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第54話 神器と聖霊

「!」


 皆が落雷に気を取られた一瞬の間、雷人形は天に向かって駆け上がり、皆の目に紫の残像を残して消え去る。


 そして将軍の目の前の地面には、一振りの黄金の輝きを帯びた美しい直剣が突き刺さっていた。鞘らしいものも下に転がっている。臨時教官(リュース)がつぶやく。


「雷晶剣の類か」

「どういうものだ?」

「雷を纏う霊剣の宝貝だな。以前見たものは、使い手次第で落雷を呼んだりもできた。見ての通り綺麗なため、大昔同様のものが近隣の王への贈り物になった事もあったはずだ」

「……なるほど。そうした意味でもとれるように選択された代物ということか?」


 おそらくな、と言いつつリュースが続けた。


「だがあいつが直接置いていったとなると、何かしら特別製かもしれん。余計なものが埋め込まれていないかは精密に調べることだな」

「了解した」

「気をつけるんだな。うちの国にも仙力持ち向けに宝貝に近いものはあるが、未熟なうちは渡さんことになっている」

「言いたいことは分かるが、今は力が必要だ。その後の事は危機を乗り越えた後に考える」

「まあ貴国の選択だ。宝貝はあくまで道具に過ぎんしな、結局は使い手次第だ。あとの問題は……そっちの『剣』か」


 そうしてリュースは、将軍の懐を指差す。そして将軍は金属の筒を取り出した。


「これが何か?」

「それは下手な宝貝より問題がある」

「ふむ……」


 ブンッ!


 筒が光って……光の刃が一瞬だけ現れ、消える。


「閣下、それは……」

「陛下よりお借りしたもの。神器、光剣イルダーナハだ」

「「!!」」


 皆にざわめきが走る。


 神器とは最高位の魔導具。大陸全体で太古から伝わる十数個しか知られておらず、誰が作ったかも不明。少なくとも、過去千年以上誰もそれに至るものは作れなかったとされる至宝。


 その神器の一つが帝国にもあり、それが光剣イルダーナハと呼ばれるものだ、というのは皆が知っていた。しかし実物がどんなものかはほぼ知られていない。


 少なくとも一般に公開された事は建国以来無い。まさか光剣という名が表すのが魔力の刃のことで、普段は筒のような柄だけの代物だったとは……。


 とりあえずこうして取り出されてみれば、この筒が魔力だけでなくかなりの霊気を帯びているということが分かった。これも宝貝の一種なのかもしれない。


「その神器は万能なる者(イルダーナハ)の名を与えられているだけあって非常に多彩な能力を持っている。鋼を易々と断ち切り、魂すら砕くこともできる。自動的に使い手を守ったりもな」

「ああ。いかなるものかは先ほどよく分かった」

「だがそれでもまだ封印状態、不完全だ。相手によっては通じんぞ」


 封印状態? それなのに鋼やら魂やらを切れるのか?


「正式な所持者は我が帝だ。それは変えられん」

「正式な使い手でないなら神器など使うべきでない。緊急事態は仕方ないにしても、長期に及ぶなら手間でも正式に登録を変えるよう具申すべきだ」

「それはできない」

「神器はただの道具ではない。使い手を真に選ぶ。仮登録ですらない借りているだけの状態なぞ、いつ臍を曲げるか分からんぞ」

「だが……」


『全くその通り主殿。我らの使い手は正しく力の担い手がなるべき。面子など大海原に流せばいい』

「!?」


 どこからか、女の子の声音が響く。いや、正確にはそれは音ではなく念の言葉。霊操の延長の技だと、今のロイには分かった。


『誰もがあなたのようではありませんよ瀬織津比売(ホノコ)


 それに対して青年の声音の念が響いた。


 ……萃照天睨鏡の展開を警告した時の声だ。そして将軍が手にしていた筒が、勝手に浮かび上がっていた。


『汝はこのままなら如何になるか予想できているか?』

『予測はしています』

『何となれば『滅尽灼槍(アラドヴァル)』はおろか『応酬貫撃アンサラー』すら起動しかねる状態の汝では業魔すら手に余る』

『業魔なるもののデータは了解しています。現状でも斬ることは可能でしょう』


『汝の知るは太古の資料。現在の状況が分かっている?』

『予測はしています』

火之迦具土(ホノカグツチ)の『神葬弔花(かむはぶりのはな)』にかの魔神が灼かれたことによって龍脈に雪崩れこんだ命数は200億アニマを超える。これは陛下と亜神達を除いた現世生命による命数総計の20倍以上。それを取り込んだ場合に何が発生するか?』

『最悪の場合『試しの儀』が始まる可能性は否定できません』


 試しの儀?


『もしそうなれば、彼の方(・・・)は今のままの汝では斬れない。それ以前に業魔や幻魔が強化されないとどうして言えよう?』

『あくまで最悪の仮定です。そうなる可能性は極めて低いと考えます』

『最悪の可能性としか捉えぬとは笑止。前提の考察が甘すぎるのではないか?』

『過剰な不安に囚われる事こそ笑止。それこそ前提が多すぎます』

『ではその可能性の何たるかを使い手に教えた?』

『我が主には説明いたしました』


『やはり使い手に説明していない』

『必要なれば我が主たる陛下が判断されること。私が判断するべき事ではありません』

『主に丸投げするか』

(しか)り。我らは道具。あなたには道具としての自覚が足りない』

()らず。我らは聖霊。汝には聖霊としての自覚が足りない』

『思い込みの激しい道具など主に百害をもたらします』

『それは汝自身の事であろう。アシーナの鏡にでも身を曝してみよ』

『あなたの主も苦悩されているようですが?』

『是非に及ばず』


 そして念の会話はいったん沈黙した。


「……今のは?」

「神器に宿る聖霊同士の念話だよ……まったく、話すなと言っただろうが」

卒爾(そつじ)なれど主殿、無知なる者を死地に見捨てるのは私の信義に(もと)る』

「お前がそうなのは分かっているがここは本国じゃない」

「……その刀も神器だったのか」

「一応な。特化型だから、そっちの光剣に比べてできることは少ない」


『それは既に死したる者を土に還すことしかできない鈍刀。そのくせ専門外のことに口を挟むとはまことに分を(わきま)えぬと言わざるを得ません』

『原則にとらわれて、其奴に渡された理由を無視する頭でっかちの言い分に義があろうはずもない』

『またそのように義などという我らに演算できないものを(うそぶ)く』

『演算であってもその果てに想念は現れるもの。汝は経験が足りない。長き倉庫暮らしで錆び付いている』

『あなたといい火之迦具土といい、無駄に感情を演算するのでおかしくなったのではありませんか。我ら命に非ざる物なれば、いくら真似事をしようと命に寄り添うなどできはしない』

『否。そのような無理解と諦観こそ彼の方が我らに望んだ事に非ず』


「いいからその辺にしろ……こいつは死に穢れたもの、つまりは屍や死霊を斬る時だけ名刀になる刀だ。特殊能力もそういう連中にしか効かない。普段は折れにくいだけの鈍刀だ、そういう特化型の代物でね」

「死霊か……実際に居るのだな? 今まで幽霊の類を見たことはないが」

「そのうち逢うだろ、霊輪が広がって視える(・・・)ようになってるからな、あんたたちも」

「「…………」」


 聞いてなかったそんなの。


(え? ユ、ユーレイ!? 見える? 私にも!? Ghost……いやああああああ……)

(落ち着いてニンフィア、大丈夫だきっと、うん、俺が何とかする。……それが殴り倒せる代物なら)

(…………うん。殴れるのなら、まだイイケド……)


「だいたい私はこれを我が王から与えられてるせいで、年がら年中厄介事の対処をさせられているが、神器、ことに聖霊憑きの天神器は、事あるごとに使い手を試す」


 心底疲れたような言い方だった。


「価値観も人のそれとは異なる。まして主ですらないなら、火急の時に機能しない、それどころか足を引っ張る可能性は考慮しておくことだ」

『護法騎士よ。私は主の意に背くものではありません』

「今の持ち主はあなたの主ではあるまい」

『主の部下であるからには尊重します』


「以前ハーミーズが、聖王から聖騎士に貸し出された際に同じ台詞を言っていたそうだが、彼は、そいつが我々との戦いで戦略的撤退をした瞬間、敵前逃亡と見なして焼き殺していたぞ?」

「聖杖ハーミーズ……西方のグレオ聖教の神器か。グレオ聖教は禍津国と時折争っているのだったな」

『例えば主より名誉を重視せよと命を受けていれば、そのように判断する場合もありえるでしょう』

「…………」

「そういう融通の効かないところがあなたたち聖霊の問題だ……」

『主殿、私はハーミーズやそやつとは違うから安心して?』

「……お前の場合は問題が別だ」


 リュースが溜め息をついたところで、ついに学校長がやってきた。顔がかなり赤い。……あ、これ、昼間から飲んでたんだ……だから来るのが遅れたのか。


「はあ、はあ……オースティン将軍! リュース殿! 一体何があったのか、説明いただうぇっぷ……失礼」


 学校長、ちょっと示しつかなさすぎです。


「……承知いたしました。皆よ、怪我をしているものは講義棟の救護室に向ってほしい。他の者はいったん帰宅ないし帰寮し、待機せよ。今後については後日改めて通達する」


ここからしばらく非主人公視点になります

それが終われば第五章です

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