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第70話 みんな早く俺を

R15グロ注意


 白い焔が砦の外壁にぶつかり。外壁を、そして盾壁を、施された防御結界ごと貫通した。


「ぎゃあああ!? ……」

「っ!? 火っ 息っ! ……」

「熱あ!? あつっ、あ………」 

「うぞぉああ!? ……」


 竜が吐いた白い焔は凄まじい範囲に広がり、外壁上にいた弓兵や砲兵たちは自分達の体が炎上する感覚に絶叫し悶絶した。壁も鎧も、盾も魔術の護りも何の意味もなかった。そうして何人もの兵が下に落下する。


 それだけでなく、その焔は壁と門が存在しないかのように、そのまま内側で突撃に備えていた兵らにまで襲いかかった。


「焔っ!? どこか らっ ああああー! ……」

「!? なにがっ!? ひっ!! ……」

「あついいいいいっ!? ……」

「たす……けっ……」


 全く予期しなかった攻撃の直撃を受け、その場に詰めていた百近い兵は皆わけもわからず絶叫し悶絶する。そして彼らは皆、自分の体が、肺が生きながらに焼ける激痛に意識を失った。


 砦の首脳陣であるウェイ千卒長らは、外壁の角にある櫓内で指揮をとっていた。見晴らしよく、強固な魔術的防御結界を備えた拠点だ。


 だがそこにも容赦なく焔は殺到し、あっさりと壁と結界を貫通。千卒長だけでなく客として訪れていた要人(・・)も含め、中の全員が「焔」に包まれた。


「馬鹿なっ!? けっか い……」

「何故っ もえっ もえるぁっ……」 

「ひっ 我っ しぬっ!? あーーー!!! ……」

「でんかっ に……げ……」


 ひとしきり絶叫が響いたあと、櫓は沈黙した。


 そうしてたった一吹き……幻霞竜の『幻葬の吐息』によって、シーシゥ砦の指揮系統は崩壊した。



「今のは……!?」


 次々に焔にまかれ悶絶し倒れていく兵士達の中で、仙霊科の者達は無事だった。彼らも焔はかぶっていたが、多少熱いとは感じるものの、真夏の日差し程度。十分耐えられる。


 そもそも焔といっても、その後の煙も延焼もなく、物は実際には燃えていない。苦しんでいるのは仙力を持たない人間だけだ。気がつくと皆の背後にいた憲兵も白目を剥いて昏倒していた。


「物理防御も火炎防御も貫通してる。幻術?」

「『幻炎』の魔術みたいなのか?」


 『幻炎』は燃えているかのような痛みを味わわせる幻覚の炎を作る魔術。高位の魔導師ならかなり広い範囲にかけることもできるが……。


「魔術のは痛いのは痛いけど、こんな一瞬で昏倒するほど強くできない」

「それに精神系魔術は上の人らにはほぼ効かねえヨ。貴族や百卒長とかになればそっち向けの防御魔導具でがっちがち」

「じゃあリェンファの言う通り仙力のせいかこれ」

「That's a "Phantom drake" , invisible and creeping slaughter with horrible hallucinatory ability to interfere with cognition…」

「落ち着いてフィアちゃん、古代語になってる!」


「……あの竜、使う、幻覚、酷い。私の時代でも、強敵、トテモ。見えない、忍び寄ル、殺し屋……」


 幻霞竜の吐息はいかなる壁や装甲でも防げず、幻覚と分かっていてなお耐え難く意識を刈り取る激痛をもたらす。


 心身が弱っていればそのまま死ぬ場合すらあり、生き残っても深刻な心的外傷(トラウマ)に苛まれる者も多かった。


「やっぱり仙力か、こんな強度と範囲の幻覚なんて……!」

「魔術じゃ仙力の幻覚は防げないんだな」

「あれを知ってるの?」  

「少しダケ」

「倒しかたとか、何か弱点とかは?」

「知らナイ。あれはエルダードレイク……竜の上位種。額に第三の目、ある。あれが証。普通の竜、あれがない」


 言われてみると、確かに三つ目なのが見てとれた。


「エルダードレイクは強い、とっても。昔の、完全に武装シタ軍隊でも、勝てなかっタ、殆ド、らしい」

「!!」


「じゃあ、どうやって戦ったの?」

「Special……特別な部隊が戦う。エルダードレイクが出ると……たぶん、あの映像、過去の、あの人達の部隊……呼び出さレタ」

「つまり……あれは僕らの知るよりも遥かに強い古代の竜で、大昔でも仙力使いでないと勝てなかった、と」


「あそこのアレはエルダードレイクの一種、ファントムドレイク。凄い幻覚を使う。幻覚と実体、混ぜてくるらしい。しかも、すり抜ける」

「すり抜ける?」

「壁、意味ない。すり抜ける。幻だけじゃない、体のほうも、実際に。ダカラ効かない、大砲も、武器も」

「!?」


 ニンフィアがそう言った次の瞬間、巨大な竜の体は、のそりと砦の外壁に取りつき……少し体がブレて。そのまま、壁などないかのように通り抜けてきた。


 どんっ!


「くげっ!」

「ぐぎゃああ!」


 壁はすり抜けたが、壁の上に倒れていた人間は弾きとばされた。そのまま落下して……。


 どさっ! ぐしゃっ……。


「ほんとに、すり抜けてくる!」

「でも人間には当たってる……生物には無効の力なのか?」


 壁の内側で気絶していた者達は……巨体に踏み潰されていく。


 グチャッ! ズシャッ!


 死が、量産されていく。


「うわあ、うわあああああーーー!!」

「う、うてっ! 射ろぉっ!!」


 焔から逃れた者たちは、恐慌に陥りながらもかろうじて反撃しようとした。しかし……。


 ヒュンッ!! ゴンッ!


「……そんなっ!」


 カランッ……。


 効かない。


 射かけられた数十の矢は一本も刺さることなく、なけなしの魔術も槍も鱗に弾かれる。 


「ばかな……!」

「ありえん! こんな、こんなはずは……」


 そして竜が爪をふるう。


「うっ!?」


 巨体に似合わぬ凄まじい速さ。巨体に相応しい凄まじい力。目前にいた不運な兵士が爪に捉えられ、吹き飛ばされる。


 そして彼はそのまま矢のような速度で砦の外壁に激突し、壁に咲く薔薇となった。


「なっ……!」


『HUN』


 さらに巨大な尾が振り回される。


 グシャッ! ドンッ!!


 異形の薔薇が増える。

 一輪、二輪……。


 …………。


 一拍の沈黙をおいて、兵士たちはようやく理解した。

 目の前の怪物は、自分たちが敵う相手ではないと。


「あ、ああ……」

「なぜ……」


 無意識のうちに皆が後ずさる。


 折れる。心が折れていく。

 まだ千を超える数が残っていようとも、心の折れた兵など役に立たない。


 正体不明の一撃で百を超える兵が無力化し、手持ちのあらゆる攻撃が効かず、圧倒的な力で人体が破壊される様を見せつけられた。兵士たちの士気が崩壊するには十分過ぎた。


「……千卒長、千卒長はっ! いずこにっ!」

「そっ、それが……」


 そこを叱咤し、集団として踏みとどまらせるべき指揮官たちは、真っ先に倒れ沈黙していた。


 ならばもはや、彼らは戦う軍勢たりえない。


「無理だ、あんなの無理だっ!!」

「……にっ、逃げっ」

「てっ、転進、転進っっ!」


 ついに皆が悲鳴をあげ雪崩をうって逃げ始める。

 だがその判断も遅きに失した。


『GOAAA!!』


 我先にと逃げ出す兵士たちの背後からもう一度、幻葬の吐息が吹き荒れる。


「あつい! あついおおおっ!! …………」

「いやだ しに たくっ……」

「うそだ あ……」


 その場にいた者はやはり絶叫と共に昏倒していく。数百の兵が倒れ、勝敗は完全に決した。


 後からその場にやってきて、驚愕しながらも竜に挑む者らはいたが、彼らの攻撃も竜にはまるで通じない。何もできぬまま無造作に爪と尻尾に打ちつけられ、踏み潰されていく。


「ば、ばけも」

「ぐあっ!!」

「強、すぎ……」


 壁に、床に。

 薔薇。薔薇が咲く。

 紅く、白く、赤黒く。

 命の儚さを表すように。


 無造作でありながら、それは人が耐えるには余りにも速すぎ、重すぎた。一方的な殺戮だった。



「……あ、ああ……」


 外壁の上から、人体が次々に物言わぬ肉塊や血花になっていく有り様をもろに見てしまったニンフィアが、口を抑えながら崩れおちる。


「しっかりして!」


 そういうリェンファも、そして周りの仙力使い達の顔色も蒼白だ。こんな惨劇に慣れている者などいない。


「わ、わたしが、さっき、仙力使ッテ、倒す、するべきダッテ。そうしたら、アンナ……」


 絶望と嘔吐感をこらえながらニンフィアが呻く。

 外にいるうちなら彼女の力で吹き飛ばせたかもしれない……が。


 ロイは後悔に青ざめるニンフィアの目を見据えていった。


「大砲も効かないんなら、お前の力だって効いたかどうかわからない。それにさっき蹴って分かったけど、あいつ見かけと本物の位置も違うんだ。やろうとしても力を無駄遣いしただけかもしれない」

「……で、も……」

「だけど、俺の蹴りはすくなくとも当たりはした、少し変だったが当てることはできた」

「……どう、するの?」

「後悔してる時間はない。その気持ちがあるなら、俺にぶつけろ。俺があいつを倒す!」

「ロイ……」


「リェンファも頼む。どこが凝核とやらなのか、見ててくれ」

「今のところ、どこがそれだか全然分からない」

「多分だが霊気も偽装してるんだろう。でも最初の透明化が消えたみたいに、霊撃がうまく入れば一瞬でも偽装が揺らぐかもしれない。そうすればきっとわかるはず」

「……ええ」


「カノン、ここは私たちも……」

「先輩らは後詰めで。相手が煙になれば【爆破】が有用でしょう。それに……」


 言いづらいが言わねばならない。


「……正直、あいつの前に立つのは俺とかフーシェン様あたりじゃないと無理だと思います」

「……」


 シュイ教官や他の仙力使いも押し黙る。下で起こっている地獄絵図の有り様を見ても、確かに他の者がまともに戦える相手ではない。仙力を励起させたロイか、神器持つ将軍でもなければ死ににいくようなものだ。


 戦わず撤退し増援を待つのも手だが、ここで退いたらこの砦は魔の拠点になるだろう。そうすると状況は酷く悪化する。


 そして増援を呼んだところで、魔術や武術の達人だろうと仙力無く霊鎧無き者では幻覚の餌食になるだけだ。可能な限り今食い止めたい。


「こいつ以外にも魔物が来るかもしれないんです。そっちの警戒も要るでしょう。退路の確保も要りますし、ここは俺がやります」

「だが」

「時間がありません」

「……分かった」



「……いいか? じゃあ、みんな早く俺を殴れ!」

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