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第5話 高度な柔軟性を維持しつつ

 そうして半月後。期末試験の補修こと地獄の缶詰め(ロイ主観)が終わり、遠征演習の日となった。一時期口から魂が出ている感じだったロイも復調した。


 今季の討魔演習遠征は、帝都光星(グァンシン)から徒歩で一日弱ほど西にある、炭滾(タンガン)峡谷において魔物を討伐するというものだった。


 魔物とは魔術的な何らかの力、固有能力を持ち、概して人間に敵対的な動植物、虫などのことである。魔物を滅ぼすには人間側の戦力が足りないが、人里に出てこないよう間引く程度のこと、即ち魔物狩りは定期的に行われている。


 なお今回の演習は魔物のみが対象だが、魔物でない生物でも異常発生などがあれば、討伐の兵が差し向けられることもある。例えば飛蝗の大量発生などだ。


 魔物狩りは魔術衰退以後は軍をもって当たる作業になっており、タンガン峡谷は魔物が出る地域としては帝都に最も近いため、比較的頻繁に討伐隊が派遣されるところだ。


 演習では、学生は比較的脅威度が低い小物がいる地域を割り当てられ、実戦経験を積むこととなっていた。基本は学生でも倒せる程度の相手を割り当てられるが、なにぶん魔物は自然の産物であるため、想定より多い少ない、強い弱いがあるのは致し方ない。


 科を(また)がって編成された8名からなる2つの班ごとに、採点役の教官がひとりつく。原則としてこの2つの班は組になっており、一方が魔物と戦う場合はそれを近くから見学、班長が救援を要請するか、教官が指示すれば戦闘に参加する。


 戦闘があったとして、自分の組が戦った場合と、他人の組が戦った場合とで、それぞれ班としてどう行動しどのように感じたか報告をあげるよう要求された。報告の正確性や、自己評価・客観評価がそれぞれどの程度できるかも考査の対象なのだ。


 今回ロイのいる班は、騎士科から1、魔術科から2、歩兵科から4、そしてロイという配分になっていた。騎士科の者が班長であり、原則班長の指示に従う。意見があれば班長に具申し、班長の決断に任せる。なお、同じ教官のもう一つの班も同じ配分で、仙霊科枠でリェンファがいた。


「そっちもツァオ教官の班だったか、こっちに救援要請したりしないように頑張りなさいね」

「俺が決めることじゃねえよ。まあどの班になろうと、俺は前に出る矛と盾の役さ。そっちこそどうなんだよ」


 幼なじみというほど長くはないが、士官学校に入る前からの知り合いではある。リェンファの父親は帝都守護の星衛尉部で上百卒長(=おおよそ少佐相当)を勤めている軍人で、ロイが纏勁の技を学んでいた道場の師範の友人でもあった。そのため、道場にたまにリェンファが来ることがあったのだ。


 そして二人はその頃には既に自分たちが仙力持ちだと分かっていたので、そういう意味の同志として時折話すこともあった。それ以上の関係ではないのに、時折同期の連中から疑いの目が投げかけられる。違うというに。


 入学前、道場ではもう少し振る舞いや言動はガサツで男言葉混じりだったのだが、最近猫を被ることを覚えたらしい。道場の師範に対しても、いつの間にか敬語で話すようになっていた。


「実質的に私は斥候役よ、魔物がいるかどうか見て回れってね」

「そっか、その『目』は魔物かどうかもすぐ分かるんだっけか」

「魔物の『色』って毒々しい変な色に見えるから、余り見たくないんだけどね……あんたくらい単純な色ならいいんだけど」

「俺が単細胞とでも言いたげだな?」

「あらよく分かったわね?」

「……はあ。まあいいや、そっちはそっちで頑張ってくれ、俺は知らねえからな」

「(くすくす) じゃあね」


 リェンファの仙力は【霊眼】と名付けられている、他者の霊力と魔力を視る能力だ。仙力に目覚めているかどうか見れば分かるし、本来からどの程度消耗しているかも分かる。おまけとして、本人の精神状態や、悪意の有無、嘘を付いているかどうかなども大体分かる。


 その点で、リェンファはロイを嫌いではなかった。単純な色、というのは彼女にとっては誉め言葉なのだ。霊気の色が単純だということは、建前と本音の使い分けがなく、鬱屈もしていない前向きな人間だということ。そういう人間は意外に少ない。


 大抵の人間は彼女からすると裏表どころか多色刷りの霊気だったり、色合いも濁ったものが多い。なのでロイは、良人(おっと)や恋人としてはともかく、友人としては好ましい人物だ。だからといってそれを素直に口にするようなことはないが。だって馬鹿だし……何より鈍いし。


 さらにもう一つ、彼女には別の仙力があったが、これについては皆には秘密にしている。身を守るためにはそのほうがいいという判断だった。


 ロイの班の班長は、騎士科のスウという少年だった。平均よりやや小柄なロイよりもさらに少し小柄だが、父親が北方方面軍の旅団長の一人という家で、平民のロイに対しては「貴様か。しっかりと使ってやるから、気合いを入れておけ」と同い年ながらなかなか尊大な口を叩いてきた。


 尊大でもしっかり指示してくれるなら構わない。問題は班として適切に動けるかどうかだ。自分一人のことであれば、魔物相手でも生き残る自信はあるが、今回の他の班員七人はどう見ても仙霊科の仲間たちより弱そうだった。


 彼らを怪我なく無事に過ごさせるために、高評価による将来の給料のために、ロイをうまく使ってくれることを祈りたいところだ。


 魔術科の二人はデラックとダシャーというそれぞれ下級貴族出身者だった。こちらもやや傲慢な感じがあったが、この御時世で魔術科を選んでいる以上それなりに貴重な素質を持っているはずで、そういう傾向があるのは致し方ない。


 二人は、最近利用されている呪唱魔術と呪符術を組み合わせた方式、唱符術を使っていた。一時は紙屑となった安価な呪符を、呪唱魔術と融合させることで再び使い捨て魔導具として使えるようにしたやり方だ。


 結局のところ、呪文が長く時間がかかるが汎用性の高い呪唱魔術と、呪文は短く高速だが高価な消耗品が必要な呪符術の中間、中途半端な形態なのだが、魔術衰退以後それぞれの方式は利点は減って欠点が増えたため、中途半端な方式にも居場所ができたのだった。


 とりあえず彼らは『石槍』や『爆炎』といった基本的な攻撃魔術を起動できる腕はあるようだ。ただし、射程はせいぜい指先ほどの小石を投げて届く範囲程度と短めらしく、そこを考慮した運用が求められると思われた。


 歩兵科の四人は、それぞれ下級貴族や政商の息子たちだった。ロイとしては、どうもこちらの四人からは居心地の悪い感情をぶつけられている気がする。陰口を叩かれるのは慣れているが、せめて聞こえないように言ってくれないものかと思うのだが。


(俺だってあんな仙力があれば……)

(ちょっと強いからって偉そうにしやがって)

(所詮平民だ、今だけだ、正規配属になったら変わる)

(俺のリェンファさんとあんな親しげに……)


 おい最後ちょっと待てお前は見かけに騙されているあいつはああ見えてかなりガサツでろくに片付けもでき


 ……殺気!?


 ……気のせい、か……?




「どうした、ガルフストラ」

「……何か聞こえたような気がしました。申し訳ありません、気のせいかと思います」

「そうか、まだ始まってもいない。余り気を張るな」

「はい」




「第八班の班長、スウだ。班員全員、聞こえるか? こちらに集まれ。歩兵科と仙霊科のものには分担して設営荷物を運んでもらうことになるが、注意事項をこれから説明し……」


 早速スウが張り切って差配を始めていた。騎士科の連中は、単純な戦力よりも指揮官としての能力が求められる。この演習においても班長役は、自分が直接戦うよりも班としての戦果や被害のほうが得点への影響が大きいように設定されているのだそうだ。


「……そこ、ちゃんと聞いているか? 集中しろ集中!」

「はい」

「いいか、これはただの訓練でなく実戦である。いかに高度に柔軟に臨機応変に状況に対応できるか、それを魔物相手とはいえ……」

「へい」

「魔物と戦うのは初めての者もいるだろうが、必要以上に恐れることは……」

「ほい」


 気合いがあるのは結構なのだが、皆が白けていて、空回っている空気を読む余裕はないようだった。


 なにせ八班の出発予定時刻はまだ二刻(約四時間)は先なのであるし、訓辞の内容はほぼ出立前に教官が言っていたことの繰り返しとあっては、集中しろと言われても形だけになるのは仕方ない。


 とりあえず武装と設営道具を用意する。歩兵科の皆は弩と槍と短剣を、ロイは投擲槍と剣鉈に小型盾を用意していた。あとは単純な投網だ。


 彼は実質的には歩兵科の五人目であり、班の盾役。魔術師の二人は探知役だ。班長と彼らの三人を前後から五人で守りつつ、狩りを進めていく予定だ。


 タンガン峡谷は、大昔火山だったのではと言われる二つの山に挟まれており、元溶岩らしき岩からなる黒い岩がゴロゴロしている場所だ。木々は比較的疎らで見通しは悪くない。


 また所々では温泉が沸いているが、魔物も何故か多い土地のため、有効利用できているところは限られる。時々魔物狩りを行うのはそこを守るためでもある。終わったら温泉で一休みしたいという者もいたが、それは貴族出身者のみの特権であるようだった。


「ウーハン、そっちの組はもう出発か」

「ああ」

「先発組から何か連絡きてないか?」

「硬角鹿や雷纏猪が出てるようだぜ」


 魔物は種ごとに固有の魔術に似た能力を持っている。実際、魔術を打ち消す破魔の術で効果は消えるというから分類としては仙力などでなく魔術なのだろう。そして大抵が自己強化型のためか、魔術衰退後でも脅威度が余り低下していないのだ。


 硬角鹿、雷纏猪は、その名の通り角を硬化したり、軽く痺れる程度の雷を薄く纏って攻撃してくる。魔物としては弱いほうだが、普通の鹿や猪より強いのは間違いなく、やや狂暴だ。武装していても油断するとケガをする。


 本当は狩りを補助してくれる狩猟犬や猛禽などがいるといいのだが。狩りを趣味とする貴族ならそれらを連れて行くのが常識だし、正規兵の魔物狩りでもそうだ。


 しかし学生の場合人力のみである。しかも大人数の巻き狩りをやるわけでもなく、班単位の行動。ウーハンが以前ぼやいたように安全とは言い難いが、それも訓練、なのだそうだ。


「気をつけろよ、森だと転移は危険が多いだろ」


 ウーハンの転移は入れ替えが原則らしい。例えば転移先に木や石があるとそこから抜けずに一瞬埋まってしまう。そして元々自分がいたところに、自分型の木像や石像が現れる。


 さらにうっかり頭部まで固体のところに転移してしまうと瞼が開けず前方を認識できなくなり、再転移で逃げるのが難しくなる(だから特殊な伊達眼鏡をつけている、隙間を作るためにだ)


 初めてそれを知ったとき、すげー! 石の中に転移したら石像ができるって? おっもしれー、掘り出してやるからそこでやってくれ! と言ったら殴られた。その他にもいくつかの弱点はあるものの、非常に強力な力だ。


「お前こそ過信すんなよ。魔物は普通の獣よりしぶといぞ」

「雷纏猪なら倒したことあるぞ。確かに拳がビリッときた、金剛なかったらしばらく腕使えなくなってたのかもな」

「……素手で何やってんだよてめえは」

「武器持ってなかったんだよ。とりあえず最初の突進さえかわせば何とかなった」

「はあ……まあ、お前を心配するより先にまずは自分だわ。それじゃな」


 見送って待つことしばし、ようやくロイ達の出発時刻となった。教官のドーマン・ツァオ教師は40過ぎの男性で、普段は算術の教師をやっているが、士官学校の教師は荒事もできなくてはやっていられない。普段の授業の時より低くでかい声で指示を出す。


「ではこれより第七班、第八班の討魔演習を開始する。撤収時間は明後日の16時だ。結果如何に関わらず、当日の15時以降にここにまで戻って来ること。理解したな?」

「「はっ」」


 さて、いったいどうなるやら。……何故か、微かに嫌な予感がした。

12/26 表現微修正

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