Interlude ~ヒーリング・キャットの特別休暇~
「ミャア~………」
憂鬱な雨の午後。広い屋敷の中で一人(?)、アンニュイな欠伸を吐き出し、ソファに寝そべるわたくし。うん。気だるげで陰のある表情は、いつもの愛くるしいものと違う妖艶な魅力を醸し出しておりますわ。流石わたくし。……というよりも雨の日は身体が重くて動きたくないだけなのですけど。
あら、わたくしとした事が、自己紹介が遅れましたわ。御免あそばせ。
わたくしの名前は『ディア』。世間一般では『猫』科に分類されておりますが、そんな事は瑣末な問題ですわ。この高貴な口調を聞いて分かる通り、メス。歳は最近3歳になったばかりのピチピチ美少女。クリクリの可愛らしい瞳、形の良い耳、艶のある白い毛並みが自慢の純血ペルシャですわ。その辺の駄猫と一緒になさらないようお願いいたしますわ。……え? 『ネコの3歳は少女じゃない』ですって? ふん、それこそわたくしには瑣末な問題ですわ。わたくしが美少女と言ったら美少女なんですの。お分かりになって?
「ニャア~………」
ふう、平日の昼下がりというのは退屈で仕方ありませんわね。外は雨模様ですのでお散歩にも行けませんし。屋敷に使用人がいるのは午前中と夕方ですし。ご主人様が帰って来るまで軽く5時間以上。奥様御用達の昼ドラマも見飽きてしまいましたし。それまでどう過ごしたものかしら……。
し、失礼ですわねっ!! わたくしだって、いつも食っちゃ寝ばかりしているのではありませんわよっ!! ちゃんと地下室に組織されていた黒光りする小さな悪魔のコミュニティを壊滅させたり、屋根裏に巣くう尻尾の長い化け物を追い掛け回したり、壁で爪を研いで次回の戦闘に備えたりと色々頑張っておりますわよっ!! ただ今日は身体が重くて……特別休暇中なのですわ。たまにはこんな日も必要なのではなくて?
「ミャウ~………」
……何もしないで寝そべっていたら、何だか眠くなって来ましたわ……。深いまどろみがわたくしを手招きしているよう。ああ……、わたくし……わたくしは…………。
「ディア? 寝てるの?」
……わたくしを呼ぶ声がしますわ……。その声に導かれて、うっすらと目を開けると……そこにはご主人様がわたくしの顔を覗き込んで柔らかく微笑んでいる。……はっ!? わたくしったらお出迎えもせずにこんな所で眠りこけて……。外はすっかり夜の帳が下りていて、ご主人様も帰宅していた様子。いつもなら玄関までお出迎えに行くのに………恥ずかしいったらないですわ…………。
「あ、ゴメンなさい。起こしちゃったわね」
ご主人様……静流お嬢様はわたくしを抱き上げて、顔を摺り寄せてくる。わたくしは親愛の情とお出迎え出来なかった謝罪の意を込めて、ご主人様の顔を舐めた。
「ニャア~♪」
「ふふふ……くすぐったいよ、ディア」
わたくしの素敵なご主人様。本来ならばわたくしがご主人様を癒して差し上げなければならなのに、結局はわたくしが癒されているのでは意味がありませんわね……。こうやっていつも戯れてくれるご主人様が、わたくしは大好きですわ。
ご主人様。わたくしを愛してくださって、ありがとうございます。わたくしも精一杯ご主人様を愛しますので、これからもよろしくお願いいたしますわ―――――
Interlude out