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第4話 俺たちは雰囲気で力を使っている

 煌星帝国の士官学校は、基本的には下士官、士官の育成のための学校だ。そして赤点塗れだろうと無事に卒業さえできれば最低でも兵長の資格を認めてもらえる。


 さらに仙力持ちであれば、特務兵として通常とは異なる特別給与などがある……ということになっている。まだ卒業した者がいないので、予定でしかないが。

 

 これだけでも悪くはない、しかしその上の下士官資格がとれると基本給には大きな違いが生じる。


 さらにその上の士官資格もあるが、これらは慣例的に高位貴族出身者向けなのでロイには関係ない。


 ロイは平民だ。建国の頃まで遡れば武の名門に繋がるが、庶子の血筋なうえ数代前に零落(れいらく)しており、両親は安い給料で商家で働いている。


 そんな家族から、ご先祖様以上になりえると大いに期待されて送り込まれている身としては、下士官資格までは頑張りたいところではあるが、彼の才能は肉体面にやや偏っていたのだった。習うより慣れろ、理屈より直感、考えるのでなく感じる。それが彼の得意とするところだ。


「いいじゃない、下手にあんたがしょっぱなから下士官になって部下を率いるとかになったら、下につく人が可哀想」


 悪意というよりは、いたずらっぽい口調がロイに投げかけられる。


「リェンファ……」


 目の前に、ほどけば膝まで届きそうな黒髪を三つ編みにした少女がいた。リェンファ・リィウ・ガルフストラ。ロイたちの同期で、仙霊乙科……甲科とは異なり直接戦闘向きではないと見なされた仙力持ち向けの学科に属している。


 ただでさえ女性の少ない士官学校にあって、仙霊乙科に二人しかいない花の一輪である。なお今のところ甲科に女性はゼロだ。大事なことなのでもう一度いっておこう。ゼロだ。


「いいやがったな」

「事実だもの、あんたバカなんだから。まー腕っぷしは強いんだから前で壁になってりゃいいじゃないの、それが適材適所ってものよ」

「ちくしょう、分かっているが分かるわけにはいかねえ」


 自分としても、下を率いる立場の適性があるかは疑問だ。だが問題はそれより給料だ。先立つもの大事。金がないのは首がないのと一緒、というのがカノン家の家訓である。可能性があるなら諦めてはいけない。


 それに……こんな異能をもつ息子を受け入れてくれる家族を、無碍(むげ)にできるわけもない。


「あっははー、まあせいぜい頑張ってねー」


 リェンファはあからさまにバカにした顔で通り過ぎていく。


「勝手なこといいやがって」

「まだ女が話しかけてくれるだけいいじゃねえか、俺なんぞそんなのもねえぞ。てめえ脈あるんじゃねえのかヨ」

「なんだよ、ねえよそんなの。知り合いだっただけだっつーの。それにいくらちょっと綺麗でも中身がよ。俺はもっとこうお淑やかで一歩下がってくれるような娘が」

「女に幻想見過ぎだよーいねーよそんな女ー」

「だいたいいくら仙霊科だからって、士官学校にそんな女が来るわけねえだろボケ。帝立学院の仙霊科のほうならまだ可能性が胡麻粒くらいは」


 リェンファの場合、親が結構高位の軍人で、女性貴人向けの護衛になることが目標であり、かつたまたま仙力の素質があったから仙霊科に所属している。


 そうでなかったら騎士科のほうにいただろう。それなりに気が強いのは致し方ない。まだ粗野でないだけマシ……いや昔はもっとガサツだった。今は猫をかぶっている。


 一般に高等教育を受けるのは男子のほうが多い時勢とはいえ、学院のほうならまだ女性比率も上がる、さらに仙霊科なら出自や学力の基準も緩い。だが……。


「あっちのほうは女も結構多いというが……親戚が学院に通ってるけどさ、仙霊科はむしろ女性陣のほうが科の覇権握ってるってよ」

「なんだヨ覇権って」

「言いたいことは分からなくもないよ。辛い」

「ああ……おまえんち、姉何人もいるんだっけ、あのお妃さんとか強そうだもんな」


 レダには姉が四人ほどいる。特に長姉は高位魔導師かつ現皇帝の寵姫として知られている有名人だ。


「数は力なんだよ……」

「だからそもそも幻想なんだっつーのー」

「てめえは枯れすぎなんだヨ」

「花なんてものはみんな棘が隠れてるんだよ」

「隠れてねえよ、それくらい見抜け」

「はいはい、もうその辺にしようや。今日はみんな最低限のことはできただろ、それでよしとしようぜ」

「俺らもここでガッツリ稼いどかないといかんからな、ロイだけじゃねえヨ」


 普通なら士官学校にいくのは、大半が先祖代々軍人や貴族をやってきたような家系の者、幼少時から教育され(しつけ)られてきた者たちだ。


 平民だとしても、それなりの金持ちや名士の家が多い。そして単なる七光りだけで入れる身分はごく一部。殆どは武術、座学も、入る前からそれなりにできる者たちが集まるところだ。


 だが仙霊科の生徒は平民の下のほうの出身が多い。少なくとも今在籍している者のうち、異能がなくても士官学校にいたであろう生徒は二割もいるまい。


 甲科の二期生ではレダ以外は平民だ。そうすると、幼い頃からの勉学はどうしても質量ともに少なめであり、座学を不得手としている。


 彼らは実力をもって、特別扱いに相応しいことを証明しなくてはならなかった。持てる能力は違えど、同じく異端の同志だ。


 いずれは栄達し帝国軍人の憧れ、同世代に七人しか選ばれない七剣星に名を連ねる……という野望はこの年頃の男なら殆ど皆が持ってはいる。


 七剣星は、東西南北と畿内の各五つの方面軍においてそれぞれ最強とされる者、そして五年に一度開かれる武術会優勝者と、皇帝が特別に任じる者の七人からなる帝国の武威の象徴だ。


 戦闘向きの異能を持つロイ達は単純な戦闘力では普通の者には負けないとの自負もあるし、現在皇帝推薦枠は空席でもある。


 太平の時代なら、負傷する危険も多い武術会優勝枠以外に平民が入るのは難しい……最強というのも、まあ、コネと金も実力のうちだから……。


 だがよくも悪くも魔術衰退以後は不安定な世情であり、その結果、実際に現七剣星にも軍功で成り上がった平民あがりがいる。そう、やはり可能性があるなら諦めてはいけない。そしてそのためにも単位は欲しかった。千里の道も一歩からである。


「期末が終わったら夏の合宿遠征か」

「討魔演習……魔物狩りね……実際どうなんだ?」

「年によって当たり外れあるらしいよー」

「何が当たりで何が外れ?」

「獲物がそれなりにいるのが当たりー」

「当たるとどうなる?」

「知らんのか」

「うまく狩れると単位にオマケがあるってヨ」


 胡散臭え、とウーハンがぼやく。彼は何かにつけ悲観的な物言いをする癖がある。


「危ないんじゃねえの?」

「学生がヤバいようなのは現役の人らがやるでしょ」

「重傷者はたまに出るらしいぜ、ヤダヤダ」 

「いーじゃんてめえはすぐ治るんだからよ」

「痛みはあるし、治るときはもう一回同じ痛み味わうんだぞチクショー、しかも勝手にだから止められねえんだヨ」


「そこまだ自分で制御できねえの?」

「どうやったらいいのかまだわからねえんだヨ」

「そもそも、できることかどうか自体分からないというのが多すぎるよね、僕たちの力」

「俺も実のところよく分かってない。【金剛】も、同じようにしたはずなのに出力一定じゃなかったりすんだよなあ、何が影響してるのかわかんね」

「ほんと厄介だわ……俺の【転移】も意図通りの時とそうでない時があるんだよな。何が違うんだか。あと何十年かしたらその辺分かるようになんのかね」


「俺らは実験動物だからー、まだねー」

「あー、次の命数計測、いつだっけ?」

「さっきの遠征の後だヨ」


 彼らの仙力は【金剛】だの【再現】だのと名付けられているが、それらは現時点でできていることを表す便宜上の名称に過ぎない。正式に分類されるほど数が揃っていない。


 それが一つの素質なのか、複数の素質の合成なのか、現時点よりも深い使い方があるのか、あるとしてどうやって鍛えるのか、力を使うことでどのような副作用があるのか、どうやったら発現させられるのか……そういったことはろくに分かっていないといってよい。


 分かっているのは、仙力に目覚めていると「霊力」の最大値……「命数」というものが桁違いに大きくなることくらいか。そして霊力を消費することで、仙力は具現化する。


 霊力と、魔術に使う魔力とは別物であるらしいが、どちらも使うほどに疲労し、使いすぎると昏倒するのは同じだ。


 結局のところ、学校で扱い始めたといってもまだ始めただけ。仙力は魔術や武術のような「術」に至っていないのだ。それでもそこに至るためにはまず人を集め、調べねばならない。


 とりあえず、命数がやたら高い者は何らかの仙力を持っている可能性が高い。そこで帝国では、一昨年から中等学校相当、12から14歳になる若者たちの一部や希望者に、この検査を受けさせることにした。


 ウーハンなどはそれによって能力があるのでは、と指摘され、色々試したところ実は自分が転移出来るのだと知ったくちだ。それまでは、よく考えるとあれは転移だった、という経験はあったが気のせいだと思っていたそうだ。


 命数が高くても能力に何ら心当たりのない例もあり、そういう者は経過観察ということになっている。


 なお、仙力は大人になってからある日突然目覚める例もあるようで、この検査では到底調べ切れていないと思われるが、国民全員に対してやるには検査能力と予算が足りていない。


 現皇帝は仙力の研究に前向きだが、これとて皇帝の気が変わったり、代替わりしたらどうなるか、わかったものではない。自分らに有利な風が吹いているうちに、自分の能力を把握し、栄達しておきたいのが仙力使いたちの本音だ。


 ……なにせ、こうした異能の持ち主は地域によっては呪われた忌み子として迫害されたり、下手をすると殺される例もあるのだから。


 そしてそうした異能者たちが、帝国の敵に加わっている例もある。西方の『仙人』たちなどは、帝国内地域出身者も多いらしい。事態は色々と複雑なのだった。

リェンファ・リィウ = 劉 蓮花

一輪目のヒロイン


12/25 表現微修正

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