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第45話 晴天の霹靂

 リェンファやニンフィア、そしてエイドルフとレダは武道場の中から戦いの様子を見つめていた。


 外に出ているのは、ロイや将軍たち合わせて10人ほど。他の者は武道場の中にとどまっている。


 これはフーシェン将軍が出て行く際に、待機を命じたことが大きい。ついていこうとした面々はそこで制止されてしまったのだ。


 敵の仙人には瞬間移動型能力や広範囲に毒を作り出す能力の持ち主がいる可能性が高く、学生らが出ていっても戦力となる以上に被害が増えるとの判断によるものだった。


 武道場に籠もって、窓や出入り口に結界をはれば瞬間移動や毒には対処しやすい。


 それに何よりの問題は、先ほど放たれた敵の大規模宝貝だ。相手に余裕を与えると再起動させてしまうかもしれず、自爆覚悟で行使してくる恐れもある。そうなった際にはできるだけ固まっていたほうが、リディアとしては守りやすい。


 その本人は武道場の壁にもたれてへばっている。こんな規模の防御魔術を単独で使うなど、将軍すら聞いたことない異常な魔力だったが、さすがに堪えているようだ。まあ詳しいことは後で聞くとして、今は回復に努めて貰わないと困る。


 外では何かが光って、いきなり誰かがやられたらしきところまではわかったが、その後凄まじい焔が上がって、よく分からなくなった。


 飛び出していったロイたちが心配だけれども、今自分たちにできることは……。


「……上空にまだ、宝貝が残ってるのよね」


 リェンファの目には、空に非常に規則正しく並んだ霊気と魔力を帯びた、蜘蛛の巣のような網があるのが視えていた。他の者も目には見えないものの、何となく霊気が残っているのは感じ取れていた。


「待機状態っぽいねー」


 リディアが回復促進のための霊薬を飲みながら言った


「待機状態?」

「すぐに再開できる状態ってこと、隙を与えたら二発目が撃てる。とはいえ、兆候感じて即全力で逃げ出せば何とかなるかなあ? でも確か、少し破壊位置の調整っつーか、少し広げたり追いかけてこれたりもすんだよねこの宝貝」

「マジっすか……」

「止められないんですか?」


「……この手の広範囲領域展開型のは、どっかに複数の核を事前に埋め込むのが普通。上に広がってるのだと、八つかな。ここから見て八方位に宝珠が埋まってると思うよ。それをいくつか、過半数以上壊せば停止するはず」

「宝珠……。外……ですよね」


「だねえ。結構遠いところにあると思うよ。もしかしたらあの転移の子がいたら、壊してきて貰えたかもだけどねえ、先走っちゃって。……いても無理か、さすがに宝珠はバレにくいように設置するだろうし」

「他に止める手段はあるんですか?」

「使い手を斬るのが一番だね。あとうちの上司なら、何とかできると思う。もしくは……」


 ニンフィアとリェンファ、そしてエイドルフとレダのほうを見回して、言った。


「あんたたち、ちょっと手伝ってくれない?」

「俺たちですカ?」

「そ。あんたたちの仙力。他の子らより適切」


──────────────────


 炎の波が光の刃によって断ち割れ、さらにその先の機甲童子が両断された。童子の機能停止に伴い炎の大半は消え去り、残り火も臨時教官(リュース)の風の術が吹き飛ばす。


「馬鹿な……。光剣イルダーナハが何故こんなところに」


 ランドーは、フーシェンの前に浮かぶ金属の『筒』に目を凝らす。


 光剣イルダーナハ。それは普段は小さな筒状の柄しかない異形の武装。必要なときに、その柄から使い手が求める形の道具を作り出す。


 この『剣』は神器と形容される最高位の魔導具だ。神器は知られている限り全世界でも十あるかないかであり、帝国では公には(・・・)これ一つしか無い。


 イルダーナハは、例えば鋼をも断ち切る発光剣(ライトセイバー)、不可避の弾丸を打ち出す激光歩槍(レーザーライフル)、あるい電磁屏蔽(ビームシールド)など……様々な形態に変化する万能の武装。


 しかもそれ自身が聖霊と呼ばれる意思を有し、使い手への助言やある程度の自立行動すら行う。先刻宝貝の展開を警告したのもこの神器だ。


「……陛下は今回の冥穴の事態を重く見られ、私に一時的にこれを使うことをお許しになられたのだ。まさかこのように使うことになるとは思わなかったが」

「いつまで温存するのかと思ったぞ」

「気付いていたか。これは本来私の物でなく、できうるならば使わずに済ませたいものゆえ」

「神器を本来の使い手でない者が使うのは私も推奨せん。だが火急の時に使わずに死んでは、そちらの皇帝陛下の意志にも沿えまい」

「そうだな……」


 ブンッ


 話しながら、フーシェンは小さな光刃を作り出し、腕に絡まった縄を断ち切る。かつての彼の念腕では、この神器くらい軽いものですらゆっくりとしか動かせなかった。


 しかし霊輪が広がり、さらに霊気を高める白蓮織布を服の裏地に使っている今は、素早く第三の腕として扱えるようになった。


 まだその強化に慣れておらず、両腕との同時使用は難しい。だが、いずれ使いこなせば大いに役立つようになるはずだ。


 ランドーが忌々しげに前に出る。スンウェンは機甲童子の制御面を引き受けていたため、一刀両断された際の衝撃が逆流してしまい、崩れ落ちて苦痛に呻いていた。回復には少し時間が必要だろう。


 ランドーの懐……いや、衣装に刺繍された貝の絵が蠢き、何かを吐き出し、実体化させる。それは小さな四角い鏡であり、ランドーが触れたことで鈍く昏い光を放った。


「まだ、何かあるのか! ………ごほっ……くそ」


 先ほどの仙丹による目と喉の痛みから回復しきっていないフーシェンも、忌々しげに槍と光剣を構え直す。


 なお側近のフォンヤァは、先ほど吹き飛ばされた際に腕や肋骨をへし折られ気絶し、もはや戦力にならない。人間が機甲童子を相手にすれぱ普通はそうなる。フーシェンが勝てたのも神器の力あってのことだ。


 鏡が浮かび上がり、ランドーの周りを回り、回りながら分裂し……そして瞬く間に数十枚になり、ランドーの周りから飛び出して彼の前で小さな竜巻のようになり。


「宝貝『尸解(しかい)照片鏡(しょうへんきょう)』」


 そして鏡の竜巻が紫紺の輝きを発する。光が消えたとき、目の前に、一人の老人が立っていた。いかにも崑崙の仙人らしきいでたち。


 質素ながら術式回路が刻まれた黄色の衣を纏い、長い杖を手にしている。フーシェンは見たことのない姿だが、臨時教官はそれを知っていた。


「誰だ?」

「……マジかよ」

「知っているのか?」

「……これは人工的に造られた幻妖(ドッペルゲンガー)だ、元になっているのは……」

 

「我らにしばしの間、お力をお貸しください……我らが祖霊よ」


 その宝貝は龍脈の力を利用し、意図的に使い手に縁ある幻妖を作り出す。


「こいつは、大昔の初代『雷仙』ユンインの写しだ。……来るぞ!」

「!!!」


 幻妖が、手にした杖で天を指す。


天怒(テェンヌー)


 青天に霹靂(へきれき)が鳴り響き、天より巨大な雷がフーシェンたちを襲った。

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