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第61話 能力を整理しよう

 現時点の自分と同期たちの能力をまとめてみよう。ロイだけでなく、みんなの力もこの一月の修行を経て変わったところがある。


 まずロイの仙力。これは多彩な素質が発現可能な代わりに、一つ一つが薄く、段階をおって励起させていかねばならないようだ。


 現時点でロイが認識する範囲だと、六つの方向性の能力が確認されている。多いか? ……多いな……。


 一つ目。【救世】 これが基本らしい。

 二つ目。【金剛】 最初に自覚した力。

 三つ目。『霊力変換』(仮)一月前に発現した力。

 四つ目。『固定能力』(仮)数日前発現した力。

 五つ目。『魂吸収』(仮)同上

 六つ目。『透明人間化』(仮)同上


 まず一つ目。【救世】

 【救世】はロイの能力の総称らしい。

 基本的には、味方を守ろうとする、味方に応援されると霊力が増えるというもの。そしてこれによって霊力が増えていくと、各仙力の『励起段階』があがって性能が変化していく。


 こうした霊力の増加、およびそれに伴って仙力が変化していく特性は、今のところ帝国の仙力使いの中ではロイにしか見られない。


 この霊力上昇は味方が近くにいればいるほど、人数が多いほど高い。味方から離れたり、何もしなかったら時間経過で徐々に減って元に戻っていく。


 二つ目。身体能力を高める【金剛】

 単純に身体能力が上がり、怪力、高速化、強靭化が得られる。励起段階が上昇すると、霊力消費での瞬間倍率が上がる。頼りになる基礎能力だ。


 三つ目。名称不明「霊力変換」

 近くに味方がいるときに攻撃を食らうと霊力が上がる。霊撃についても耐性から始まり、励起段階上昇に伴い、無効化、吸収と変化。


 ただし味方に殴られる場合は最初から霊撃吸収にいける。

 なんでだ。


 ついでに、これによる霊力上昇は率直に言って気分が高揚する。

 なんでだ。


 四つ目。名称不明「固定能力」

 この間目覚めた力だ。止めたいと思ったものを、基点とする所に緩く固定できる。例えるなら太い(ゴム)紐で繋ぐ感じ。


 非励起状態だと固定できるのは自分の体だけ。基点も発動の瞬間に体内であるどこかだけ。持続時間は数セグ(秒)と余り長続きしない。


 励起していくと固定強度が上昇し、さらには基点や固定対象に自分以外のモノを選べる。ただ自分以外が対象だと固定力はかなり落ちる。


 この力はかなり面白い。

 例えば飛び道具を逸らしたり、基点を元に振り子のような軌道で動いたり、足裏を固定して短時間空中や天井に留まるなど。


 試しに足裏を対象に連続起動したら空中を走れた。ただ、励起していないと固定が緩いままのため、泥濘の中を走るような感じになりとても疲れる。


 励起時なら空中走りも実用的にいけそうだ。あの映像でも古代のご先祖様が、業魔を殴り倒したあと、上空から降りてくるときにたぶん使ってたと思われる。


 この力の中身が分かっていれば、フェイロンの攻撃をもっとうまくいなせたのだろうが、まあ仕方ない。生き延びられたのだからよしとしよう。

 

 そして。五つ目。名称不明「魂吸収」


 フェイロンにトドメを刺したとき、どうやら、相手の魂の一部を取り込めたらしい。そうして、霊力が普段から少し底上げされたようになった。そしてこれは次の能力に関わってくる。


 最後に六つ目。名称不明「透明人間化」

 五つ目の結果得たものだ。フェイロンの【妖跳】とかいう仙力に似ている、でも少し違う力を得たことが後でわかったのだ。


 フェイロンの力は、瞬間移動かつ行動を飛ばし最短距離や合理的な経路を後付けで辿っていた事になる……というものだった。


 でもロイに宿った力は瞬間移動や行動省略ではない。世界が灰色になり、その間は他者に認識されずに動ける、という感じ。移動時間がしっかりかかっているし、その間の自覚もちゃんとあるし、経路は任意に変えられる。


 攻撃動作をすると解除される、つまりほぼ移動や回避にしか使えない点はフェイロンと同じっぽい。


 というわけで、ロイの主観としては、一時的に透明人間になって移動できる能力ということになる。移動の間はリェンファにも見えない。


 フェイロンとの効果の違いは、もしかしたらロイが持っている別の仙力と混ざった結果なのかもしれない。まあいざというときの切り札にはなりうるだろう。


 ただ本来自分の力でないからか、それとも得た魂が一部だけだからか、とても霊力消費が重い。通常状態では発動不可。同期達数人に殴られての霊気増強で、ようやく発動できた。


 あ。殴られているのはあくまで実験のためである。被虐趣味ではない、いいね?


「いいけど覗きに使ったら殺すからね?」


 イヤダナア ソンナコト スルワケナイジャ ナイデスカ


 ……あの教官が餞別だと言ったからには、見せてくれた領域に近いところにも届きうるのだろうか。どれだけ修行と霊力が必要なのか分からないが。


 というかあの人、ロイの能力についてかなり詳しいよな。まだ何かあるんじゃないですか、もったいぶらずに教えてください。


──────────────────


 そして他の同期の状況。


 リェンファの霊眼……でなく【啓示】は、段々見えるものが複雑になっているそうだ。また、意識することで見えるものが切り替えられるようになったらしい。


 従来は感情や霊気の流れが全部乗っかっていた。だが、それぞれが別のものだと意識することで分離できるようになり、そしてそれぞれがさらに複雑に細かい色彩で見えるようになった。


 そしてそれらが何を意味するのかを調査するにあたって、先日リディアがやっていた投影の魔術を習得しようとしている。まだ勉強中だが、複数の目で見れば考察も捗るだろうとのこと。


 そして調査の一環として、時々仙力使いを凝視する光景が見られる。主にロイとニンフィアを。


「またか?」

「私があんた見てるのは私の訓練のためだから勘違いしないでね?」

「何故俺ばっかり」

「あんたの霊気がおかしいから」

「おかしいというと」

「いっぱいあるの」


「いっぱい?」

「普通の仙力使いはだいたい一つ、多くても二つの色調なのにあんた虹色だから」

「虹色!?」

「今までは単純な感情色で隠れてたけど、中身はこんなだったなんて……」

「そんな変なのかよ」

「凄く変」

「……」

「あとちゃんと別のとこで発散してよ?」

「何を」

「変な目で私とフィアちゃん見ないこと、感情のほうに混ざって分かるんだから」

「…………」


 意識している女の子を前にした十代半ばの少年に酷な事を言う。そして発散? どうしろというのだ。一人で頑張れとでもいうのか。むしろ手伝って……。


「あ、ちょっと動かないで?」


 不意にリェンファが腹のところを霊気を帯びた指でつついてきた。


 ぴりっ!


「!?」

「やっぱあんたでもこの模様が霊的弱点なのね。了解」

「やる前に言えよ!」

「今隠したでしょ元に戻しなさいよ」

「話聞けよ。隠してねえよ」

「変なこと考えた罰よ。あと霊鎧強化したでしょ。それで見えなくなったの……いや、うっすらは……そこか!」

「やめーっ!」 


「何あれ?」

「犬も食わないっていうアレ」


(……まあ、あんたの感情に混じってる情欲(いろ)なんて、抑えられてるほうだけどね)

(……あと、フィアちゃんのが分からない、何なんだろう、アレは……ぐるぐる? ドロドロ?)


──────────────────


 ニンフィアの【穿孔】(仮)改め【境界】【憤怒】

 本人がたどたどしく説明し、能力を再現したレダが補足するところによると、正確には、「区切って」「壊す」能力であるらしい。孔を穿っているように見えるのは、それが一番楽だから。


「円とか、四角とか。線で囲う、考エル風に」


 例えば、空間の指定したあたりを区切って、そこから向こうは「別の空間」であるとみなす。その空間の中身よ、抉れろ、壊れろ、と命令しているのが普段ニンフィアがやっている使い方。


 そしてこの時怒っていると、その効果が増幅され、竜をえぐったときのように完全消滅させることもできる。


 怒ってない場合は、潰れたり、バラバラになったり一定でないが、とにかくモノが壊れる方向性の何かが起こる。あと複雑な形に区切ると疲れが酷くなる。


 最大射程は区切る大きさと怒りの強さ次第で、拳大くらいまで絞ると地平線の先に届く。つまり拳の面積の筒状空間が地平線の向こうまでまっすぐ破壊される。


「……マジで?」

「待って、単に届くんじゃなくて全貫通攻撃だったの?」

「そうだよ、再現してみて分かったけど普通にえぐいよ。しかも正確には範囲内は同時に破壊されてる。何かが飛んでいってるわけじゃないんだ」

「地平線の向こうから、発動しちゃったら防御も回避も不可能な攻撃が来るのか、怖えええ」

「魔術でそんな射程と効果聞いたことなイ」


 この間の回路破壊の時は、人間大くらいの破壊規模にすると数千シャルク(数km)上空にある回路に何とか届いた。


「つえー」

「やっぱり規格外だねえ……」


 そして今彼女が挑戦しているのが、領域指定の高速化。そして壊す以外の指定ができないかということと、区切りを「防壁」にできないかということ。


 今のところ領域指定に数セグ(秒)かかる。そして単純破壊以外のことをやろうとすると酷い頭痛が生じて大抵失敗するらしいが、痛みに苦しみながらも成功した例もあるらしい。


 例えば「乾燥」には成功した。その空間から湿気を奪う。成功したのはある意味、破壊みたいなものであるからか?


 魔術の『脱水』に近いが範囲が桁違いに広い。植物などが枯れたり、洗濯物が乾いたりする。生物相手にどうなるかはまだ虫くらいでしか試していないが、虫ならカラカラになって死ぬ。


 本当はとても応用範囲の広い力なのかも? いずれ修行すれば痛みもなくなるのだろうか。


「少しでも、役立つ、ガンバル……生きる」

「大丈夫だ。ニンフィアは俺が守る」

「……ロイ……」


「……はいはい、こんな所で二人の世界作らないでくれる?」

「手加減を覚えるべきだね、今のままじゃ強すぎるし、一回一回が疲れ過ぎる」

「そこもできない、うまく、マダ」


──────────────────


 ウーハンの【置換】は現在検証中。今のところわかっているのは、生物、少なくとも目に見える大きさ以上の生き物はウーハン本人しか対象にできない。置換したい位置に生き物がいると発動しないか、位置がズレる。


 また、他人が身につけている物品には作用しない。ウーハン本人が他人に触られていると転移できないのはこうした制限に引っかかっているようだ。


 そして置換する物質の体積、重さのうち、より大きいほう、より重いほうで制約を受ける。体積、重さともに、飛ばせる上限はだいたい大人一人より少し多いくらいまでらしい。


 例えば鉄の塊を置換しようとすると、それが置換元か置換先かによらず、あまり遠くには飛ばせない。空気を詰めた大袋なんかも置換しようとすると辛いようだ。


 本来、袋自体の体積は大したことなく、中身はただの空気なのに、飛ばすのに苦労する。萎ませてペタンコの袋にすると楽に置換できる。

 中にものを入れて膨らんだ状態で袋の部分だけ、あるいは中身だけ……をやろうとすると頭痛が酷いとか。


 ニンフィアの力もそうだが、三次元で領域や中身を指定する作業は、人間の頭に凄く負荷をかけるのかもしれない。考えてみると、ロイの固定能力も、【金剛】より頭が疲れる感じがある。


 魔術の場合はそういうのがない。教官のいうように魔術の才能が本当は通信の才能だというなら、その辺りを通信先の「何か」が代行しているということか?


──────────────────


 エイドルフの【賦活】は回復速度や部位を任意に変更できるようになった。また、身体能力も増強されるようになった。


 ただし、ロイの金剛と違って、自分から殴ろうとすると力が抜けるらしい。受け止めるとき、防御の時だけはロイ以上に堅固になるし、どうやら瞬間的に重くもなれるようで吹き飛ばされにくくなる。


「もう拙僧は大盾(ダードゥン)にでも改名しろということかナ? かナ?」

「男が上目遣いやっても気持ち悪いからやめて」

「これも波羅密(パーラミター)のための修行なのかネ……おお、もう」

「俺だって好きで殴られてんじゃないから、修行だから……」

「どうしてこうなっタ?」

「どうしてかこうなった」


 ついでに先日霊力を絞り出したら、命数……霊力の最大値が結構増えたらしい。普通だと絞り出しただけではさして成長しないのだが、彼の仙力はそういう特性なのだろう。絞り出し、臨死の苦痛に耐える(・・・・・・)事で成長する。


 つまり今後も成長のためには、日々限界までの負荷をかける事が望ましいということ。エイドルフの受難は始まったばかりだった。


──────────────────

 

 そしてある意味一番謎の多い、レダの【再現】

 今のところ、ここ一ヶ月で何か変わったかというと、特に本人に自覚はないらしい。


「もしかしたら再現できる範囲とか増えたのかもしれないけど、分からないんだよね」


 とりあえず現時点で分かっていること。


・再現できるのはレダが目で見た魔術や仙力や体の動きなど人為的な行為によるもので、時間的には発生から数セグ(秒)以内で終わるもの。自然現象は再現しない。


・体術や剣技なども見かけはなぞった動きができるが、無理やり体が動く感じ。

 ロイみたいな超高速の動きを真似ることもできる。できるが、本来レダにはできない動きなので肉離れや捻挫の危険あり。


・魔術や仙力の再現は、目標や位置以外は変えられない。出力、範囲、効果などはそのまま再現。ニンフィアの力の場合も、ニンフィアの怒り具合による違いまでそっくりそのまま繰り返す。


・ロイやエイドルフ、リェンファのような本人にだけ適用される仙力は再現できない。


・再現できるのは一回限りで、時間制限あり。だいたい30数える間くらい。


・再現にあたって魔力や霊力は普通に消費する。魔力や霊力が足りない場合発動しない。


 正直難しい仙力のため、基本的には「同じ魔術を繰り返す」という使い方をしている。レダは姉には及ばないがそこそこの魔術師になれる程度の素質はあるので、仙力もそれを生かす感じだ。


 何より魔術を再現する際には呪文や呪符が要らず即時発動できるため、不意打ちもできるしお得である。


「制約のどれかが外れたら使い道も増えるだろうけどね……」

「まあ、そのうち外れるんじゃない?」


 当面は地道に霊操というか、導引術というか、それを鍛えて自分達の霊力を底上げしていきつつ、来る魔物との戦いに備えるしかないのだろう。



 結局待っていてもなかなか上からの指示がこないので、仙霊科の学生らは自主的に、ロイ達だけでなく一期生の先輩らも含めて学生達として合同訓練をはじめた。


 そうしているうちに変な手紙が届いたりもした(しかも読み終えたら燃えて消えたんでやんの! 危ねえな)


 それによればロイの名称不明だった能力は、禍津国では攻撃吸収が【苦楽】、固定能力が【投錨】、魂吸収が【獲業】、透明人間化が【妖隠】と分類される力で、やはり【救世】の派生。


 どんだけ派生多いんだよこれ……もしかして多すぎるからいちいち教えてられないってオチじゃ……。お前の素質は根源型が多すぎて複合もするからな、ってどういう意味?


 まあ多少なりと教えてくれないよりマシか。とりあえずもらった助言を訓練に組み込んでいく。



 襲撃事件から半月ほど過ぎた頃、ようやく指示が下った。


 ……いきなり実戦の場へ向かえ、という指示が。

お盆内には随時、幕間扱いの三話ぶんを投下予定

皇帝たちと外部の状況、そしてロイの父親などの話です


それが終われば幻妖との戦いが始まります

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