれました。

感謝です。

誤字報告感謝しています。

 夫は偉大なるグランド・デューク(大公)でした。


 隣の大公国とのいつもの些細な小競り合いです。

 その小競り合いで受けた傷が破傷風を引き起こしていまい、苦しみながら跡継ぎのことを心配して、夫は亡くなってしまった。


 亡くなった瞬間から後継者問題が立ち上がりました。

 悲しむ暇さえないのです。

 嫡男のジェラルドは夫の偉大さに、後を継ぐことをとても嫌がりました。



「私にはグランド・デュークになどなれないっ!その才が無いのだよっ!」

 嫡男であるジェラルドが机を叩きながら叫びます。

 あまりにも激しく机を叩くので茶器がカチャカチャ鳴っています。


「ですが、弟君であるランベール様はまだ十五歳、勉学の途中です。中継ぎであってもジェラルド様に継いでいただかないと!」

「勉学の途中と言ってもランベールにやる気があるのだから、ランベールに継がせて、周りが助けてやればよいではないかっ」

「成人までに五年もあります」

「私だって手助けはする。だが私にはグランド・デュークなど継げはしない。父上だって望んではいないはずだ」

 ジェラルドと宰相の言い合いは平行線を辿ります。

 夫はきっと望んでいたと思いますよ。

 口に出すとジェラルドの重荷になってしまうでしょう。

 ため息が出てしまいます。


 

「ジェラルド、落ち着きなさい」

「母上・・・」

「貴方が自分の能力を低く見積もっていることは知っていますが、今は亡き父の後を継ぎなさい。そしてどうしても嫌ならばランベールが成人してから退位なさい。小競り合いとはいえ、揉め事があった後、長く空位のままにもしておけませんし、若輩のランベールでは舐められてしまうでしょう」


「母上っ!私は父上とも約束しました。グランド・デュークにはならなくていいと」

「知っています。ですがあの人がこんなに早く亡くなってしまうなど誰も想像していませんでした。嫡男なら嫡男らしくしなさい」

「・・・・・・!!」



 私と夫が結婚するほんの少し前、王が身内に討ち取られ、国は荒れ、デューク達が国盗りを始めてしまいました。

 結婚当初、夫は小さな領地のただのアール(伯爵)でした。

 結婚一年目で周辺を治めている小さな領地を(いくさ)で吸収していきました。

 五年経つ頃には周辺には小さなアールやバイカウント(子爵)、バロン(男爵)の領地が無くなり、大きくなれなくなりました。


 隣りにあったマーキス(侯爵)が私達の領地に小さな嫌がらせを仕掛けてきました。それは本当に些細なことから誰もが顔をしかめるような事までいろいろありました。

 マーキスは野心が大きかったのだと思います。

 夫の我慢は限界を超えたのでしょう。

 あっという間に攻め滅ぼしてしまいました。

 そして夫はグランド・デュークと呼ばれるようになりました。


 新しい屋敷を建て、落ち着いた時やっとジェラルドが出来、私はホッとしました。

 結婚してから十年も経っていました。

 長く跡継ぎができないのはとても不安でしたが、戦に追われて、それどころではなかったのです。

 

 ジェラルドの誕生を喜んだ夫はそれはそれは可愛がり、片時も離しませんでした。

 大きすぎる父の背を見て育ったジェラルドは徐々に自信を失い、自身を過小評価する子に育ってしまいました。

 けれど、愛される子に育ちました。

 私から見れば十分に見えるのですが、夫と同じようにしなければならないと思い込み過ぎているのだと思います。

 

「ジェラルド、国を大きくする必要はありません。国を固めることに尽力しなさい。それならば貴方にも出来るでしょう?」

「国を固めるだけで良いのですか?」

「国を守りなさい。それが一番大事です」



 ジェラルドが夫の後を継ぐ決心をしました。

 

「ランベールが成人するまでの中継ぎだからなっ!」

 何度も何度も言っていましたがこれで一安心です。


 後継者が決まると夫の葬儀を執り行わなければなりません。 

 喪主を務めるジェラルドの姿は立派で、涙が出ました。

 夫に見せてあげたい。


 葬儀を終えるとジェラルドは意欲的に動き始めました。

 屋敷にいる間はなく、夫と結婚した当時を思い出します。

 ジェラルドは領地の小さな村まで見て回り、話を聞いて対処していました。

 そんなジェラルドは民にも、家人達にも、(うやま)われていました。


 当然の事だと私は思っています。

 夫の後をついて領地を飛び回り、意見を言い領地をより良くしたいと思っていることを、小さい頃から行動で示していましたもの。

 

 葬儀から十ヶ月が経ち、後少しで喪が開ける。

 私は少し寂しく思っていた時でした。


「戦の準備を始めてくれ」ジェラルドがそう言い出しました。

「どうかしたのですか?」

 夫を戦で亡くした私は、息子を戦いに行かせたくはありませんでした。


「父上の喪が開けると間違いなく、攻め入ってくると思います」

 何処がと聞く必要もありませんでした。

 夫を亡くした小さな小競り合った国が、夫が居なくなったことで大きく出てくるのでしょう。

 跡継ぎに不安があると、諸外国では噂が流れていることは知っていました。

 ジェラルドは気にも掛けていませんでしたが。

 その実は全く違うものでしたしね。


「大丈夫なのですか?」

「絶対はありません。ですが全力を尽くします」

 ジェラルドの成長には目を瞠るものがあります。

 

 水面下での戦の準備が着々と整い一周忌が行われた翌日、戦は始まってしまいました。

 ジェラルドは自領地で戦を行うのを(いと)い、攻め入ったのです。

 あちらはまさか攻め入られるとは思いもせず、虚を突かれ、簡単に瓦解しました。


 先陣を切って攻めていた時、大将首と思わしき人物をジェラルド本人が打ち取りました。

 それが隣のグランド・デュークでした。


 私達の領地は今までの倍の大きさになりました。

 ジェラルドを恐れたのでしょう。

 こちらが戦力を立て直す前に、と近隣が四方から攻め入ってきました。


 攻め入られる覚悟はしていたみたいです。

 ジェラルドは的確に対処していました。


 すべての戦いが終わったのは夫の七回忌の年でした。

 周りを見回すともう何処にも敵はいませんでした。

 私や夫が若い日に失われた国の元の形になっていました。



「約束よりちょっと伸びてしまったが約束どおりにランベールに譲るよ」

 ジェラルドが言い出しました。

 これに慌てたのがランベールでした。


 二十二歳になったランベールは言いました。


「私にはグランド・デューク、いや、王になどなれませんっ!その才は無いのです。兄上がここまで大きくしたのです、兄上が治めるのが一番いい事だと思います」


 尤もなことでしょう。


「ジェラルド、私も貴方が治めるのが一番良いと思いますよ。国の国王になった今、ランベールに治めるのは難しいと思います」

「そ、そんなっ!!約束が違いますっ!!」


「仕方ありません。貴方が大きくしてしまったのですもの」



                                   Fin


普段は使わないグラン・デュークやアールと言う言葉に置き換えたのは、公爵や伯爵では国盗り合戦がイメージできなかったという自分勝手な設定です。

その辺りは突っ込まないでいただきたいと思います。

ジャンル選びで困りました。


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― 新着の感想 ―
[一言] でかい大名は大抵二代目、という事などを思い出し…がんばれ!!国盗りは先手必勝、勝てたのはやっぱり上手かったんでしょうね。 後世に研究されるやつですね、これは。
[一言] 本家の十倍勤勉な「ヤン・〇ェンリー」みたい。いつも「何だって私がこんな苦労をしなきゃならないんだ……」的なことをボヤいていそう。
[一言] 初代が優秀だと二代目はぼんくらになりやすいと言いますが、超優秀ですね。 これは三代目はなかなか苦労しそうですが、ここを乗り越えると磐石な王政が敷けそうですね。 弟も似たような言動をしている辺…
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