Interlude ~カードの行方は神のみぞ知る……はず~
「チェックメイト」
「うおうっ!?」
「………」
ある土砂降り雨の日。SSSの事務所には労働放棄者……もとい、暇人が3名。うち2人が盤上遊戯に勤しみ、残りの1人はその様子を観戦している。厳密に言えば、金音静流は木ノ下瞬が何処からか見つけてきたチェスに付き合わされ、土笠瑛理は仕事片手間に観戦を決め込んでいるのだ。
戦績の方はと言えば………
「木ノ下……。お前がチェスなんていう知的なゲームで静流に勝てるワケねェだろ」
「たった36手で勝負がつくとは思ってなかったけどね……」
「もう一回! もう一回お願いします、静流さん!」
さっきからずっとこんな感じ。まあ頭の出来を考えれば至極当然の結果だろう。諦めの悪い瞬は負けても負けても食って掛かる。静流も静流で今日は珍しく仕事が少なく他にやる事もないので付き合っているのだが。
「じゃあ今度はこっちの将棋をやりましょう! こっちなら負けないッス!」
「………チェスといい、一体何処から持って来てるの、それ……」
「………チェスも将棋も大して変わんねェだろ……」
―――5分後。
「…………詰みよ」
「うおうっ!!」
「あのなぁ………」
「こんなはずじゃ……こんなはずじゃないんスよ!!」
「……たった28手で勝てたのは流石に新記録ね……。下手すれば世界最速記録かも……」
「大体最初の7手でどうやったら飛車・角両方失えるんだよ……。ある意味画期的な戦法だな……。マネしたいとは思わんが」
そう。瞬は頭が悪い上に戦略的センスがない。つまり全く以てこういったゲームに向かないのである。片や静流は高スペックな生徒が集まるSGの中でも群を抜いて頭の回転が速い。『才気煥発』とでも言うのか。一連の流れの読み、瞬間的な判断力に優れている。故にこのようなゲームは得意としているのだ。
「………むう………」
「諦めろ。お前じゃどうひっくり返っても静流には勝てねェよ。俺でさえガチでやったら勝てるかどうか分からねェってのに」
「くやしいッス! おれくやしいッスよ先輩!!」
「何処の熱血学園ドラマなのよ、それ………。普段『先輩』なんて呼ばないでしょう?」
「じゃあ今度はトランプで! こっちなら間違いはないッス!!」
「だから一体何処から………」
「こっちも雑務が終わったから、今度は俺も入ろうか。そうすりゃもう少し面白くなるかもな」
「おおっ! いいッスね!!」
「そうね。瑛理が入れば多少は楽しめるかも。で、何やるの?」
「ポーカーで!!」
「……は? お前、ポーカーフェイスとか最も苦手な部類だろ? そんなんで大丈夫か?」
「大丈夫ッス! ポーカーなら、おれ負けた事ないッス!!」
「………まあ瞬クンの根拠の無い自信はいつもの事だし。そんなに言うなら少し賭けをしましょうか。後でちょっと買出しに行かなきゃいけないんだけど、10戦やって一番負けた人が行くっていうのでどう?」
「ああ、俺は構わんぜ。静流はともかく、木ノ下には負けねェだろうし」
「楽しそうッス! うおお!! 萌えて来たッスーーー!!」
「「字が違う!!」」
かくして、瞬・瑛理・静流の三つ巴ポーカー対決が幕開けた。
――――30分後。
「「………何故………」」
結果。
瞬…………7勝
静流………2勝
瑛理………1勝
瞬の1人勝ちである。何故こんな結果になっているのかと言うと……
「何であんなにいい役ばっかり木ノ下の所に集まるんだ……?」
「……でもイカサマしてないのは明白よね……。ディーラーはローテーションでやってた訳だし……」
「大勝利ッスーーーーー!!」
雨音のBGMに、瞬の絶叫が木霊する。
瞬は『引き』が異常に強い。そこは実力でも何でもなくただの運なのだが。上がった役を見てみれば、流石に5カードやロイヤルストレートフラッシュは出なかったものの、フルハウスやストレートフラッシュ、4カードなどそうそうたる役ばかりである。ポーカーフェイスとは元々、相手に自分のカードを悟らせない為のものである。実際手元に強いカードが揃っているのなら、ポーカーフェイスなど何の役に立つだろうか。
静流が2勝、瑛理が1勝しているのは、勝負終盤に危機感を感じた為自分がディーラーの時にイカサマをしたからだ。しかし時既に遅し。結果が覆る事はなく、瞬の1人勝ちで勝負の幕は閉じた。
「大勝利ッスーーーーーーーーーーーー!!!」
「……こ、この土砂降りの中、買出しに行かなきゃならんのか……。ぐう………」
「今度瞬クン連れてラスベガスに行って来ようかしら……」
勝利の雄叫びを上げ続ける瞬。うなだれる瑛理。何か怪しげな事を企む静流。三者三様の感情が入り乱れながら、SSSの一日は過ぎて行く―――――
Interlude out