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レイラとオーウェン

社畜のレイラ

作者: 菖蒲

あっさりです。





もうっ……許さないんだからっ!




文官のナタリーは非常に焦っていた。


時計の時刻はまもなく午前8時を指そうとしている。


走っているとも言えないような遅さで走りながら、ナタリーはとにかくひたすらに仕事場を目指していた。


周りのいつもと違う奇妙な視線を感じながらそれでも気にせず、頭の中は遅刻しないようにはどうすべきか、という内容で埋め尽くされていた。


お察しだろうか───文官のナタリーは社畜なのである。


「ギリギリセーフッ!!」


そう叫びながらずさぁぁっと部屋に滑り込んだナタリーを見て同僚が苦笑いを浮かべている。


「おっ、ナタリーが遅刻ギリギリなんて珍しいなぁ」


「あんたねぇ、いい年頃の女子がこんなに髪をボサボサにしてっ……」


「さすがの真面目さだわぁ…あんたなら一回遅刻したくらいお咎めないでしょーに」


思い思いに言葉を紡ぐ同僚たちに向かってナタリーは笑いかけた。


「ダメっ、ぜーったい遅刻は嫌なんだから!」


「はいはい」


仕事人間らしい言葉に誰かが相槌をうつ。


いつもならばこれで会話が終わるはずだった。


「あれ、お前なんか雰囲気変わったか?」


「えっ」


「確かに。あ、ナタリー眼鏡変えたでしょ」


同僚の指摘にナタリーは鏡を取り出して眼鏡を確認する。


「あ……」


「今までと雰囲気の違う眼鏡じゃない。イメチェン?」


「違うよー!間違えてつけてきちゃったぽい」


「予備とかそういう事?」


「あー、まあ、違うけど、そんな感じ」


「一体何なのよ」


「いやなんも」


話題をいつものキャラのお陰で何とかはぐらかしたナタリーはどうしたものかと思案する。


間違えて付けてきてしまったこの眼鏡を、本来の持ち主にいつ返すべきか悩んでいた。


「おはようございます」


「ぎゃ、鬼畜宰相」


「何か言いましたか?さあ、始業時間は過ぎているのですから早く取り掛かりなさい。今日は忙しいですよ。…ナタリーさんも鏡を見るのは休憩時間にしなさい」


今日もパリパリのシャツを着てやって来たのは宰相・グレイソンだ。


いつものように話の最後にナタリーに絡んできた後、今日はニヤリと口角を持ち上げたのにナタリーだけが気付いていた。


「眼鏡を見ていたのですか?」


「はい」


うそん。眼鏡の話ぶり返さないでよね。


「…まって、よーく見たらその眼鏡、宰相…様のと同じじゃない!?」


「えー?ってあれ、まじで似てるわ」


「ナタリーどういうこと?!」


宰相補佐室の人間の観察眼恐るべし。


「ちょっと似てるだけでしょー!ほら、仕事じゃんじゃん回して!」


「うわっナタリーまで宰相の味方すんの…」


間一髪。


かなり危なかった。


「ナタリーは私と一緒に来てください。資料室に取りに行くものがあります」


「はい」


「宰相補佐官様頑張れぇー!」


たぶん、この頑張れは鬼宰相と二人っきりの空間頑張れ、だと思う。


けどね、応援は有難いけど私は宰相様が全然怖くない。
















「ん……」


「眼鏡を間違えていかれるとは思いませんでした。頑張って誤魔化して、()()()は可愛いですね」


「ふぁっ…」


ナタリーならぬレイラは今宰相の部屋に居る。


そして宰相の膝の上に乗り、口づけを交わしていた。


「オーウェンッ…!」


「いっそ明かしてしまっても良かったかも知れません」


「やぁっ…」


堅物そうな見た目なのにオーウェンの口づけは荒々しい。


ギラギラとした眼光のオーウェンにレイラはいつも呑み込まれてしまうのだ。


「今年は貴方のデビュタントでしたよね。ふふ…さていつお披露目としましょうか。」


「あ、や…デビュタントはっ、普通がいい…」


「レイラの言う普通は何ですか」


頬に添えられた手に体がびくりと震える。


「他の子とっ…同じ、で…ドレスも着たい…」


「ふぅん…まさか()のドレスを着たいのですか?」


「えっ!?あ、いや…」


オーウェンの低い声にレイラが慌てて弁解するが、時すでに遅し。


硬い机の上にいつ敷いたのか、オーウェンのジャケットの上に押し倒されていた。


「貴方が誰のものなのか、もう一度分からせてあげましょう」


「な…ここを何処だとっ」


「ああ、仕事場というのもそそりますね」


「ご、ごめっ、家にして下さいっ!」


「嫌です」


まずい。


こんな位置、誰かが入ってきたら丸見えだ。


「せめて、隣の部屋にっ…」


「…あの部屋に行きたいのですか?」


咄嗟に口をつついた言葉にオーウェンが何かを企むような笑みを浮かべる。


待って、隣の部屋は…。


何度か連れ込まれたことのある部屋の中身を思い出し、レイラは自分が失態を犯してしまったことに気づく。


「ちがっ…」


「レイラから誘ってきたんですよ?」


「あ…、や…」


「はぁ…レイラがその気になってくれて嬉しいです。」


「いやあぁ…!」



必死の抵抗も虚しくあれよあれよと隣の部屋に連れ込まれたレイラは、その後一時間弱部屋から出ることができなかった。





「うう…仕事の時間がぁ…」


「このくらい私たちがいなくても大丈夫でしょう。」


「そうじゃないんですぅぅ…」



文官たちからは仕事中毒だと陰で言われている宰相だが、本人は仕事が好きなわけでは決してなく、宰相補佐官の方がよっぽど仕事好きだ。




「そうだ、朝までは辞めて下さい。お陰で遅刻しかけました…!」


「一緒に仲良く出勤でもしましょうか?」



いつだって、最終的に丸め込まれるのは妻のレイラなのである。




追記・12/29

ナタリーは偽名でレイラが本当の名前です。

グレイソンは、ミドルネームがオーウェンです。いざ組み合わせてみるとめちゃくちゃになってしまうかも…。

真面目に考えようともしたのですが短編だし、名前の仕組みがややこしくて諦めて、こうなっております。

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