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Harmonical Melody  作者: 新夜詩希
13/21

Interlude ~金音静流の探偵適正テスト~

「暇ね………」


「暇ですね………」




 茹だるような夏の午後。探偵商社SSSの事務所には割りと珍しい取り合わせの僕・水乃森雪夜と所長の金音静流先輩が二人きりでだれていた。否、溶けていた。他のメンバーは処々の事情で全員出払っている。僕はいない碧の代わりにデスクワークをやっていて、静流先輩は依頼の整理や雑務をやっていたのだけど……事務所のエアコンが調子悪いのか、室温が下がりきらずに中途半端な暑さで作業効率も上がらず、二人でダラダラと仕事を進めている。救いは先輩の淹れてくれた冷たいミントティーか。これがなかったらいい加減発狂してたね。

 

「ねえ雪夜クン。暇だから、一つクイズを出しましょうか?」


 静流先輩が暇に耐えかねてなのか、そんな事を言ってくる。


「クイズ……ですか?」


「そう、クイズ。なぞなぞっていうか推理クイズね。まあ言うなれば、『探偵適正テスト』みたいなものかしら」


 推理クイズか……。面白いかもしれない。仕事も急いでいる訳じゃないし、付き合ってみるのも一興かも。


「多分雪夜クンなら解けるくらいのレベルだとは思うけど……そうね、もし解けなかったら事務所の掃除を一人でやってもらおうかしら?」


「うっ……この暑さでそれはなかなかキツイですね……。じゃあオレが解けたらどうするんです? 静流先輩が掃除ですか?」


「それじゃつまらないわね。ん~……じゃあ……ご褒美にほっぺにキスでもしてあげよっか?」


「えっ……」


 そう言って先輩は小悪魔的な微笑みを僕に向ける。一応言っておくが、静流先輩はとんでもなく美人だ。この人がこんな微笑みを見せたら、大抵の男共はイチコロだろう。……おいおい……何処まで本気なんだ、この人? ……でもま、それはそれで役得か。そんな場面、春奈に見られたらえらい事になりそうだけど……今はいないしね。……ん? 今日の占いで僕の運勢、最悪だって書いてあったような気がしたんだけど……まあそんなの当てにならないか。


「本当ですか? まあ静流先輩がそれでいいって言うならいいですけど……」


「そう? じゃあ問題ね」


 こうして、静流先輩からクイズの問題が出された。




 それはある学習塾での出来事。

 その塾内で行われていた実力テストの後、事件は起きた。塾講師の男性が殺されたのだ。彼は、テスト終了5分後(テスト時間は50分間)に突然倒れて死亡したそうだ。死因は、傷口から毒を入れられたことによるもの。毒は粉末状で、傷口に僅か0.1mg弱付着すれば1時間後には死に至るという猛毒だった。

 警察はそのクラスの監視カメラを入手し、解析を進めた。このカメラの存在は生徒達には知らされていない。すると、テスト開始される前の休み時間に被害者と接触していた生徒が一人。身体に隠れて方法までは見えなかったが、被害者が死亡した時間を逆算すれば、この時の接触で毒を盛られた事はほぼ間違いない。しかもこの生徒、この時ペンケースを持っていた。

 警察はこの生徒を事情聴取。しかし否認。ならばとカメラに映っていたペンケース及び荷物を検査。生徒の持ち物はかばん、教科書、ノート、ペンケース、鉛筆、(鉛筆の)キャップ、消しゴム、定規。服や靴、持ち物は勿論、教室中をくまなく調べたが、そのいずれからも毒物の反応は見つからなかった。カメラの映像からはこの生徒が誰かに何かを渡したり、外に何かを捨てたりと言った行動は見受けられない。ところがその後、ある意外なものから毒物の反応があり、彼は犯人として逮捕されたのだった。


 さて、この生徒は一体何処に毒を隠し持ち、どうやって処分したのだろう? そして、毒物の反応が検出された意外なものとは?




「………………」


「動機だとか毒を盛られた時の被害者のリアクションだとかは無視ね。この場合の問題はトリックのみ。どうやって毒を隠し持っていたか。それをどうやって処分したのか。そして何処から足が付いたのか。それだけ。被害者の傷に関しても、まあ事件と関係ない所で付いたとか犯人が事前に付けたとか、そんな感じに考えて。軽くヒントを言うと、『何処から毒が見つかったのか』が分かれば、トリックは連鎖的に解けるわよ」


「……ヒントを言うって事は、オレに問題を解いてもらいたいんですか?」


「さて、どうかしらね~。で、分かるかしら?」


 僕は頭の中で問題を反芻し、世界を構築。被害者と加害者の行動をトレース。与えられた条件をパズルのように当て嵌めていく。そして……自分なりに結論を導き出した。


「……悪いですけど、結構簡単ですよ」


「……え? もう分かっちゃった……?」


「ええ、仰る通り、『何処から毒が検出されたのか』を考えたらすぐに分かりました。あとは持ち物ですかね」


 実はこう見えて、推理力には結構自信があったりするのだ。……まあ静流先輩には足元にも及ばないのだけど。そんな訳で、僕は組み立てた推理を口にする。




「まず、毒が検出されたのは恐らく『テストの答案』です。犯人は予め鉛筆の芯の先端に毒を付けておいて、犯行前は鉛筆が他のものに触れないようキャップを被せておいた。毒が粉末状なら、滴らない程度に芯を湿らせておけば付着させるのは簡単でしょう。で、いざ犯行を済ませると、今度はその鉛筆を使ってテストを解いた。こうすれば、残った毒が鉛筆から答案に移るという訳です。そして答案はテスト後に回収され、教室外に持ち出された、と。採点を同じ教室内でやったとは思えませんからね。これなら教室内をくまなく調べても毒は検出されません。……こんな所でどうですか?」




「……まいったわね。正解よ。やっぱり即興で考えた問題じゃあ雪夜クンには簡単すぎたかしらね」


 ……うん、何とか正解したみたいだ。良かった。静流先輩はお手上げとばかりに頭を振る。その表情は残念そうな…むしろ嬉しそうな……よく分からない。そしておもむろに自分の椅子から立ちあがり、僕の左隣の普段は碧が使っている椅子に座る。………ん? あんなの冗談だと思ってたけど……もしかして本気なのか、この人……!?


「ちょっ………先輩マジですか!?」


「だからそう言ったじゃない。正解したご褒美よ。欲しくないの?」


「い……いえ………そんな事は………」


 先輩は妖艶な微笑みを見せ、僕の首に腕を回す。……もう魔力と言うべき静流先輩の魅力に当てられて、思考回路が通常の働きをしてくれない。シャンプーの匂いなのか、甘くて柔らかな香りが鼻腔をくすぐり、意識が急速に漂白されていく。この異常なまでの暑さは、エアコンの調子の所為だけじゃないのかもしれない。事務所には動きの悪いエアコンのゴウゴウと唸っている音しかなく、世界の時間が僕らを除いて全て止まってしまったかのよう。いつもはけたたましく鳴いている外の蝉でさえも、固唾を呑んで僕らを見守っているかのようだ。

 静流先輩の唇が、ゆっくりゆっくり僕の顔に近付いてくる。直視するのは耐え切れず、僕はきつく目を閉じて顔を背ける。もうほんの僅かで唇が触れようとしていた、その刹那―――




「おっそくなりましたぁ~~~♪ すみませ~ん、思いの他用事が長引いちゃって……。お詫びにアイスクリーム買って来ましたから………って、あ~~~~~~~~っ!!??」




 ……ものすげータイミングで、一番来てはいけないヤツが来た。誰が来たかは言わずとも分かるだろう。……うん、死亡フラグが立ったっぽいぞ、僕。今すぐ脱兎の如く逃げ出したい。つーか逃げないと明らかにマズイ。


「ゆ~ぅ~き~ぃ~や~ぁ~? 今、一体何をしてたのカナぁ~?」


 ゴゴゴーと気炎を上げて嫉妬の鬼、降臨。名誉の為に言っておくが、今僕が『してた』のではなく『されていた』のだ。しかも未遂。……しかしですね、反論を試みた所でこの方のデビルイヤーはそんな細かい事まで聞き分けられるほど精巧に出来ていないのである……!

 静流先輩は神速で僕から身を離すと、口元に手を当ててこれまた妖艶にくすくす微笑んでいる。特に僕を弁護する気もないみたいだ。……事の発端、責任取ってこの『これから轢き殺しますけど宜しいですか、ご主人様?』みたいな笑顔を浮かべている暴走特急をどうにか鎮めてくれ。このままだと間違いなく大惨事になる。

 ………そんな僕の健気な願いも虚しく―――




「ふふふ……春奈ちゃん。うかうかしてると、雪夜クン私が盗っちゃうわよ?」




 なーんて、さらりととんでもねえ事を口になさりやがった。……先輩。経験上、その手の台詞は火に油です。否、核ミサイルの発射スイッチです。


「うがーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ……ほら暴れた。嫉妬の鬼は壊れたスプリンクラーよろしく、買って来たばかりのアイスクリームを四方八方投げつける。当然僕も事務所もアイスまみれ。元凶はちゃっかり所長室に逃げ込んでいる。……うん、お陰で涼しくはなった。なったのだけど……結局この部屋の掃除も僕がやるハメになるんだろうなぁ……。それならいっそ、わざと間違えて掃除してた方が被害は確実に少なかったなぁ……。




 ある暇……ではなくなった夏の午後。今日の運勢は最悪だった事を思い出した―――――



Interlude out



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