Work of SSS File No.5 ~キレイなお姉さんは好きですか?・前編~
『恋愛相談だぁ~!?』
むせ返るような猛暑の午後。それは月影理央が依頼を受けて事務所を出てからほんの数十分後の事だった。客の対応をしていた水乃森雪夜・日坂春奈・土笠瑛理の3人は揃って心底イヤそうな声を上げる。依頼人は柏木 公太。高等部2-A。つまり雪夜や春奈のクラスメイトである。
公太は気弱そうな黒目がちの瞳をオドオドさせて萎縮する。この公太、実は夏休み直前になってSGに編入してきた生徒で、すぐに長期休暇に入ってしまった為にまともな友人もおらず、ろくに悩み事の相談も出来ない。従って今回、有名な雪夜や春奈と同じクラスメイトのよしみでSSSに依頼を持ちかけたのだ。……しかしその内容は事もあろうに『恋愛相談』。もしも静流が応対していたら問答無用で門前払いを喰らうレベルである。
「えっと……ダメ……ですかね?」
公太は自信なさげに3人の表情を窺う。
「いやまあダメっつーか……そもそもお門違いじゃねェ? SSSは探偵商社であって恋愛相談所じゃねェだろ。静流が休みでよかったな。そんな相談持ち掛けて来た時点でスリッパ魔弾の雨嵐だったぞ。悪い事言わねェからそれは余所に持って行け。確かあの艶夜とかいう怪しげな保険医が恋愛相談を募集してただろ」
瑛理は取り付くしまもなく追い返そうとするが、反して公太は弁明。
「いえ……最初は咲姫先生の所に相談に行ったんですけど……『ガッツよ!』の一言で片付けられてしまって…………」
『……………………』
「……あ~、あの人が言いそうな事ですね……」
瑛理達は絶句。自分のデスクで仕事をしていた碧が苦笑する。目撃者は語るのである。サの字……お前もう少し手心というものを………。
「と、とにかく、話だけでも訊いてみようよ。もしかしたら結構深刻で、もうすぐ始まる新学期に差し支えるかも知れないし……」
「そ、そうだな。流石にちょっと可哀想かも……」
居たたまれなくなったのか、あからさまに憐憫的な意見を出す春奈と雪夜。確かに友人のいない公太には他に頼る人がいない。幾ら何でもここで捨て置いては人の業に触れるとでも思ったのだろう。何かもう武士の情けっぽい。……いやホントすみません、ウチの恋愛担当の所為でお手数をお掛けします。
「で、柏木くん。相手は誰なの? 私達の知ってる人なら話を訊いてあげやすいんだけど。もしかして同じクラスのコ?」
「……あ、えっと……相手は……」
緊張を隠せないのか、公太は出された麦茶を一飲みすると、その意外な名前を口にした。
「相手は………『白川智華』さん……です」
『…………………』
SSS事務所に静寂が舞い下りる。その場にいる公太を除いたメンバー全員が、その名前を反芻し、何度も確かめる。そして…………
『ええええええええええええええええええええええ!?』
絶叫。
「白川智華って、あの智華さん!? 『Cafe wind bell』のウェイトレスの!?」
「白川智華って、あの智華さん!? 男の子よりも女の子に人気があるあの!?」
「白川智華って、あの白川か!? 傍若無人を絵に描いたような岡っ引きか!?」
「……何かサラリと衝撃的事実が含まれていた気がするけど……多分間違ってないと思います……」
矢継ぎ早に質問攻め。あまりにも意外な名前だったのか、連中のリアクションが普段の当社比4.8倍である。
「そうか……あの白川か……」
一息ついて何やら感慨深げに瑛理が思い耽る。脳裏によぎるは約一ヶ月前の、SSSによる『Cafe wind bell』救済任務。……ではなく、その後日、『Cafe wind bell』における智華との一幕である。
『土笠ぁぁ! あんたサラダのブロッコリー残してんじゃないのぉ!!』
『あー? 悪ィな、俺ブロッコリー好きじゃねェんだ』
『あんたあたしが作ったブロッコリーを食べられないってーのぉぉぉ!?』
『や、作ったのはお前じゃなくて農家のオッサンだろ。お前は茹でて切っただけ………』
『いいから食えっ!! 死ぬほど食えぇぇぇぇぃ!!』
『ごげぇぇぇぇぇぇ!?』
『きゃ~っ☆ お姐様カッコイイですぅ~~~☆』(←百合風味なファンの声援)
こうして瑛理は、残した分×3倍の量のブロッコリーを口に詰め込まれ、更にそれを100%ブロッコリージュースで流し込まれるという、文字通り苦い経験をしたのである。智華は料理を残す輩に容赦しないのだ。その日以来、瑛理が『Cafe wind bell』に顔を出さなくなったのは言うまでもない。ついでに、この光景を見た春奈はそれ以降、サラダに入っている嫌いなセロリを毎回密かに雪夜のサラダに紛れ込ませている事も注釈しておく。
「しかし世の中には変わったヤツもいるもんだ。よりによって白川か。あの女、中身はアレだかまあ確かに見てくれは悪くねェしな。コイツが本性知ったらどうなるかは分からんが。ここは無難に止めておくべきか? 流石にアイツはお勧め出来な………いや待てよ、白川に彼氏が出来れば、少しは角が取れて丸くなるかも……? そうすりゃ俺もアイツに怯える事なく風鈴で平和に食事出来るってもんか。ふむ、それはなかなか………ブツブツ」
「……あの……トサカ先輩……?」
瑛理は席を立ってウロウロしながら何やら一人で考え込む。そしておもむろに………
「よし、その依頼、SSSが引き受けるぜ。どーんと泥舟に乗ったつもりで俺らに任せておけ!」
了承の返事。その貌は晴れやかなようなそれでいて腹に一物抱えているような、見た目だけは実にいい笑顔であった。
「ちょっ……そんな安請け合いしていいんですか!? 後で静流先輩に何て言われるか! そもそも泥舟はダメだと思……」
「バカヤロウ! SGの生徒(主に俺)が困ってんだぞ!? テメェには慈悲ってもんがねェのか!? ここは一つ、二人の幸せの為に(俺の平和の為に)こいつらの仲を取り持ってやろうじゃねェか! 困っている人々(むしろ俺)に救いの手を差し伸べる! それがSSS(俺以外)の心意気ってもんだろうが! 分かったかゴラアアアア!!!」
「うわあああああああ!? アンタ()を通して本音がダダ漏れですけどーーー!?」
キシャー! とばかりに気勢を上げる瑛理。念の為言っておくが、智華から制裁を喰らったのは自業自得である。別にサラダを残しさえしなければあんな事をされる筈はなかったのに。瑛理本人は自分で分かっているのかいないのか、その部分を棚上げしている。
……後にこの『探偵っぽくない依頼』を受けた事があっさり静流にバレて、瑛理は静流から最終的に『大宇宙の真理』にまで話題が発展した3時間にも及ぶ地獄の説教を喰らった事をここに記しておこう。
「コホン。……で、具体的にどうするよ?」
「こういう時、理央がいればいいのにねぇ~。この手の話は理央の独壇場でしょ?」
「……いや、ヤツの意見は参考にならん。考えてもみろ、あの智華さんにこの柏木が『フッ……今日もお美しいですね。僕は貴方の美しさに囚われた哀れな小鳥。その輝きに、目が眩んでしまいます。この胸の痛みを……貴方の愛で癒して下さいますか?』とか言ったらドン引きされるだろ。……因みにこの台詞はこの前理央が咲姫先生を口説こうとして口走ってたものだけど。華麗にスルーされていたがな」
「……アホだろ、アイツ……。ん、白川について思い出した事があった。取り敢えずお前らで話進めとけ」
「………………」
瑛理は接客テーブルを離れ自分のデスクへと戻る。因みにこの会話を自分のデスクで聞いていた碧は聞こえていないフリ。涙ぐましい対応である。
「そもそも、何で智華さんを好きになったんだ? あんまり接点なさそうだけど……」
「えっと……この前居住エリアを探していて迷子になって、たまたま入った喫茶店に白川先輩がウェイトレスとして働いていて、そこで凄く親切にしてくれたから、つい……」
「……『風鈴』はウェストアベニューとは正反対だよ? 柏木君ってもしかして極度の方向音……むぎゅっ!?」
「余計な事は言わなくていいから。……店員が客に優しくするのは当たり前の事だと思うんだけど……」
「それに僕……綺麗なお姉さんタイプが昔から好みで……。初恋はそう、幼稚園の頃、近所の真理絵お姉ちゃんに………」
「誰もそこまで訊いてねえよ……」
何やらほんわりとした表情で真理絵お姉ちゃんとの思い出話を語る公太。片や雪夜と春奈はゲッソリ。公太は途中から『あの大学ヤロウがっ!! アイツさえ現れなければっ!! 真理絵お姉ちゃん逃げてっ!!』などとやたらヒートアップしているが、一応依頼として請け負ってしまった側の雪夜と春奈は話を聞いているしかないのであった。南ー無。
「……で、白川先輩と仲良くなる方法、何かありませんかね?」
「……ん? あ、ああ……」
一頻り語り終えた所で満足したのか、公太は二人に問い掛ける。半ば脱魂状態だった雪夜と春奈は我に返り、ようやく本題に入れるかと姿勢を正す。
「やっぱり基本はデートでしょ。一日中一緒にいて、お喋りして、ご飯食べて、手を繋いで………そしていつしか二人は………ああっ♪ 雪夜ってば大胆なんだから……♪」
「……今度は春奈のターンか……。デートには賛成だけど、この柏木が智華さんを一人でしっかりエスコート出来るとは思えないんだが……。ウェストアベニューを目指して風鈴に辿り着くようなヤツだぞ?」
「……サラッと酷い事言われた、僕……?」
その時、自席に戻っていた瑛理が何かを手に応接部に帰って来た。
「その点は抜かりねェから安心しろ。お前らも一緒に行きゃあいい」
そう言ってテーブルに持っていたものを差し出す。
「『ドリームファンタジア』の乗り放題無料パスポートだ。6人分ある。コイツを使ってダブルデートでもサポートでも何でもすりゃあいい。俺は月影の頼みで調べ物しなきゃなんねェから事務所に残るが」
刹那、春奈の瞳が宝石のように輝く。
「きゃ~~~っ♪ 私、ここに雪夜とデートに行くのが夢だったの~~~♪ 余計なのが4人も付いて来るのはちょっと頂けないけど、ありがとうトサカちゃんっ♪ 大好きっ♪」
『ドリームファンタジア』とは、今夏SC内にオープンしたばかりの遊園地である。元々それほど広くないSCの敷地内に建設されたとあって大規模とまでは行かないが、量より質を地で行くように『遊園地』と聞いて連想する乗り物は一通りハイクオリティに揃っており、デートを楽しむには充分すぎる。オープン以来、入場者数はうなぎ昇りでチケットを取るのも困難と来ている。しかもその遊園地の無料パスポートとあっては、正にプラチナチケットと称されるほど貴重なものだ。何故そんなものを瑛理が持っていたのかと言うと……彼の本職を思い出せば自ずと判明するだろう。この物語はフィクションです。通報はお控え下さい。
「わ、私も常々行きたいと思って……じゃなくて、是非私にもお手伝いさせて下さい……!」
「よっしゃあっ! 今回は遊園地で仕事ッスか!! テンション上がってキターーー!!」
「うを!? いたのか瞬!? 今までさっぱり出て来なかったから仕事に出てるのかと思ってたぞ!? やっと空気読めるようになったかと関心してたのに……!」
「トサカちゃん、雪夜の100億分の1くらい大好き~♪」
「うぜェ、頭をペチペチ叩くな日坂。お前ら五月蠅ェから仕事が捗らねェんだよ。とっとと行け」
「…………………」
果たしてこの人達に任せて大丈夫なんだろうか、と一抹の不安を覚える公太。こうして、此度の依頼は暴走気味に開始されるのだった―――――
to be continued...