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第39話 原霊の願い

 レダに聞くと、案の定の答えが返ってきた。


「ロイのはやっぱり再現できないままなんだ」

「ほんとにー? 英雄になりたくないだけじゃないよな?」 

「元々、金剛や賦活に、霊眼みたいな、使い手の体だけに効果があるような仙力はなんでか再現できてなかっただろう? 魔術なら自己強化も真似れるんだけど」

「だが、俺の【転移】は再現できるよな、お前」

「そうだねえ……」


 レダの仙力【再現】は本人にもよくわからない条件が多数ある。真似できるものと出来ないものがあるし、規模、時間の制限があり、霊力消費なども一定でない厄介な力だ。霊輪が広がったことの効果もまだ余り分からないらしい。

 そこでロイは思いついていた仮説を言ってみた。


「多分ウーハン。お前の能力は本質が俺やエイドルフのと違うってことなんだろうよ」

「どういうことだ?」

「俺らのは自分だけを強化する力だけど、強化魔術は専門家なら他人向けにも使えるだろ」

「俺のもそうだって? しかし、現状、自分と手持ち装備くらいしか一緒には飛ばせんぞ。霊力操作できるようになってからも、飛べる距離が伸びた程度しか変わってない」

「あの教官が言ってたが、仙力は、見かけの能力と、本質が違うやつがあるって」

「お前が殴る能力じゃなくて殴られて伸びる能力だったみたいに?」

「……それはおいといて、たぶんお前のは本当は自分だけを移動させる能力じゃないんだよ。それが何かを自覚するか、もしくは仙術を修行していったら使えるようになるんじゃね?」


──────────────────


「……それでこっちに来られても困るんだがな」


 臨時教官(リュース)はぼやきつつ答えた。


「……個別の能力の詳細については余り言うつもりはない。今回の講義の範囲外だし、全く同じ仙力というのは、魂が全く同じ(・・・・・・)でない限り有り得ないことだ。そしてそんな霊的に双子みたいな人間はほぼ(・・)いないわけで、仙力には何かしらそいつだけにしかない属人的要素がつきまとう。だから過去の事例がこうだった、というのは参考にしかならんし、修行中のやつに予断を持たせるのもよくない」

「参考でいいんで、何かないっすか」

「まず自分の能力を使ったときに発生している事象をよく観察することだ」

「発生している事象……」

「転移という現象が起こっているとすれば、それはどう発生している?」

「あそこに移動したい、と目的地を念じたら、そこに瞬間移動してますね、壁とか障害物とか関係なく」

「その関係ない、というところをもっと詳しく考えてみるんだな」

「障害物が関係ないことを?」


 そうだな、といいつつ教官は続けた。


「……仙力というのは、もともとは原霊(プネウマ)の願いから生まれたと言われている」

「原霊?」

「仮説上の存在だ。霊気研究を突き詰めていくと、そういう存在がこの宇宙開闢(かいびゃく)から間もない頃には在ったはずであり、それが宇宙全体に広がって霊的基盤となっている、という代物。これはグレオ聖教の唯一神とか、東方神話のジョカとか、そういう天地創造の神や神仙とかの人格持つ神とは別の、もっと学術的な話だ。汎神論とも違う」

「意味がわかりません」

「とりあえず大昔、人知を越えた何かが在ったと思え。そいつは無数の命、魂、願いを内包していた」

「願い?」

「守りたい。生きたい。殺したい。死にたい。怒りたい。食べたい。奪いたい。怠けたい。威張りたい。……まあ、そういう様々な願いだ。その願いの組み合わせが魂の鋳型を形作り、仙力はそれに霊気を流すことで、原初の願いを実現するために発動する、という仮説がある」

「鋳型? 魂とかいうものに形ってあるんですか?」

「形はない。あるのは流れだ。人間の認識は時空の三次元断面に過ぎず、万物は流れ動くもの。色は空であり無常であって流転する。霊気や魂もまた高次元の座からすると流れとして認識されるが、流れ方に個性がある。中身自体でなくその流れ方が魂として認識される物の本質であり、揺らぐ樹木の枝葉の如きこの有様を便宜上魂の鋳型とか魂魄樹と呼ぶ」

「はあ?」


 何を言っているのかよくわからない。


「だが砂漠にある溝が、空の上から見れば巨大な絵であっても地をゆく者には分からぬように、人間のままでは次元の違いにより理解できない範囲が……」

「さっきからなんかそれっぽい意味不明なことを言ってけむに巻こうとしてませんか?」

「……つまりは普通は魂や霊気の個性を認識できないということだ。直接認識できないのだから、間接的に試すしかない。まずは、自分の魂は何の願いの断片を宿しているか? ということを突き止める。それらの願いを実現するための力が仙力として顕れる」

「願いを実現するというのは、どういう風に?」

「例えば本質の願いが、守りたいというものなら、守護者としての戦闘力を得る、他人を守る道具を作れる、他人を癒やす、などの様々な実現の方向性があるわけだ。どのように顕れるかは願いの混ざり具合による。例えば、守りたいが主体に、与えたい、が少しだけ混じると自分の生命力を削って他人を回復する仙力が現れたりする」


 ? ……リェンファが少し動揺した感じがあった。


「あるいは、守りたいに少し気持ちよくなりたいが混じると、相手に攻撃された場合に霊気が増えたりする。逆に奪いたいが主体だと自分の攻撃の際に吸収する。何となく分かるだろ」


 ……例え話のはずだが。今、ロイとしてはなんか嫌な単語が混じっていなかっただろうか?


「仙力を磨いていくと、この少し混ざったぶんを個別に使えるようになる場合もある。あるいは逆に、最初自分の力と思っていたものは、この混ざっている部分からの派生に過ぎない場合もある。どちらにしろ、修行すると階梯の高い力が使えるようになっていく事が多い」

「階梯と言いますと?」

「仙力には様々な分類がある。そのうちの一つに階梯というものがあって、これは質の分類だ。階梯が高いほど原霊の根源に近く、他の仙力と矛盾した場合に勝ちやすい。ただ、この質の強さと使い勝手や規模や燃費は余り相関がなく、階梯が高ければ総合的に優秀かというとそうでもなく……」

「すいません、学術的な分類とかはどーでもいいんです。もっと単純にお願いします」

「……最初の質問に対する回答だ。お前たちの仙力も何かの単純な願いの組み合わせに由来している。最初が瞬間移動であれば、主体になっている願いは、動きたい、楽したい、超えたい、などかもな。そうしたものに別のものが混じっているのだろう。それらがどんなものなのかを特定して自覚できれば、仙力の覚醒段階は上がるだろう」


 ロイの場合は他者を守りたいを主体に、何かが混じっている、ということか。……気持ち良くなりたい? 聞かなかったことにしよう。……だがそれだけではないと何となく感じる。他には何だろう。……うーん?


「結局わからんことだらけなんですナ」

「仙力はもともと人間よりもっと魂の質と量に優れた生命……例えば、龍などが使いこなしていた力だ。彼らは直接霊気を認識する感覚を持ち、魂を偏らせる術も知っていたようだ。その感覚がない人間では色々と足りていないのだろうよ」


 龍。何か、引っかかる。龍……龍脈……。


「そも、世界によっては魔術もなく、星の霊気の循環が個の魂に流れにくいところもある。人の祖先はそんな世界から来たと言われている。そのため人間は種としてまだ魔術や霊気の取り扱いに馴染んでいない。その点では南の大陸の竜人らにも劣る」


 ニンフィアが少し、そうだったの? と言うような顔をした。


「特定のためには、こうだ、と片っ端から決めつけつつ能力を使ったりで……」

「そのやり方では試してうまくいかなかった場合、原因を誤解して却って遅れることもある」

「ではどうすれば?」

「その辺が誰もに適用できるほど分かっていれば仙力使いはもっと一般的になっている。うちの国にはある程度それを分析できる奴はいるが、それも仙力によるもの、つまり真似ができん。正直、今回教えている仙術……霊気操作とその延長上のもの以外は、現時点では他人に教えられる性質のものはないと思え。自分で見いだせ」

「……むう」

「あとは稀に。人によっては、自分の魂に合わない仙力を使える場合もないではない。極めて希少だがな」


 ……ちらりと。ニンフィアのほうを見たのが少し気になった。ニンフィアは以前に教官に何か言われたようなのだが、ロイにはまだ教えてもらっていない。いずれ話してくれればいいのだけど。


 そうして、各自が自分たちの本質を突き止めようとしているときに、事件は起こった。

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