「ばっさり切ってください」
本作品はボイコネライブ大賞用にセリフの前に登場人物の名前が記載されております。その点ご了承ください。
僕は臆病な人間なんだと思う。言いたいことも言い出せない。やりたいことがあるのに正直に言えない。それが人に否定されるかもしれないと心のどこかで怯えているのだ。
そんな僕だから、最後まで言い出せなかったのだ。
初恋の人に、好きだと伝えることもできないのだ。
僕、鈴木涼太は、特にやりたいこととかもなくて、流されるような人生を送っていた。なんでこんな性格になったのかはわからない。気づいたらこんな性格になっていた。
多数派の意見を聞いて動く毎日。それでいいのかって?だってそれが一番楽だから。幼稚園の時だって、みんなが好きな遊具とかがあったらそこに混じって遊び、小学校の遠足の時だって、みんなが行きたいところがあったらそこに自分も賛成票を入れて、中学に進学するときも、クラスの大半が行く公立の中学校を選んだ。
大多数の人間が選ぶもの、そこに自分も混じるだけの毎日。いちいち考える必要もなく、ただ賛成とか反対とか言えばいいだけ。だから僕はそれでいいと思っていた。たとえそれが僕のやりたいことにそぐわなかったり、逆にやりたくないことだとしても。
そんな僕だから、大多数の人間に逆らってでも自分の意見を言う人たちのことを正直僕はすごいと思っていた。大多数の人間に否定されてでも自分の意見を言う、なんて勇気ある行動だろう。だから僕は純粋に尊敬してたし、でも同時に相入れない異星人か何かだと思ってしまう。だからそんな二つの意味を込めて、僕はすごいと思っていた。
そんな僕だからこそ、高校選びはひどく大変だった。高校進学が大半を占めるわけだけど、中学の時と違ってみんな行き先がバラバラなのだ。こうなると僕もどうすればいいのかわからない。だから僕は当時の先生に相談した。自分はどこの高校に行くべきなのか、と。
そんな先生が教えてくれた高校は、なんてことない共学の公立高校だった。そんなに偏差値が高いわけでも、低いわけでもない。地元に住んでる人間がとりあえず行くような高校だ。そこを教えてもらった僕は、すぐに願書を書いて提出する。そんで普通に入試を終えて、普通に合格を果たし、普通に中学を卒業した。そんな感じに僕の高校選びはなんの苦労もなく終わったのだ。
高校に進学し、教室に入る。そこで偶然中学の時に何度か話したことがあるクラスメイトがいたのでその子ととりあえず話をして友達になる。とりあえず開始早々ボッチにならなかったことにホッとしてしまう。これで少数派というのは回避された。
そんで体育館に行って入学式に参加し、その後HRが始まり、担任の先生の挨拶の後、クラス全員が自己紹介をしていく。別にこの時僕はウケを取ることもなく、普通に無難に挨拶を終わらせた。こういう時、ウケを取りに行ったり、印象に残る自己紹介できるやつは素直にすごいと思う。結果滑ったり、ヒソヒソ言われてるけど……。
自己紹介が終わると今度は委員会決めが行われる。この学校、委員会は一年生と二年生が合同して担当することになっている(三年生は受験のため免除される)。その中で一番の不人気は図書委員だ。なぜって?週に一回必ず活動があって、それで昼休みと放課後が潰れてしまうのだ。
せっかくの学生生活、それも昼休みと放課後という学生にとって数少ない自由な時間を拘束されるのは誰でも嫌だ。だからみんな違う委員会を選ぶわけだ。僕も大多数の人間が選んだ体育祭実行委員会(活動時期が非常に短く、その間だけ頑張ればいいから)に立候補した。
しかし、この時の僕はちょっと考えが足りなかった。大多数に人気の委員会、立候補者全員がなれるわけじゃない。当然あぶれる人も出てくる。そんな時、決めるにはどうするかと言えば当然じゃんけんとなるわけだ。それで僕は見事にじゃんけんで負けてしまう。あぶれる可能性を考えてなかった僕は馬鹿だと思う。
で、残った委員会というのは不人気の委員会ばかりなのだ。当然図書委員もまだ残ってる。その次の候補として僕は衛生保全委員会を選んだ。要するに花壇の手入れとか飼育当番とか、アレだ。でもそれは週に一回だけど、昼休みか放課後のどちらかだけでよくて、拘束時間も15分と短い。今度はそっちを選んだ。
けれどもそこのじゃんけんでも僕は負けてしまう。そうなると残された委員会はただ一つ。結果として僕は不人気の図書委員になってしまったのだ。こうして僕はただ単に大多数の人が選ぶものを選べばいいってもんじゃないことを身をもって知ることになったのだ
当時の僕はこんな幸先の悪い出来事にうんざりしていた。正直、高校生活は楽しめないんじゃないか。そんなふうに思いながら、図書委員の最初の会合に行く。
そこで僕は出会う——佐々木翔子という女性に。
佐々木:「初めまして……佐々木って言います。あの……よろしくお願いします……」
佐々木さんは同じ一年生で僕のいるクラスの隣のクラスの子だ。黒髪ロングで目元も見えないほどに前髪が長くて、分厚い眼鏡をかけていて、スカートの裾も長くて、正直地味で今時の女の子という格好ではなかったように思う。顔合わせの時はずっと視線を下に向けて俯いていた。そんな感じの……正直暗いタイプの女の子だった。
そんな佐々木さんの挨拶の後、五十音順で僕の挨拶が来るので、それを無難にこなし、数人の図書委員の挨拶が終わった後、図書委員の仕事の話が委員長から詳細に説明される。主に図書室の受付を担当するのだ。図書室の受付はそんな大変じゃない。本の貸し出し・返却を記録し、返却された本を元の棚に戻す。そんでたまに私語でうるさい生徒を注意する。ただそれだけの活動だ。
委員長:「——で、図書委員の活動なんだけど、原則二人組、曜日ごとで活動します」
最後に委員長はそう言った。原則二人組なのは、片方が休んでも大丈夫なようにするためだとか。そして肝心の二人組の決め方は——。
委員長:「んー新入生もいるし、まだみんな仲が良いってわけじゃないもんね。じゃあ……五十音順で上から二人組作ればいっか。足立さんと飯塚さんのペアは月曜、鹿島君と桐原さんのペアは火曜ね。佐々木さんと鈴木君のペアは水曜、私と立花さんのペアは木曜、南雲さんと矢島君のペアは金曜……これでいい?何かやりづらいとか、この曜日ダメとかあったら交換で!」
委員長がテキパキとペアを組んでしまう。その勢いに最初から委員長のキャラを知ってたであろう二年生はやれやれって顔をしてたけど、僕ら新入生は思わず口をポカーンと開き、互いのペアと顔を見合わせた。この時僕は初めて佐々木さんの顔を見たかもしれない。佐々木さんもまた分厚い眼鏡の奥に隠された瞳をパチクリとさせていた。この時僕は、「あ、佐々木さんの瞳って結構大きいんだな」とか呑気なことを思っていた。
結局、僕と佐々木さんは金曜担当となった。本来なら同じ一年生の南雲さんと矢島君のペアが金曜担当にされてたんだけど、南雲さんの方はアルバイトの関係で金曜に活動するのが難しいらしい。矢島君もどうやら部活で金曜に練習試合が組まれる確率が多いらしく、金曜担当はどうしても避けたいらしいのだ。
そんな中、白羽の矢が立ったのが僕らのペアで、僕も佐々木さんも金曜に忙しい予定は現時点で入っていない。だからだろう。委員長から「お願い!」と頭を下げられては断りづらいし、断る理由もそもそもない。僕らはその交換に応じ、金曜担当となったのだ。
それで金曜、初めての活動の日、僕と佐々木さんは昼休みのまだ誰もいない図書室で二人っきりになった。受付のテーブルに二人で座ってるけど、僕からしたら生まれて初めて女の子と二人っきりになるので、なんて話をかけたらいいのかわからない。
とりあえず最初は無難な感じだったと思う。
僕:「さ、佐々木さん……今日は……その……よろしくね?」
佐々木:「うん……鈴木君、だよね?……あの……よろしく」
僕:「……」
佐々木:「……」
一瞬で会話が終わってしまう。気まずい。でも、こんな時、女の子が喜ぶ話題なんて思いつかない。どうしよう……とりあえず持ってきた小説でも読んで気を一回落ち着かせよう。そう思って本を開く。
佐々木:「あ」
突然、隣の彼女からそんな声が発せられた。思わずそっちを見ると、佐々木さんも無意識だったようで慌てて口を押さえていた。
佐々木:「その……ごめんなさい。その本が……あの……私が知ってるものだったから……つい」
僕:「え。佐々木さん、これ知ってるの?」
佐々木:「えっと……はい」
この時の僕はとても驚いてたと思う。だってこの本って、そんなに有名じゃないからだ。最近のラノベっぽいけど、結構ハードな世界観で万人向けの作品ではないのだ。
それを佐々木さんが知ってるなんて。
僕:「よく知ってるね。だってこれ結構世界観がダークだし……」
佐々木:「うん。確か核戦争後の話だよね」
僕:「そう!核戦争で荒廃した世界、わずかに残った人類の村で育った女の子が、あることがきっかけで村を出るんだ!」
佐々木:「そうそう!女の子がそんな世界で自分の価値観を曲げずに必死に頑張る姿がいいの!」
僕:「うん!僕も主人公の女の子が頑張る姿が好きで、特にあの村を出る時に啖呵切って髪の毛を切っちゃうところとか——」
僕の持ってきた本で盛り上がる僕と佐々木さん、その談義は図書室に返却だけしに来た生徒が訪れるまで続けられた。僕の本の趣味が合う人なんて……今まで小学校にも中学校にもいなかった僕は、初めて人の顔色を窺わない会話をしたと思う。それぐらい佐々木さんとの会話は楽しかったのだ。
以降、佐々木さんと僕は図書室に人が来ない間、自分たちが今まで読んできた本のことをたくさん話すようになった。話してて分かったことだけど、どうやら僕と佐々木さんは本の趣味が合うようなのだ。
次第に自分たちが持ってる本を互いに貸し借りするようになってくる。そんでその本について自分たちの感想を言って、ああじゃないこうじゃないと意見を交わしていく。この時間がとても楽しくて、次第に僕は金曜の図書委員の仕事が楽しみになっていった。
一年生が終わり、二年生となった。あれから体育祭とか文化祭とかあったけど、いきなり僕が覚醒するとかそんな主人公的な活躍はなくて、体育祭は普通に短距離走に出て三着になり、文化祭は裏方の手先の器用な人のサポートを務めた。そんな特に波風も立たない学生生活が一年過ぎた。その間に僕と佐々木さんの関係は趣味の合う友人程度にまで進歩した。
クラスがまたしても離れ離れだけど、僕たちは再び図書委員を選び、図書委員の最初の会合で一緒の委員会になれたことを喜んだ。そんで振り分けはまたしても金曜、ペアはもちろん佐々木さんだ。
この時、少なくとも僕は、一年生の時と同じ時間を過ごせることを純粋に喜んだ。そこに恋愛感情とかはなかったと思う。
だから、こんな話が出てくるなんて、この時の僕は予想もしてなかった。
同級生A:「鈴木君ってさ……佐々木さんと付き合ってるの?」
ある日の図書委員の活動日、珍しく佐々木さんが日直の仕事で遅れるとのことなので一人で昼休みの受付業務をしていると、本を返却しに来た同級生がそんなことを言ってきた。この子は確か、一年生の時に佐々木さんと同じクラスだった子だよな?あー、だから佐々木さんのことを知ってるのか。
でも、なんでそんなことを思ったんだろう?
僕:「……いや、付き合ってないよ」
同級生A:「え、そうなの!?てっきりもう付き合ってるかと……」
僕:「えっと……なんでそう思ったの?」
僕は純粋な好奇心で聞いてみた。するとその子はキョトンとした顔で言う。
同級生A:「だって……わざわざ不人気の図書委員を連続して引き受けるなんて聞いたことないよ。去年も佐々木さんと同じ図書委員だったんでしょ?だからてっきり付き合ってるから彼女のために同じ委員会に入ってるんだと……」
なるほど。僕たちの行動が周りからそんなふうに見られていたのか。確かに、毎週必ず長時間拘束されてしまう図書委員を好き好んで二年連続進んで選ぶなんて、そこに彼女とかがいないと普通は選ばない、そんな発想なのだろう。納得する。
しかし、ここで勘違いを晴らさないと佐々木さんと僕が付き合ってるって噂になりそうだよな。そうなったら僕はいいけど、佐々木さんに大きな迷惑がかかってしまうし……。
僕:「違うよ……僕と佐々木さんは単に本の趣味が合うだけ……彼女じゃないよ」
だから僕は馬鹿正直に答えていた。
同級生A:「あ、そうなんだ……でもなんか二人なら合いそうな気がするけど——あ!もうこんな時間!じゃ、これ本返すね!」
用事があるのを思い出したのか、その子は本をカウンターに置いてその場をそそくさと出て行ってしまう。僕はその後ろ姿を呆然と見送った後、その本の返却記録を書いて、元の棚に本を戻しに行った。
その間、僕の中で佐々木さんの姿が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。それは佐々木さんが図書室に遅れてやってくるまで頭の中で渦巻いていた。
佐々木:「ごめん!日直遅れた!」
僕:「……ああ、佐々木さん。日直大丈夫だった?」
図書室に急いで入ってきた佐々木さんをできるだけ自然に迎え入れた……と思う。でも佐々木さんはじっと僕の方を見てきて、「ん?」と首を傾げる。
佐々木:「……鈴木君、なにかあった?」
僕:「え」
佐々木さんが僕の顔を覗き込む。佐々木さんの顔が眼前に迫ってくる。
あ、佐々木さんって結構まつ毛長いんだな。二重も綺麗だし、目も大きくて、顔立ちも整ってて……。
鈴木:「さ、佐々木さん!顔、近い!」
佐々木:「え……あ!ごめんなさい!」
佐々木さんが気づいたようで顔を引いてくれた。
鈴木:「……」
佐々木:「……」
僕と佐々木さんは互いに顔を背ける。顔が熱い……火でも出るんじゃないか。
鈴木:「えっと……佐々木さん」
佐々木:「うん……」
鈴木:「心配してくれてありがとう……」
佐々木:「……こっちこそごめんね。なんか問い詰める感じになっちゃって……」
鈴木:「いや、それは……うん、大丈夫……」
佐々木:「……」
鈴木:「……その……ね?……特に何もないよ?」
佐々木:「……………………………………そっか」
まさか「佐々木さんと僕が付き合ってるんじゃないか」って同級生から勘繰られていたなんて言うこともできない。でも佐々木さんはその答えに一応の理解を示してくれた。
佐々木:「……もし、何かあったら……言ってね?」
そう言って佐々木さんと僕は何事もなく、その日の図書委員の活動を行なった。佐々木さん的には、僕が何かを隠してると勘付いてるかもしれない。でも、多分僕から言い出すまで待つ方を選んだのだろう。それ以降、佐々木さんからこの件で話を切り出してくることはなかった。
でも僕は、これ以降、佐々木さんのことをどこか意識するようになった。
それは突然の出来事だった。二年生の体育祭の時、ちょうど借り物競走が行われていた。僕は短距離走の走者に選ばれていたので普通に観戦していた。
借り物競走の競争者が一斉にお題が書かれたメモ用紙が入ってる箱に群がり、その内容を見て自分のクラスへと戻っていく。
同級生B:「おい!誰かバンダナ貸してくれ!」
おそらく彼はお題に「バンダナ」とでも書かれていたのだろう。
同級生C:「あの……島田くん……い、一緒に……来て?」
おそらく彼女のお題は「好きな人」とでも書かれていたのではないか?
こんな感じにみんな、それぞれのお題を達成するため必死に物とか人を探してゴールまで目指す。
それは借り物競走の中盤で起こった。ある競争者が机の上にあるメモ用紙を見てキョロキョロしている。彼女のお題は一体なんだろうか?そんな彼女がクラスに戻り、偶然そこにいた佐々木さんと目があった。
そう全てがそこで変わった。
同級生D;「佐々木さん!ごめん、眼鏡貸して!」
佐々木:「え?」
おそらく彼女のお題は「眼鏡」ではないだろうか。そして佐々木さんはお題の内容を察して、その眼鏡を彼女に貸してしまう。
同級生D:「うん!ありがと——え、佐々木さん?」
佐々木:「な、何……?」
その声はやけに響いてたように思う。佐々木さんの大きな瞳が、長いまつ毛が、綺麗に整った二重がみんなにバレた瞬間だった。
同級生D:「あ、ごめん!すぐに返すから!」
佐々木:「あ、うん……頑張って……」
彼女は競走中であることを思い出し、佐々木さんの眼鏡をもって競技へと戻っていった。その顔はどこか赤くて照れてるようだった。
そんな眼鏡をかけてない佐々木さんの周りに佐々木さんのクラスメイトの人達が一斉に群がった。
同級生E:「佐々木さん!本当に佐々木さんなの!」
同級生F:「すごい!ツケマないのにどうしてこんな長いの!?」
同級生G:「目もおっきー!カラコンしてないのに……すごい……」
同級生H:「二重綺麗……なんで今まで眼鏡してたの!?もったいないよ!」
佐々木:「えっと……あの……その……」
自分のクラスメイトに褒められて戸惑う佐々木さん、そんな佐々木さんを見ていた男子達も……。
同級生 I:「佐々木って……結構かわいいな……」
同級生J:「え……マジで美人じゃん」
同級生K:「俺、惚れそうなんだけど……」
この日以降、佐々木さんはコンタクトをするようになった。
あの体育祭以降、佐々木さんに他の女子が絡むようになった。そのせいか佐々木さんはコンタクトをしてくることが多くなり、髪も少しだけ他の女子達と同じ髪型になっていく。佐々木さん曰く、「他の子達から無理矢理コンタクトにさせられたの……髪も……その子達の美容院に連れてかれて……」と。
その時の佐々木さんの顔は困っていたけど、でもどこか嬉しそうな表情だったから、僕はその変化を良いことなんだと捉えた。その時ちょっとだけ寂しさのようなものも感じたけど、それは身勝手な独りよがりなエゴだと思い、ちょっとだけ自分が嫌になった。
こんな感じに佐々木さんの外見は大きく変化したけど、でも佐々木さんの内面が変わることはなかった。以前のままの佐々木さん……好きな本の話題でいつも盛り上がる僕らの関係……せめてこの図書室の中のゆったりした時間はずっと変わらないものだと、信じていた。
それが間違いだと気づくのは、すぐだった。
同級生L:「なあ佐々木さん、明日暇なら俺たちと遊びに行かん?」
佐々木:「いや……そういうのはちょっと……」
同級生L:「なあ……別にいいじゃん」
僕が図書室の扉を開くと、早めに来ていた佐々木さんと佐々木さんところの同級生の男子が何かを話してるようだ。その男子がぐいぐい行ってるのに対し、佐々木さんは困った顔でその男子と話していた。
そう。こんな感じに図書室に押しかけてくる男子が増えたのだ。
佐々木さんが図書委員であることは周知の事実である。別に隠してることではないし、なんなら図書室の扉に受付の曜日ごとの担当者の名前が貼られてあるのだ。金曜の図書室に佐々木さんがいることは誰でも知ることができるのだ。
佐々木さんが実は美人だった噂は僕らの学年で割と話題になっている。だからだろう。金曜のこの時間、佐々木さんの噂を聞いた男子が野次馬のようにやって来ていた。その中には、こうして佐々木さんのことを口説こうとしている男子も少なくなかった。
同級生L:「あ?なんだよ、お前?」
僕:「……」
今回の人は……ちょっと……怖い……。僕が少し見ただけで睨んでくる。
佐々木:「……っ」
佐々木さんが助けて欲しそうな目で僕のことを見てくる……そうだよ。こんな図書室でしつこく絡んでくるなんて……佐々木さんを助けなきゃ!
僕:「あ……あの……」
同級生L:「あ?なにお前?」
僕:「そ……その……ここ図書室——」
同級生L:「あ?もう少しはっきりしゃべれよ?」
僕:「……っ」
同級生L:「言いたいことねえの?」
僕は何も答えることができなかった。情けない。目の前のこの人に萎縮していた。だめだ……怖い。何か言うべきなのはわかってる……けど……怖いんだ。
そんなふうに僕が言い返せないのを見て、目の前の男子は肩をすくめて再び佐々木さんの方を向く。
同級生L:「……まあいいや。それで佐々木さんさぁ?ちょっとは考えてくれよ。別に付き合えって言ってるわけじゃないんだしさ?ほんの少しだけ、あくまで友達としてさぁ……」
佐々木:「いや……その——」
同級生M:「ねえ」
男の子が佐々木さんの手を握ろうとしたその瞬間、後ろから声がする。その声にみんなが振り向くと、一人の女の子が佐々木さんに言い寄っていた男の子のことを鋭い目で睨んだ。
同級生N:「私、そこまでして誘えって言ってないんだけど」
そう言いながら女の子が男の子に詰め寄る。その際、女の子の方が佐々木さんの方を見て軽く会釈していたので、おそらく佐々木さんのクラスの子のようだ。
同級生M:「私、『誘えるなら誘って』って言ったじゃん。無理矢理誘えなんて一言も言ってないんだけど」
同級生L:「え?……そんなつもりねえぞ?」
同級生M:「はあ……あんたの言い方、まるでタチの悪いナンパみたいだったよ?」
同級生L:「え、マジ!?そう聞こえたか?」
同級生M:「うん。一瞬あんたの彼女にチクろうか迷ったもん」
同級生L:「あーマジか……ワリい佐々木さん、そんなつもりはなかった」
佐々木:「いや、その……うん……私こそごめんね?その日は塾が……はっきり言わなくて、ごめんなさい」
同級生L:「あーじゃあ無理か……悪い」
同級生M:「あんたがガツガツ行くから言えなかったんでしょ?……佐々木さん、ごめんね?コイツが強引気味に行っちゃったから……怖かったでしょ?」
佐々木:「いや……その……正直びっくりしただけだから」
同級生M:「……優しいね。鈴木もごめんね?図書委員の活動をコイツが邪魔したようで」
僕:「いや……あの……僕もちゃんと言えなかったのが悪いから……」
どうやら佐々木さんに言い寄ってたわけではないようだ。ただ単純に遊びの誘いだと聞いてどこかホッとしてしまう。いや……なんでホッとしているんだろう。それに結果勘違いだったけど、あの時佐々木さんのことをちゃんと守れなかった。なんだろう……自分が情けない。
この日以降、僕は佐々木さんに対して罪悪感を抱くようになる。あの時助けられなかった自分の不甲斐なさが大きくのしかかってしまう。そのせいか、図書委員での佐々木さんとの会話もどこかチグハグしたような感じになってしまう。
これについて佐々木さんも異変を感じたようで、「大丈夫?」とか「何か辛いことあった?」とか言われたけど、僕は誤魔化すように「大丈夫だよ……」と変な作り笑いをして誤魔化す他なかった。それについて佐々木さんは深く突っ込む真似はしなかったけど……結局このぎこちなさは変わらずに二年生も終わって、図書委員も無事お役御免となったのだ。
それはつまり……佐々木さんとの接点が皆無になるということだ。
三年目のクラス分けも佐々木さんとは別のクラスだった。それもしょうがない。だって佐々木さんは頭がいいから、そのためのクラスに振り分けされたのだ。それに対して僕は、成績も普通なので一般のクラスに振り分けされた。
三年生と言うことで僕も将来というのを考える段階にきている。でも僕は以前と同じ大多数の人間が選ぶ通り、なんとなく大学進学を目指すことにした。先生が言うには、国公立だと少し成績的に心配かもしれない。けれども都内の私立の文系大学なら結構いいところに行けるかもしれない。そのアドバイスを受けて、模試の結果とかから考えて、適当な私立の文系大学を目指すことにした。
こんな僕に対し、佐々木さんの方はいったいどんな大学を目指すのだろうか。佐々木さんの所属するクラスは国公立に特化した進学クラスだ。やはり地元の国公立の大学だろうか。それとも都内の有名私立大学だろうか。おそらくクラス的に文系の学部になりそうだけど……多分一緒の学校にはなれないだろう。
そう考えて僕はふと思う。どうして僕はここまで佐々木さんに固執するのだろうか。だってたまたま一緒になった委員会で、たまたま本の趣味が合うと言う程度の関係性だ。別に一緒に出かけたこともなければ、それ以上の関係になったこともない。本当に知人以上の友人という程度の関係だと思う。
それなのに僕は佐々木さんと同じ大学になれたらと思う自分がいる。でも、そうやって考えているとあの日のことも同時にフラッシュバックするのだ——言い寄られている佐々木さんを救えなかった自分の姿が。
だから僕は佐々木さんがいったいどこの学校に行くのかを知らない。声をかける勇気すらない。そんな僕が惨めで、自分が嫌になった。
だからだろうか。そんな罪悪感とか自分の不甲斐なさから逃げるように僕は勉強を頑張った。
季節は流れる。そして受験シーズンが始まる少し前、木々に紅葉が紛れる季節、高校最後の文化祭の前日に、僕のスマホに連絡が一件入る。
佐々木:『文化祭、よければ一緒に回る?』
僕の心臓が一瞬止まったような気がした。佐々木さんからの連絡……久しぶりだ。まさか佐々木さんから誘ってくるなんて……考えてもみなかった。
クラスが分かれて以降、僕らは互いの受験勉強に専念しているせいで今まで連絡を取ってこなかったのだ。そんな佐々木さんから連絡が来た。しかも、高校生最後の文化祭に僕を誘ってくれた。それだけで、僕と佐々木さんの関係は終わってなかったと感じて、なんだかとても嬉しくなる。
連絡しなきゃ……!そう思いスマホに手を伸ばして……フリーズする。
果たして僕でいいのだろうか。ふとそう考えてしまったのだ。だって佐々木さんはあの体育祭以降、学年でも上位の美人ということでまるでシンデレラのように多くの人に慕われる存在となったのだ。そんな彼女が、ただ委員会で同じになっただけの僕と一緒に文化祭を回る……いいのだろうか?
しかも僕は佐々木さんを守ることができなかった男だ……そんな情けない男が、佐々木さんの横にいていいのだろうか。そもそも、恋人でもない男が佐々木さんの周りをうろうろするのは佐々木さんにとって良くないのではないか?
——そもそも、佐々木さんほどの美人だったら、もう彼氏とかが既にいるんじゃないのか?
僕:「……」
僕は携帯をとりあえず手に持つ。返答の文章を書いては消して、書いては消してを繰り返す。もう既読になってるので、佐々木さんの方で僕が連絡を確認したのは知られてる。早く返事を返さないといけない。
僕は必死に悩んだ。何分経っただろうか。何時間にも感じられるし、実はそんなに経ってないのかもしれない。時間の感覚すらわからなくなった時、僕は返事をようやく打ち込んだ。
僕:『ごめん』
結局僕はチキンだった。その僕の返事に佐々木さんの方からすぐ返信が届く。
佐々木:『そっか……もし予定が空いたら、言ってね?』
そんな優しさを見せてくれる佐々木さんに僕はまたしても罪悪感を抱いた。
そんなやり取りがあった翌日、文化祭の当日、僕は自分のクラスの出し物の係を終えて、空いた時間で文化祭を一人でブラブラしていた。そんな時だった。
僕:「あ」
窓から中庭の方を見ると、佐々木さんがいた——他の男子と。
その男子と話してる佐々木さんはとても楽しそうで、楽しそうで……楽しそうで……。
僕:「……っ」
気づいたら走り出していた。廊下を歩いてる他の生徒とか見学客とかがギョッとした目で見てくる。でも今は、その場にいるのがなにより辛かった。嫌だった!見たくなかったッ!
校舎外れの誰も来ないトイレ……その個室の扉を閉めて、僕はやっと吐き出すことができる。
僕:「ああああああああああああああああああッッッ………!!!」
馬鹿だな僕……いつの間にか、恋をしてたんだ。
そこからのことはほとんど覚えていない。すぐに受験がスタートしたからだ。結局僕はセンター試験を受けて、そこでたまたま通った大学に行くことにした。他の第一志望と第二志望の大学はダメだった。
それも仕方がないのかもしれない。あの後の僕は本当に抜け殻だった。もう受験をする気力もなかった……いや、これは言い訳……すべては僕が頑張らなかったせい。
僕は卒業証書の筒を持って、ぼーっとした表情でいつの間にか図書室に来ていた。なんだろう。笑っちゃうよな?だって高校の一年の時と二年の時の金曜の昼と放課後しか活動しなかった場所が、僕の高校の全てなんだぜ?
そう……ここが僕の全てだったんだ。それを今更気づいたんだ。
佐々木:「あ、やっぱりここにいた」
まさか……その声を聞いて僕は後ろを向く。
佐々木:「久しぶり」
それは佐々木さんだった。佐々木さんはもう最初の頃からだいぶ変わって、髪型も変わったし、コンタクトになってるし、メイクも前と違って変わっていた。本当に……まるで女優さんのようになっていた。
佐々木:「卒業、おめでとう」
そんな佐々木さんが祝いの言葉を贈ってくれる。そこで僕はハッとして返事する。
僕:「あ……佐々木さんも……その……おめでとう」
佐々木:「うん……ありがとう」
いつ以来だろう、生声を聞いたのは。もしかして二年の最後の図書委員以来じゃないだろうか。それ以降、僕らはまったくと言っていいほど、話もしなかったし、声すら聞けなかった。
もしかしてこれが三年で最初で最後の会話かもしれない。
僕:「……ぁあの!」
そう考えたら、上擦った感じに口を開いていた。恥ずかしい。もっと自然に聞くはずだったのに……。
佐々木:「ん?」
そんな僕を笑いもせず、佐々木さんが聞いてくれる。そんな優しいところに僕の胸が温かくなる。でも……何を話そう?
僕:「さ、佐々木さん……大学は決まったの?」
違う。本当はそんなことを聞きたいんじゃない。いや、それも聞きたいことだけど……それではないんだ。
佐々木:「……そっか。話してなかったもんね」
佐々木さんがコクンと頷く。
佐々木:「……うん。前から行きたかったところだから、受かってよかった」
僕:「そ、そうなんだ……僕も……うん」
佐々木:「!……大学、受かったの!?」
僕:「……うん。滑り止めだけど……」
佐々木:「そっか……うん……そうなんだ」
きっと佐々木さんのことだ。行きたいところと言ってたから、多分地元の国公立にちゃんと受かったに違いない。だからもう、彼女とは会えないんだ。
僕:「……」
佐々木:「……」
色々話したいことがあるのに言い出せない。そして佐々木さんの方も、何か話したいことがあるのか口を開いては閉じるを繰り返す。
佐々木:「……最初はね?鈴木くんとは気が合わないって勝手に思ってたんだ」
切り出したのは佐々木さんだった。おそらく佐々木さんが言ってるのは最初の一年の時の図書委員の話だろう。
佐々木:「なに考えてるのかわからないし……まあ初対面だからわからないのは当たり前だけど……どうしようって思ってた」
佐々木さんはそう言いながら図書委員の受付席に座る。ああ……懐かしい。こうして佐々木さんと二人で座ってた。
佐々木:「覚えてる?鈴木くんが持ってきた本がきっかけだったの」
ああ。それは今でも覚えてる。あれがあったから君と……。
僕:「……うん。もちろん」
佐々木:「そこからお互いに本の趣味が合うことを知って、本の貸し借りとかしちゃって……」
佐々木さんはそう言いながら自分の髪の毛を指でくるくる巻く。
佐々木:「私、さ?二年生の時に、こう……イメチェンしちゃったじゃん?」
僕:「……うん」
佐々木:「そこからは……まるで自分の人生じゃないみたいに色々変わっちゃって、髪もこんな感じに綺麗になって、眼鏡も外しちゃって、メイクも……」
僕:「……うん」
佐々木:「……友人も多くなっちゃったし、ホント色々あったの」
僕:「…………うん」
その「色々」という言葉から、あの文化祭の時に見かけた佐々木さんの姿がフラッシュバックする。それを思い出した瞬間、自分の胸が少しだけチクッとしてしまう。
佐々木:「でもね?」
佐々木さんが僕の目を真っ直ぐ見つめる。
佐々木:「どんな思い出よりも、一番楽しかったのは鈴木くんといた時だった」
僕はこの時どんな表情をしていたのか、覚えていない。
佐々木:「……それだけ。言いたかったの」
そう言って佐々木さんが席を立つ。そして僕の前でペコっとお辞儀をした。
佐々木:「ありがとう。鈴木くん、そして……さようなら」
佐々木さんはそう言いながら図書室を去って行った。この後、僕がどう家に帰ったのか覚えたいない。でも、自宅の自室にいると自覚した瞬間、僕は声にならない叫びを上げて、涙を流していた。
桜が咲く季節……いや言いすぎた、蕾のままの奴と既に咲いてるやつが半々ぐらいの季節、僕は最後の段ボール箱を片付け終えて、これから自室となる部屋を見渡す。
僕:「……やっぱ狭いや」
僕はこれから四年間、一人暮らしをすることとなる。その一人暮らしの部屋を、自分の城となる1Rの部屋を満足そうに見渡した。我ながらいい感じにインテリアとか配置できたのではなかろうか。
僕:「ふう……とりあえず間に合ったな」
なんとか予約前に部屋の片付け・整理が終わったことに安堵する。これから人生初の美容院へと僕は向かうのだ。そしてこの髪をばっさりと切ってもらうのだ——自分の、この不甲斐ない姿を変えるために。
僕は今度の大学生活で自分を変えようと決心していた。あの高校生活で僕は佐々木さんと言う掛け替えのない人がいたにもかかわらず、それに気づかないで、最終的に佐々木さんと後味の悪い最後を迎えたと思っている。
それに最終的に自分の心の内を打ち明けられなかったのも、大きなしこりとして残っていた。
だから僕はこの大学生活で、少しでも自分のこの流される性格とかやりたいこと、したいことが言えない性格を変えようと思う。
二度と、あんな苦い想いをしないために。
そんな決心を抱いた僕は、まず手始めに形から入ることにした。まずは今日行く美容院で髪をばっさり切ってもらおう。前髪が長いのもなんとかしよう。全体的にもっさりした髪型をなんとかしよう。そして次に服を買うんだ。少しでも明るい感じの服がいいかな?……まあでもできるだけ派手すぎない感じで。これで外見は大きく変わるだろう。
でも僕は、これで内面まで大きく変わるとは思っていない。あくまでこれはきっかけだ。これがきっかけとなって少しでも自分の性格が良くなることを切に願った。
僕:「すごい……人が多い……」
目の前に人、人、人……大学ってこんなに人が多いところなのか?びっくりする。
大学生A:「新入生はまっすぐ講堂の方へ!ガイダンスはこっちです!」
大学生B:「フットサルサークル入りませんか!」
大学生C:「あれ!?文学部のガイダンスってどっち!?」
大学生D:「一緒にボランティアしませんかぁ?」
大学生F:「みっちゃん!?」
大学生G:「え、嘘!?ゆいちゃんもここだったの!?」
大学生H:「今日人多いわ……講義代返しといて」
大学生 I:「え〜お前サボんの?俺もサボろっかなぁ」
大学の正門をちょっと入ったところでこんなに人だかりができている……こんなに人が多いと酔ってしまいそうだ。思わず怖気付いて後ろに下がりそうになってしまうのをグッと堪える。
そうだよ……こんなところで帰ってどうするんだ?自分を変えるんじゃないのか?ここで日和っててどうするんだ?
僕:「すう……はあ……」
僕は深呼吸をする。短くなった髪と買ったばかりの服が風に揺れる。大丈夫……大丈夫だ。
僕:「……よし!」
僕は大学の敷地に一歩足を踏み出す。ここから僕の学生生活を楽しむんだ。今度はもっと、自分のしたいことをするんだ。そして佐々木さんと次会った時に、堂々と自信を持って「大学生は楽しかった」と伝えるんだ!
新入生A:「ねえ、なんであの子この大学にしたの?もっといいとこあったでしょ?」
新入生B:「うん!私もそう言ったんだけど、なんかゼミに入りたい先生がこの大学にいるらしいんだって」
新入生A:「なにそれ!?ホント真面目だよねぇ……」
新入生B:「うん……担任も『これだけの学力があればもっと上の国公立とか私大とか受けられるけど?』って言ってたらしいけど、それでも譲らなかったらしいよ」
新入生A:「へー勿体無い。でも、それって親とか反対されなかったのかな?彼氏とかにも」
新入生B:「いや、親は特に反対しなかったみたいだけど……ん?彼氏?」
新入生A:「ほら!一時期話題になったじゃん!文化祭の時に一緒に回ってた……」
新入生B:「あー!あいつ!?あれ、ミカの彼氏でしょ!?確か文化祭の出し物の担当とかでよく一緒に行動してたらしいけど……彼氏じゃないって。そもそもそれでミカが一回切れて彼氏鬼詰めしたらしいけど、彼氏の方が『マジでない!』って泣きべそかいてたから!」
新入生A:「あ!そうなんだ!私てっきりアレが彼氏だと……」
新入生B:「それに翔子、好きな人いるじゃん?ほら……あの図書委員の……」
新入生A:「え……あー!あのメカクレくん!?なつかしー!私、一年の時いっしょだったわ!」
新入生B:「あ、そうなの?それ……翔子の前で言わないでよ?」
新入生A:「え?なんで?」
新入生B:「翔子がブチ切れるから」
新入生A:「え……翔子キレるの?」
新入生B:「うん……なんでも一目惚れだって」
新入生A:「そうなんだ……委員会でも一緒だった人が彼氏になったんだ。いいなー」
新入生B:「……それも言わないでよ。結局付き合わなかったんだから」
新入生A:「えー!?なんで!?もしかしてメカクレくんに彼女いたの!?」
新入生B:「いや……なんか好きすぎて声かけられないで、結局友達のまま卒業しちゃったんだって」
新入生A:「え……なにそれ?もったいない!」
新入生B:「それ言わないでよ?あの件ですっごい翔子落ち込んじゃって、元に戻すの大変だったんだから」
佐々木:「誰が大変だったの?」
新入生A&B「「!?」」
佐々木:「もう……また私のいないところで悪口?」
新入生A:「ち、ちがうよぅ……あの翔子のメカ——もがっ!?」
新入生B:「め、メカ!いやぁ……メカ欲しいなぁ、なんて——あれ翔子?髪切ったの?」
新入生A:「もがもが」
佐々木:「ああ、うん……ちょっとね?」
新入生B:「あんなに長かったのにもったいない……でも似合ってるよ?」
新入生A:「……」コクコク
佐々木:「……ふふ、ありがとう。さ、早く文学部のガイダンス行きましょ?」
新入生A:「ぷはっ……あ、うん。行こう行こう」
新入生B:「ほっ……確かあっちだったよね」
佐々木:「……」
新入生B:「ん?翔子、どうした?」
佐々木:「……ううん。なんでもない、いきましょう」
僕:「……あの髪」
佐々木:「……あの髪」
僕:「まさか、な」
佐々木:「まさか、ね」
この後、僕と佐々木さんはどうなったでしょう?
高校青春悲恋物かと思いきや、実はそもそも物語自体が始まっていないパターンでした。
今のところ、続きを書く予定はないですが、プロットができたら書くかもです。