第46話 力の使い方
業火、ついで雷光の煌めきを背後に、ロイとフェイロンが交錯する。
仙力と自在なる連刃鞭を駆使し、闘仙フェイロンは駆ける。彼の仙力【妖跳】は短距離瞬間移動の力と見なされているが、その本領は移動を伴う行為の過程省略にある。
本来予備動作が必要な大技であろうと、その動作無しに相手に当たる直前の状態で出現できる。放った後の隙が大きい技であろうと、その隙を省略してむしろ次の攻撃を当てる直前の状態に『跳ぶ』ことができる。
即ち位置を自在に変えながら、あり得ざる連続攻撃が可能なのだ。
敢えて位置を変えず、太刀筋を真逆にするだけでも必殺の絶技になりえる。左から来た刃を受け止めた次の瞬間、右から刃が迫るとなれば常人では対処できない。
しかも変幻自在の宝貝、禽嘴連刃鞭は毎回異なる形状、異なる間合い、異なる軌道に変えることができ、相手に的を絞らせない。
これこそ彼が闘仙と呼ばれる所以。この連続攻撃に耐えきった者はいなかった……今までは。
一方、ロイの極限まで研ぎ澄まされた感覚は、仙力の発現に伴う僅かな揺らぎを捉えて位置を読み取り、卓越した戦闘の才能は、自在なる斬撃を紙一重でかわし、致命傷を巧みに避ける。
さらに、目覚め始めたロイの新たな力が本人らも気がつかないままに僅かに闘仙の動きを狂わせる。
そしてロイが時折繰り出す剣撃は傷を負うごとにむしろ速くなり、闘仙の衣に何条かの痕跡を刻んだ。刃が潰れた剣でなければ、闘仙の衣が宝貝でなければ、攻防は逆転していたかもしれない。
もはやその背に同期の少年、ウーハンはいない。彼は闘仙の一撃をかわし切れず、防具ごと脇腹を裂かれて戦線離脱していた。かなりの出血があるものの、防具のおかげか即死は免れた。しかし戦える状態にはない。
「起動:赤鵟啼応剣!」
蛇腹の多連刃のそれぞれが赤く光る。闘仙はまず遠距離に出現して不可視の風の刃を飛ばす、それも一振りで、一つだけでなく赤い刃の数だけの複数の風刃が発生した。
ついでロイの後方に転移し多連風刃を、さらに別方位に転移して……一筆書きの五芒星を角度を変えつつ徐々に小さくしつつ重ねるように、残像すら残る高速転移と風刃発動が繰り返される。
そうしてロイに全方位から同時に何十もの風刃が届くように動き、一人で有り得ない同時包囲攻撃を実現。
最後にロイの頭上に出現して風刃を伴う斬撃を振り下ろす。百を超える風刃に実刃が追いつく攻撃は、およそ人にかわせる技ではない。
だが。かわせないなら、耐えるまでのこと。ロイは仙力を腕に集中し、防御魔術も併用しつつ、迫り来る風刃に敢えて突撃する。
「こおっ…!」
風の刃に切り刻まれ血煙が上がるが、骨にまでは至らない段階で抑え包囲を突破。
「くそがっ!」
頭上からの闘仙の追撃が僅かに逸れ、ロイは難を逃れる。
偶然ではない。ロイはさらに予め霊穿を放つことで、フェイロン本人の出現を少しだけ遅らせたのだ。そういった独自の使い方を彼はこの戦闘で会得していた。
霊気の回し方が段々分かってきた。魔術による纏勁無しでも、励起状態のロイなら十分な強化が得られるようだ。
そのため意識を純粋に気を練る事に集中することができ、より感覚が研ぎ澄まされていく。
それでも、どちらかといえばロイは劣勢だった。元々戦いもありえると準備をし、多彩な宝貝の力を借りられる仙人と訓練中だったロイたちとでは装備が違い過ぎる。
また、ロイに追加の霊気を叩き込める味方はここにはいない。教官たちはまだ向こうで別の仙人の相手をしている。
「頑張れ…」
「頼む…!」
力の違いゆえに参加できない兵や魔導師たちは、防御魔術を固めがけして身を守っている。ロイに声援が飛ばし、彼に僅かばかりの霊力を与えるが、仙力のない彼らのそれでは雀の涙、正直今のままではじり貧だ。
ウーハンは魔導師のひとりに治療されながら、ロイの戦いを見つめていた。早期に治療して貰えたため何とか重傷からは脱せたものの、痛みと悔しさに涙が滲む。
くそ、何か。何かできることはないか。自分が転移できたところで、相手が速すぎる今は単なる的、足手纏いだ。怪我がなくともこの戦いでは役立たずだった、自分が動けても仕方がない。
何か助けられることは……せめて、ロイの持っている剣が刃付きのものであったなら……!
その時。カチリとウーハンの中で何かが嵌まったような感じがあった。
『───転移という現象が起こっているとすれば、それはどう発生している?』
臨時教官の言葉を思い出す。俺の転移で発生している現象は何か。俺の仙力の元になっている願いは何か、もしかしたら。そういうことであれば。
「すいません! その剣、貸してください!」
「えっ……何だ、どういう……」
隣にいた万卒長の部下に懇願する。
「すいません時間がないんです、早く!」
「……わかった」
ロイにこの剣を渡す。投げるわけではない、それでは闘仙に取られてしまう。ウーハンは自分の仙力を起動し、使い方を意識して変えてみた。……やはり、そうか、そうと分かったうえで行使すれば!
「ロイ!」
闘仙の攻撃に対している友に向かって叫ぶ。
「受け取れ!」
「!!」
ウーハンの仙力の元になっている願いが何だったのか。臨時教官の言う通り、彼の転移で発生している現象。瞬間移動しているのが、移動が目的でなく単なる結果であるなら。
だから、ウーハンは自分の手に持っている剣に、霊力を注ぐ。そうすることで望みの結果を得る。
「いい加減……くたばれ、小僧!」
怒りの声と共に斜め後ろから闘仙が出現した瞬間、ロイはあえて一歩そちらに出る。そのために風刃と連刃鞭を避けきれず、刃が彼の体を斬りつけ血飛沫が上がる。
だが踏み出した一歩のために、ロイの剣もまた届く。ウーハンの手にしていたものと入れ替わった、刃のある剣が。
同時に霊穿を放ち、闘仙の仙力発動を遅らせる。ほんの一瞬だけの遅れ、だが必要な一瞬。
「がっ!?」
そして、ロイの肉を斬らせつつ骨を断たんとする一撃が、闘仙の左腕を肘から斬り飛ばした。




