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お料理術士ターニャの異世界商店~うざ系女児は錬金釜をゴリゴリかき回す~

 町の道具屋さんの娘ターニャは、元冒険者のトーマと錬金術師の母アオイの間に生まれた愛娘で、ただいま生意気盛りの七歳の女児。

 ある時、父トーマが旅の少女を追って家を出てしまい、母アオイもその跡を追いかけてしまう。

 そんな両親のやりとりに慣れ切っていたターニャは、これ幸いと一人暮らしを自堕落に過ごしていた。

 しかし、その数日後、父を追っていた母から手紙が届き、しばらく帰れない上、月末には商業ギルドから家賃の請求があることを知る。

 一人残されたターニャは、家と悠々自適な生活を守るため、たった一人で両親の経営していた道具屋の店頭に立つことになるのだが、しかしお店にはロクな在庫が残されていなかった。

 そこでターニャは母の残した錬金釜の前に、なけなしの魔力を振り絞る。

「お腹がすいたのです。食べ物をつくるのです」

 ──食い意地のはった生意気女児が錬金頼みのお料理術でお客を魅了する。

++++



 ──それは、一通の手紙からはじまるのだった。


”かわいい私の愛娘ターニャちゃんへ


 ママはいま、若い女の尻を追って出て行ったお父さんを探して大陸東部の大森林にきています。

 旅のうわさでパパたちらしきパーティが天空のダンジョンに入っていくところを見たという有力な情報を得ましたので、これからママも攻略に向かおうと思っています。

 そうなればひょっとすると何ヶ月も帰ることはできないかもしれません。

 そこでふと思い出したのがお家とあなたのことです。

 あなたも知っての通り、うちのお家は賃貸で商業ギルドからお家賃を払って借りています。

 なので、一か月に一度、商人ギルドのヘンリーさんがお家賃を取りにやってきます。

 もし支払えなければ、あなたは眠るところも食べるものもなくなってしまいます。


 かわいいあなたの身を危ぶみ、すぐにでも家に戻ろうかと思いましたが、……よくよく考えてみればあなたももう七歳。そろそろ世間さまの冷たい風にもまれてみるというのならば──それもまた一興、と考えなおしました。


 お店の経営はまるっとあなたにお任せするのでお家賃の支払いはお願いね!

 ダンジョンに潜るとしばらくはお手紙も出せなくなってしまうけれど、きっとあなたなら大丈夫。もう七歳のお姉ちゃんですもの。


 それじゃあまた手紙書くからね。がんばってね!


 ターニャちゃんのママより


 追伸

 ヘンリーさんは月の最後の日にお家に訪れます。

 ひとまず今月分はお店の金庫の中に入ってるのでそれで支払っておいてください。

 だからターニャちゃんががんばるのは来月からね。

 一カ月あたり、お家賃のほかに保険、税金もろもろ含めて金貨ニ枚くらいかかるけど、なんとか稼いで! でないとホームレスだよ!


 売るものに困ったらお店の奥にママの錬金釜があるので、それでちゃちゃっと何かテキトーに作ってみてね!


 もしかしたら掘り出し物が作れるかも、なんちゃって!”


 ………………


 …………


 ……


「って、あほですかあああああああああああっ!!!!!!」


 手紙を読み終えると、ターニャはそれを思い切り床へと叩きつけた。


「なーにが”──それも一興”なのです! ”ちゃちゃっとテキトーに”って、ありあわせでお夕飯つくるのとはわけがちがうのです! おまけに”なんちゃってー”って今年三十三になるおばさんがはずかしーのです、パパもママも恥ずかしーのです!」


 ゲシゲシと八つ当たり気味に手紙を踏みつけ、はぁはぁと肩を大きく揺らすと、ターニャはベッドへばたりと倒れ落ちた。


「はぁ~。……しまったです。あの金庫のお金がお家賃のお金だったなんて……。お高いおやつをいっぱい買ってしまったのです……」


 両親が家を出てから約一週間。

 鬼の目を逃れたターニャは、これ幸いとすでに金庫のお金にまで手をつけていた。


「……残り銀貨六枚。今月末まで残り三週間くらいなのにぜんぜん足りないのです……。どーするですかねー。どーしましょうねー」


 ゴロゴロとベッドの上を転がり回るターニャ。


「……ひとまずお店に売れのこってる商品を売ってえ……うーん。どうせなら私の独自性を押し出したいですねー。いっそこの機会にお店の名前もターニャ商店に改名するのもいいです。今どき”道具屋”とか流行らないのです」


 ぶつぶつゴロゴロと勝手なことを言いながら一刻ほど過ごした後、ターニャはむくりと起き上がった。


「……しょうがないです。お店をあけるのです。せちがらいですねー」


 億劫そうにこぼしつつも、ようやく現実に向かうことにしたらしいターニャ。二階の部屋から一階の商店スペースへと向かう。


「……うーんっ、重いのです。毎回これを開け閉めするのがたいへんなのです……!」


 小さな体で精いっぱい踏ん張って、ガラガラとしまっていたシャッターを上へと開く。

 シャッターを開くと、太陽の光とともに通りの人々の声が店内まで響いてきた。


「……開けたはいいですけど、もうすぐ夕方ですね」


 ちらり空を見上げてみると、すでにお日様は西に傾いていた。

 昼過ぎまで寝て、そのままゴロゴロ過ごしていたのだからそれは仕方がない。


「まぁでもちょうどよかったかもしれないのです。もうすぐお客さんのかき入れ時なのです」


 ──ターニャのお店は、ここ城郭都市ルダスの出入り口につながる下位ストリート沿いにある。

 中央の市場からは外れ、訪れる客は町の住民というより、街を頻繁に出入りする冒険者や商人が主であり、夕方になれば町を出ていた冒険者や旅人たちが街に帰ってくるのだ。


「さぁ、うちのお店の品ぞろえはどーなってるですかねー?」


 そういうとターニャはクルリと店内へと振り返り、陳列棚をのぞきこむ。


「……うーん。何ですかこの木の棒は? こんな棒でモンスターに立ち向かうひとなんてほんとにいるです? ……こんなの売って死人でも出たらうちの評判が悪くなってしまうのです。没なのです」


 ぽいっ。


「これはポーションですね。使うと怪我が治る謎の液体なのです。パパは”飲んでよし傷口にふりかけてよし!”なんていい加減ななこといってたですけどどっちなんでしょうか? ……それにしてもみごとに青い色なのです。よくみんなこんな得体のしれない液体を口にできるです」


 確保。


「えーとこれは……ステテコぱんつ」


 ぽいっ。


「この木の札は武器ですね。えっとこれは……銅の剣?うーん。なんだか振りまわすとポッキリいっちゃいそうなのです。やっぱり剣というなら鋼くらいのランクがほしーですね」


 ちなみに剣は防犯上の理由から実物は店頭には置いていない。客から請われた時だけ店の奥から出すことになっている。


「……うーん。パッとしませんねぇ。どれもどこにでもおいてそうなものか、いらないものばかりなのです。こんなのでよく今までつぶれなかったものなのです」


 はぁっと大きくため息をつくと、ぐぅとターニャのお腹が鳴る。ターニャは在庫あさりの手を止めて、自分のお腹をさすった。


「おなかすいたのです。ちょっとはやいですけどお夕飯をたべるです」


 そういうとターニャは店番をほっぽり出して、さっさと台所スペースへと向かうのだった。



++++



<お客さま視点>


 ──その日、エイシャは上機嫌だった。


(……くっくっく! 久しぶりの町だし今晩は酒場で一杯やっちゃおっかな?)


 ホクホク顔で通りを歩く彼女の懐を膨らませているのはここ数日のハントの成果だ。

 トレジャーハンターである彼女は冒険者ギルドの管理するダンジョンへと潜り、お宝を探索したり、時にはモンスターを倒してドロップ品を得ることで日々の生活の糧としている。

 今回の冒険ではそこそこのドロップ品を手に入れたらしく、その硬い感触を確かめるように手でさすってはニヤニヤと相好を崩している。


(んふふふ。明日はちょっとゆっくりしてー。たまにはなんか美味しいものでも食べよっかな──って、……あれ? なんだろ? なんだか、やたらいい匂いがするような……?)


 思わず立ち止まってスンスンと鼻を鳴らすエイシャ。

 キョロキョロと辺りを見回してみると、すぐ隣のお店の女児と目が合った。


「……もぐもぐもぐ」


 果たして店番をしているつもりなのか、女児は短い足を投げ出すように椅子の上に座り、何やらもぐもぐと食べている。


「いらっしゃいませなのですもぐもぐ」


 女児は立ち止ったエイシャを見てお客さまと勘違いしたのか、ぺこりと会釈してきた。

 その間にも手にはしっかりと丼とお箸を持ち、もぐもぐと口を動かし続けている。


 ひたすらもぐもぐとやり続ける女児を見て、──はて、とエイシャは首をかしげた。


(……ここってトーマさんとアオイさんのお店よね? こんな子いたっけ?)


 ジッと見つめてみるも、女児は無言でエイシャを見つめ返しながら丼をかきこんでいる。

 自然とエイシャの視線も女児の丼へと向かう。


(なんだか見たことない食べものね。あの上に乗ってる茶色いのは何かしら?)


 湯気の立つ丼からは、先ほどからのいい匂いが漂ってくる。

 思わず、ゴクリと喉を鳴らしながらエイシャは尋ねた。


「……美味しそうね?」


「とってもおいしーのです。もぐもぐ」


 返事こそするものの、女児の口は止まらない。

 ひたすらもぐもぐと口を動かし、ごくんと飲み込むと例の茶色いものをかじって白いご飯をかきこんでいく。

 その姿は接客中というよりも、わたしはご飯に夢中ですという様子だった。


「……ごくり」


 エイシャの口の中を絶えず唾液があふれ出て満たす。

 ひどく香ばしい丼の匂いに加え、目の前の女児の健啖ぶりが、冒険帰りのエイシャの食欲に拍車をかけてかき乱していた。


「ね。それ、何食べてるの?」


 エイシャが尋ねると、女児はパチクリと瞬きした後、首をかしげながら答えるのだった。


「? 鰻丼なのですよ? え──食べたことないのです?」

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