表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/221

第41話 対仙術式?

 とりあえず3対3の模擬戦からのようだが、こちらからは兵の人から3人。最初に毒眼蜥蜴(バジリスク)とやりあった人たちだ。刃を潰した訓練用の武器を手に石舞台に上がっていく。


 向こうからは、兵が2人に、後ろに見るからに強力そうな魔術回路が織り込まれたローブ姿の男が1人。たぶんこの後ろの魔術師が肝なのだろう。


「帝国魔導院の制服に見える。それも魔導師級」

「そう見えるね」


 魔導院は、かつて魔導「省」であり魔術の研究や実践を担当していたところの名残だ。その昔、魔導省は兵部省と並ぶ組織であって、独立した強い権力があったらしい。各軍の魔術師部隊も、魔導省から派遣されているという扱いだったとか。


 しかし魔術衰退の時に、混乱に対処できなかった責任を問われて解体。民生部門が理導院として文部省の下部組織に、軍事部門が魔導院として兵部省の下部組織として再編され、魔術師の所属も実際にいる各組織単位に変更された。


 現在の帝国では、魔術に優れたものは理導院か魔導院にて試験を受け、合格することで魔術免許が貰える。魔術師とは通常この免許持ちの事をいい、いくつかの職は免許がないと就くことができない。


 一方「魔導師」とは魔術師の上澄み。極めて難しい認定試験を突破した者だけが名乗れる資格で、魔術衰退以後は大幅に減った。魔術免許もち千人につき一人くらいのはずで、仙力使いほどではないが貴重な人材だ。


「ハンセル導師たちか……」

「レダ? 知り合い?」

「姉上が魔導院にいた頃、同じ部門にいた先輩ら。……それで姉上だけ宮廷に上がったものだから……」

「……ああ、なるほど」


 つまり、理由はともかく皇族絡みで、後輩が自分より出世していった者たち同士が組んでいると。嫌な予感しかしない。


「はじめ!」


 そうして試合開始の声。アラティヤ万卒長のニヤニヤ顔からして、何かあるんだろうなあ……相手をする人らお疲れ様です。


 そしてまず、前衛の2人同士が牽制しあうところ、魔導師が呪文を唱え始める。そこめがけて、こちらの後ろから余った一人が槍を投じる。


 魔導師が槍を避けようとして呪文が少し止まった隙に、【浮身】の力で凄まじい速さで跳躍し、一気に魔導師の所まで行こうと……したところで、魔導師が呪符を投じる。そして。 


「ぐぁっ……!」


 跳躍し目前に迫っていた彼は、空中で呻き声を上げて墜落した。ロイに感じ取れたのは、呪符によって魔術が発動した瞬間、符のあたりから霊気が放たれた感覚があり、一拍おいて兵の霊気が強く揺さぶられたということ。


 そして墜落し朦朧とした彼に『衝破』の術が弱めに叩きつけられ、そこで無力化されたという判定が下る。


 さらに魔導師はそのまま新たな呪符を2つ取り出し、それぞれ前線の味方の背中目掛けて投じ術を発動。


 「なっ…!?」


 発動が味方の背中からであったにも関わらず、効果はこちらの兵にだけ効いたようだ。二人の兵はそれぞれ何らかの衝撃を受けたようにふらつき、その隙に木槍による痛打をうけ、判定負けとなった。


 何かの魔術によって霊気を揺さぶっている? 呪文の少なさからすると、かなり高級な呪符を使っているのだろうか。最初の長めの呪文は、本来それほど必要でないのに、敢えて中断されたと見せて攻撃を誘うための欺瞞か?


「どうかね。これは『崩仙』の術……仙力を持つ者や、さらには魔物を止める術よ」

「貴殿らが開発したのか?」

「魔導院の者と共に開発した術でな、仙力を持たぬ者には効かぬ。先ほども背後から巻き込んだが、こちらの者に影響はなかった」


 普通の人に効かず仙力持ちにだけ効くなら、少し動きを止めるだけでも意味はあるのかもしれないが……。


「魔物も同様に動きを止められることを確認している。これの使い手を揃えれば、もはや仙人であろうと……」


 すると臨時教官が残念そうに言った。


「この術が通じそうなのは、魔物なら小物、崑崙なら麓に住む見習いだけだな。山で昇仙して名を得た連中には効かんだろう」

「魔の国の者か……知った風な口を叩く、我々は長らく仙人どもと戦ってきたのだ。貴様に仙人の何が」

「貴殿よりも仙力には詳しいとも。今のここの連中も霊気的にはまだ見習いみたいなものだから効くが、この術とて名有りの仙人相手で試したことはないだろう?」


 以前に言っていた、霊輪が中途半端に開くと感受性が高くなって霊的防御力が落ちる、という話か? 魔導師の一人が、怒りを滲ませて臨時教官を睨みつける。


「貴様にこの術が分かるとでもいうのか、これは我が院の秘術で……」

「同じような術は我が国にもあるからな。訓練用としてだが」

「訓練用だと?」

「そういった術が効かなくなれば一人前、ということだ。講義の仕上げにその類の術も残していくつもりだったが、ちょうどいい。うちの訓練用の術と比較しても、今のそちらの術にはまだいくつかの欠点がある。ものは試しだ……カノン」

「はい?」


 いきなりロイに白羽の矢がたった。


「あっちの3人相手でやってみろ」

「私1人でですか」

「そうだ」

「勝手なことを……それにそやつはまだ学生ではないか、舐めたことを言うな」

「ここにいる者の中では、こいつが一番名有りの仙人の状態に近い。遠慮なくやってみるといい。万一こいつが駄目なら私がお相手するし、いずれにしろ使ったぶんの呪符代は支払おう。いかがか?」

「………………」


 呪符代を支払う、と言った所で魔導師たちの目が泳ぎ、しばし先方は小声で相談して……了承した。……万卒長、必要経費ちゃんと払ってます?


 将軍にも確認をとるが、今は臨時教官の指示を優先しろとのことなので、ロイは臨時教官から少し助言を得たのち、石舞台にあがって、先程の三人と対峙した。武器には刃を潰した剣を選んだ。


 ロイは、はじめ、との声と共に少し構え、小刻みに跳びながら前衛との間合いを少しずつ詰める。


「先程の術は、命数を調べる霊気探査の術式を元に、探知の周波数を高速で切り替えて霊気共鳴が発生する周波数を探り当て、その周波数の霊気変動を魔術で作り出し、共鳴によって相手の霊気を混乱させるというものだ」


 生徒等に講義するかのように手振りを加えながら説明する臨時教官の言葉に対して、後ろに控えていた魔導師の一人……ハンセル導師が、ぎょっとした目で教官を見た。術の動作原理まで見抜かれたとは思わなかったのだろう。


「だが魔術での霊気操作はとても効率が悪い。これは魔術が影響を及ぼすのは原則として物質次元の事象であり、霊気や魂とは存在の次元が異なるためだ。この次元変換がどうしても手間でな。ゆえに魔術による霊気操作術を戦闘に使える速度で放てるまで簡略化すると、色々足りなくなる」


 ロイが前衛の兵士と接敵したところで、後ろの魔導師が動き、前衛の背中から呪符を投じる。


 先ほど臨時教官に耳打ちされた事を思い出しながらよく見ると、呪符の魔法陣から垂直に薄い霊気が放射されるのが感じ取れた。放射の中心部から、体を一つぶんくらい瞬間的にずらす。


 次の瞬間、その中心部付近に強めの霊気の波動が……ロイの体をかすめ、後ろにとんでいってしまう。それで終わり。何も起こらない。


「なに……!?」


 導師らの驚きの声。


「欠点の一つ目だ。その術は速度を持つ者を捉えにくい。音波を模した設計にしているようだが指向性も高すぎ、十分な攪乱効果のある範囲が狭すぎる。探知から発動まで一拍あくのも良くない」


 言っていることの意味は今ひとつ理解できないが、とりあえず現象としてこういうのが来るぞ、というのは事前に言われていた。次にやるであろうことも。 


 魔導師が今度は三枚ほど呪符を取り出し、ロイ目掛けて同時に起動しようとする……。今度は敢えて、そのうち2つが重なっている効果範囲らしきところにとどまり、受け止めてみる。……弱い、正直リェンファの張り手のほうが効く。


「……なぜだ!?」

「欠点の二つ目だ。その構成は複数展開の意味が薄い。迂闊に起動しても範囲が広がるどころか、むしろ変調を引き起こし効果が落ちる。それを回避するには厳密な同時展開による位相同期が必要だが、貴殿らはやっていない」

「なんだと、そんな現象は観測されていない」

「魔術的手段での霊気観測は変換の手間のため時定数に問題があり、過渡現象を把握できない。この術の本来の肝はそこだ、定常状態だけを観測しても理解を誤るぞ。……最後だ、カノン。一発まともに食らってみろ」


 言われた通り今度は正面からまともに食らってみる。……さっきよりは強めに揺らされている感じがあるが、ロイにとってはやはり大したことがなかった。


「やっぱり弱いですね、こんなんじゃ動き止められないですよ」

「………これは………」


 いやこれで愕然とされても困るのだが。

 しかし折角の機会である。ロイとしては教官に言われたことを試したくなった。

 霊操で霊気を練り上げ、そして……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ