Work of SSS File No.5 ~キレイなお姉さんは好きですか?・後編~
「いざ往かん『ドリームファンタジア』っ♪ そこは愛と希望とその他諸々の何かドロドロしたものが渦巻く楽園っ♪ 現世から隔絶された、何が起きても不思議じゃない別世界っ♪ そう、そこではどんな間違いだって起こってしまうんだよっ♪ ふふふ………♪」
「すっげえ不安を掻き立てられる説明だなオイ。行く気が急速に減退してきたぞ。お前何を企んでいる?」
『……………』
熱い夏日を更にヒートアップさせるような熱気を放ち暴走するSG女生徒一名と律儀にツッコミを入れる男子生徒、それを得も言われぬ視線で眺める一組の男女。場所は『Cafe wind bell』、通称『風鈴』と呼ばれる喫茶店・オープンテラスの一角である。当然周囲の客に迷惑なのは言うまでもなかろう。
前編で遊園地の無料パス(偽造)を貰ったSSSメンバーの水乃森雪夜・日坂春奈、此度の依頼人・柏木公太は、ターゲットである白川智華をデートに誘う為風鈴を訪れていた。その辺は流石瑛理と言うべきか、ベストタイミングでシフトを終えた智華を捕まえ、公太が助けてくれたお礼をしたいとの名目で誘いを掛けてみた所、二つ返事で了承。智華は元々絶叫マシン系が大好きだったらしく、ドリームファンタジア(以下『DF』)には是非行ってみたかったのだという。ビックリするくらい順調に事が運び、いよいよ後は楽しむだけという段階で遂に春奈のアレが振り切れてしまい、現在に至るのであった。
因みに作戦としては雪夜と春奈が慣れない公太や智華をダブルデートという形で直接サポート、瞬と碧は既にDF内に潜入し陰ながらサポートするという振り分けだ。……この配置決めの際、微妙に一悶着あったのだが、そこは卑怯にも上級生権限を振りかざした暴走娘が強引にうっちゃって独断決定をし、下級生達は泣く泣くサポートに回ったのであった。年下に配慮するという事を知らんのか、このSGのアイドルは。
「……相変わらず春奈ちゃんは元気だねぇ……。それにしても、たかがあの程度の事のお礼でこんな貴重なチケット貰っちゃって本当にいいのかい? 手に入れるの、凄く大変だったんじゃ……」
楽しげにくるくる回る春奈をよそに、智華は公太に向き直る。
「……あ、いえ、コレ僕も貰ったんです。お礼ならあの二人に言って下さい。……まさか偽造だなんて口が裂けても……」
「ん? 何か言ったかい?」
「い、いえ! 何も言ってません。僕は何もイッテマセンヨー。アハハー」
汗と苦笑いを浮かべて取り繕う公太。しかし智華は智華で生来の細かい事は気にしない性格、それに加え『DFに行ける』と若干テンションが上がり気味で公太の失言に気付かない。
余談として瑛理謹製の偽造パスだが、DF内の情報管理システムのあるメインコンピュータにハッキングし情報を読み取り、更にそれを書き換え、機械を通しても絶対に偽造だと発覚しないように作られている。まあそんなに長い間情報を書き換えて置く訳にも行かないので使用期限は今日一日のみという制約はあるが、普通に使う分には発覚を恐れる事なくパスを使用出来るのである。瑛理、恐ろしい子っ!
「それじゃあ早速、夢の楽園へれっつらごー♪ 今日は楽しむよぉ~♪」
「あんまりはしゃぐと人にぶつかるぞ。もうちょっと落ち着けよ……って」
席から立って歩き始め、雪夜がはしゃぐ春奈を窘めた、その刹那―――
「きゃっ!?」「うわッ!?」
雪夜の方が人とぶつかってしまった。
「いたた……あ、ご、ゴメンなさい、大丈夫でしたか……?」
見れば黒髪ロング、しかし左右肩に掛かる部分だけを三つ編みにしている女の子。若干気弱そうではあるが、非常に整った顔立ちの美少女がぶつかった拍子に尻餅を突きながらも雪夜の方を心配している。
「あ、ああ。オレの方は大丈夫。そっちこそ平気?」
言って雪夜は彼女を立ち上がらせる為に右手を差し出す。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
女の子はおずおずとその手を握り返し、立ち上がってスカートの埃を払う。そこに……
「おーい、大丈夫か紗綾?」
彼女の連れなのか、一人の男性がその場に駆け寄って来た。
「……あ、悠真君。はい、大丈夫でしたよ。この方も親切でしたし」
「………そっか、それじゃあ早く行こう。部長が『サクサク付いて来ないと新薬の実験台にするわよ』って真面目な顔して言ってたもんだからさ……」
「クスクス……それは大変ですね。それじゃ行きましょう、悠真君。……本当にすみませんでした。それでは失礼します」
「あ、ああ。こっちこそゴメンね」
二人は雪夜に会釈してその場を小走りに去って行った。雪夜はヒラヒラと手を振って二人を見送る。………その背後、
「ゆぅ~きぃ~やぁ~? 今もしかして『黒髪のコ、可愛かったなぁ』とか思いませんでしたでしょ~かぁ~? 雪夜サンはああいう清楚な女の子がお好みでしょ~かぁ~?」
取って喰うぞと言わんばかりのド迫力(超笑顔)で、見当違いの嫉妬に狂うSGのアイドルがぬらりと浮き立つ。
「……………………」
嗚呼、今日も空が青いなぁ、と嘆息しつつDFまでの道中、雪夜は取り敢えず一番被害の少ない結果を目指して何千回目かの『春奈宥めミッション』を開始するのであった―――
「やっぱり噂に訊いていただけあってスゴイねぇ。こんなもんまで敷地内に作っちまうなんて、静流のお父さんはよっぽど常軌を逸してるんだねぇ」
「そ、そうですね。……あの、静流って誰ですか? 僕この学園に来たばっかりで……」
「雪夜っ♪ 次はアレ乗ろっ、アレ♪」
「はいはい……っと、その前に喉乾いたな。ジュース買って来るからちょっとそこで待ってて」
偽造パスは何の問題もなく入り口ゲートを通過し、どうにか春奈の機嫌も収まった(今度は雪夜と二人で来るという条件で終結。このお陰で後日、雪夜は瑛理に泣き付くハメになる)一行は智華の失礼な感想と共に遊園地『ドリームファンタジア』を満喫していた。絶叫マシン各種、お化け屋敷、観覧車にメリーゴーランドetcetc……。午後しかない短い時間をとにかく楽しもうと、無料パスを持っているのを良い事に片っ端からアトラクションを堪能していたのであった。
……そこには陰ながら支える二人の涙ぐましい努力があってこその結果なのだが、その二人と密かに連絡を取り合っている雪夜以外はそんな事知る由もない。
「うう……私も理央先輩と楽しみたかったのに……」
「……仕方ねえッスよ、おれは出番があるだけ喜ばないと。おっ、春奈さんのファン発見。排除しまッス!!」
考えてみれば当然の帰結である。公太はともかく、春奈や雪夜や智華は学園ではそれなりに有名でファンも多い。特に春奈のファンに至っては雪夜の存在自体を疎ましくさえ思っている輩も多いのだ。それらからの妨害を未然に排除しなければ、このように平和にデートを堪能する事など不可能なのである。……それにしても瞬、健気すぎるぞ。お父さんは泣けてくるぞ。
しかし……
「よおネェちゃん達、可愛いねぇ。こんなしょっぺえ男なんざ放っといて、俺らと一緒に遊ばねぇ?」
瞬と碧だけでは対処しきれないイレギュラーも出て来てしまう。ギャル男チックな輩が2名、目ざとく春奈と智華を見つけてナンパして来た。雪夜がほんの僅か、飲み物を買いに場を離れた時の出来事だった。
「はあ? アンタ達、鏡見た事あるの? 邪魔しないでよ、私達はもう十分楽しんでるんだから。あーあ、ちょっとシラケちゃったなー」
「んだとコラ!! 可愛いからって調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
「まあまあ春奈ちゃん……」
春奈が楽しい気分に水を挿された所為で機嫌を損ね、食って掛かって相手を逆上させてしまった。智華が諌めようとするが、あまり効果的ではない。
「あうう……ど、どうすれば……」
公太は元来気弱な性格で荒事に向いておらず、ケンカなどした事はないし、今もこうしてうろたえるしか出来ないのであった。しかし、場に雪夜はいない。今にも掴み掛からんという一触即発の空気。悠長に雪夜を待つ時間はない。
「……よし」
ここは自分が男として毅然と対応するしかない。そして何より、智華への絶好のアピールの場であるのだ。ここで上手く対処出来れば、智華も少しは自分の事を意識してくれるかも知れないという思いもあった。
公太は意を決して、震える足を前に出し、声を上げる。
「おい、お前……」「おい、お前ら!!」
必死に絞り出した公太の声は、同時に発せられた他方からの同じ台詞によって掻き消された。雪夜が来てくれたのかと公太は安堵する一方、見せ場を奪われたという複雑な心境を持ちつつ声のした方へ振り返ると……そこには雪夜ではない別の人物が腕を組んで立っていた。そう、彼の名は………
「春奈ちゃんにちょっかい出す輩はボクが許さない! お前らなんかこのボクが素晴らしい財力を以てけちょんけちょんにしてやる! そう、このボク『綾辻夕人』が―――」
「出てくんな変態ピアニストーーーーー!!!」
名乗った瞬間、急遽フレームインして来た雪夜の強烈な飛び蹴りをまともに喰らう夕人。見事に顔面にクリティカルヒットして、『ぶべらっ!?』と奇妙な鳴き声を漏らしながら地面をズザーっと滑っていく。
「おい瞬! 何でコイツがここにいる!? むしろ一番いちゃいけない人間だろう!? お前ら居眠りこいてんのか!?」
『……すいませんッス。まさかソイツがこんな所にいるとは夢にも思わず……完全にノーマークでしたッス……』
出て来た人物が意外過ぎたのか、携帯で即座に瞬と連絡を取る雪夜。……そりゃそうだろう。作者だって予想外。つか予想出来た人間なんぞ一人たりともおるまい。
「ううう……」
夕人は倒れ伏したまま動かず、嗚咽を漏らす。そしておもむろに……
「ママに言いつけてやるーーーーー!!」
『……………………』
と、『自分ヘタレです。今後ともYO・RO・SHI・KU!』的捨て台詞を残し、涙を流星のように尾を引かせて走り逃げる(元)資産家のバカ息子。……そりゃ綾辻家がまだ幅を効かせていたならそれなりに脅威と成り得る言葉なのだけども、信用が失墜した今となってはタダのイジメられっ子のテンプレ台詞でしかない訳で。
走り去る夕人に周囲の人間が『あ、綾辻だ』だの『やだ~、ストーカーよ~。キモーイ♪』だの『ママー、綾辻だよー。アレ綾辻だよねー』『しっ、見ちゃいけません!』だのと後ろ指を指している。どうしてこうなったのか忘れてしまった方、そもそも彼が何者なのか分からない方は『Episode 1 ~Stalking Rhapsody~』をご参照あれ。
「うう……僕、結局何も出来なかった……」
一連の事態の間にナンパして来た二人組は姿を消していた。公太は何も出来なかった自分の不甲斐なさを嘆息する。そんな彼に
「そんな事ないよ」
智華が声を掛けた。
「あんた、怖いのにあたし達を助けようとしてくれただろ? まあ綾辻と雪夜くんに持っていかれちまったけどね。でも、その気持ちが嬉しかったよ。男だね、あんた」
「………白川先輩」
智華は公太に笑顔を向ける。それは紛れもない、公太の一歩踏み出した勇気が引き出した笑顔。確かに彼は何も出来なかった。だが『何もしなかった』訳ではない。ただ少し結果が伴わなかっただけ。大事なのは結果ではないのだと諭すように、智華の笑顔が公太を優しく包む。
「すみません……次は、次はもっと頑張りますね。……ホント、白川先輩には救われてばっかりだなぁ……」
「ふふふ……期待してるよ。さて、もう陽も傾いてきたしそろそろ帰ろうかね………って、あれ? ……あれ!?」
唐突に智華が服のポケットやバッグを焦ったようにまさぐり始める。そして絶望感を滲ませた表情で、ポツリと一言。
「財布が………ない………」
そう零した。
『えええええええ!?』
その場にいた雪夜・春奈・公太は絶叫を上げる。
「いつからないんですか白川先輩!?」
「ちょ……ちょっと待って! ついさっきまではあったんだよ! 間違いなく持ってたはずなんだよ! 雪夜くんに飲み物のお代を渡したからね! 無くなるはずなんてないんだよ!!」
「……そうなるとさっきの騒ぎに乗じて盗まれた可能性が高いな。あの二人……随分すんなりいなくなったと思ったらそういう事か……」
「ど……どうしよ雪夜……。こんな人が多い所で見つけるなんて不可能なんじゃ……」
雪夜は携帯を取り出し、瞬達に指示を出しながら答える。
「とにかく手分けして探さないと。手遅れになる前に捕まえるんだ。もうすぐ陽が沈む。夜になったら捜索はもっと困難になる。それまでにどうにか……」
焦りを隠せない4人が動き出そうとした、その刹那―――
「その必要はないわよ。私が捕まえておいたから」
酷くあっさりと、そんな事を言って近づいて来る一人の女性。その背後には先程の二人組が手を後ろに回してトボトボと付いて来る。そう、緩いウェーブロングを揺らす彼女は―――
『し、静流先輩!?』「静流!?」「………!!」
「ただいま、雪夜クンに春奈ちゃんに智華」
ニッコリと笑顔を浮かべて、事も無げに挨拶を交わすSSSの所長・金音静流、その人である。
「静流先輩……一体どうして……」
「ん? ああ、さっきそこで見た事ある財布を持った怪しい動きをしている二人組を見つけてね。ちょっと問い詰めたら案の定、智華の財布だって言うじゃない。取り敢えず拘束して連れて来たって訳」
「あの、そもそも今は家族でバカンス中なんじゃ……」
「……面白くないからさっさと帰って来ちゃった。やっぱり私はあの人といるより皆といる方がいいわ」
5日間の予定だったバカンスを3日で切り上げて帰って来た静流が事務所に寄った所、事務所には瑛理が一人きりで仕事していた。他のメンバーは全員仕事に出ているという。その際に公太が持ち掛けて来た『恋愛相談』がバレてしまい、瑛理は3時間に及ぶ地獄の説教を受ける。
その後、雪夜達の様子を見ようと(智華が『デート』しているというディテールを面白がった可能性は否めない)DFを訪れた。理事長の娘である静流は当然のように顔パス。そんな折、智華の財布を持った二人組を偶然発見したのだ。静流は彼らを問い詰め逃げようとする男二人をあっさり拘束し、ここまで連れて来たという寸法だ。……げに恐ろしき金音静流。チートもここまで行けば芸術の領域である。
「はい智華。気を付けなさいよね。ほら貴方達、ちゃんと謝りなさい。そうしたら警察には突き出さないでおいてあげるわ」
『ご、ゴメンなさい……』
「あ、ありがとう静流。助かったよ」
静流から財布を手渡され、智華はホッと一息。と、その時。
「………あの」
今まで一歩引いていた公太が、智華を押しのけるが如くずいっと静流の前に歩み出る。
「あら? 貴方が今回の依頼人ね。初めまして、所長の金音静流です」
「………………」
にこやかに挨拶する静流。片や公太は無言。静流を見つめるその瞳には得も言われぬ光が宿っている。静流は困惑するが……おもむろに公太は静流の手を握り締め―――
「一目見て好きになりました!! 僕と付き合って下さいっ!!」
熱烈な愛の告白をした。
『…………………え?』
突然の出来事に思考が追いついて来ない他のメンツ。
……思い出して欲しい。公太の理想のタイプは『綺麗なお姉さん』である。確かに智華もその資質はあるが、知的で物腰が柔らかくて頼りになる静流の方が圧倒的に理想と合致するのだ。……いや、そんな生温いものではない。目の前にいるのは理想以上に完璧な女神である。公太にとって静流の存在はその位の衝撃だった。
「キレイです! 美人です! 完璧です! 貴女こそが僕の求めていた理想! 超えるはずがないと思われていた真理絵お姉ちゃんなんて目じゃないくらい眩しいです!!」
「あらあら、それはどうも。……ちょっと手を離してもらっていいかしら?」
テンション上がり切った公太は静流の手をぶんぶん上下に振り、喜びを表現している。静流は困惑を露にするが、公太は聞いちゃいねえ。と、その時。
『ふ…………』
ようやく思考が追い付いて来た他のメンツが声を漏らす。そして………
『ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
夕暮れの遊園地『ドリームファンタジア』にて、未曾有の大爆発を起こしたのだった。……この時、何気に一番大声を上げていたのが智華だった事はここだけのお話―――――
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