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第38話 お前も英雄にならないか?

 特別講座の1カ月が過ぎようとしていた。


 参加していた者は、だいたい霊気について、最低限の知覚や操作ができるようになっていた。ロイもそれなりにはできるようになった。


 だが満足には程遠い。霊気を動かすにはある程度意識的な操作が必要だが、戦闘となると反射的に動くように訓練されてきた手足に意識が追いつかない。


 それを臨時教官(リュース)に言うと、「そのうちできるようになるが、早く会得したいなら、決めうちか、多少無駄になることを承知のうえで垂れ流せ」という旨の助言を貰った。


 最初からこう動くと考えた通りに動けばある程度追随する。突発的な反射行動に間に合わないのは許容するか、あるいは力を無駄使いすることになるが常時使い続けるか。


 この辺は慣れるまで場合に合わせてやっていくことになりそうだ……。

 

 なお客観的にはロイの場合、それなりどころでなく仙術の習得が進んでいる。単に元々の身体の動きが速すぎて、それに感覚が合っていないだけだ。霊操単独では覚醒が一番遅かったにも関わらず既に生徒たちでは一番使えている。


 霊力を操作する霊操、霊力を攻撃に込める霊撃、霊撃から身を守る霊鎧、他人の霊気を感じ取る霊覚、このあたりが特別講座で教えられた基礎になる。


 ここからそれぞれを磨くことで、霊撃をさらに霊刃、霊槍などに派生させ攻撃力や貫通力、射程などを上げられる。触った相手の霊気を乱して集中を阻害したり、直接作用してくる仙力を効きにくくしたりもできるそうだ。


 また、霊操を磨くことで自己治癒力向上や、他人の怪我や病気治癒を早めることなどもできるのだとか。というかむしろ、そうした使い道のほうが平時は有用だろう。治癒魔術よりも効果は低めなものの、魔術では治りにくい病に効く場合があるらしい。


 朝練の場での雑談によれば将軍らはこの『気功治癒術(仮)』を、帝立学院の仙霊科の者に習得させようと皇帝に具申しているらしいが色々難航しているとか。文部省も学院も、保守的で面倒くさい組織(注:将軍視点)だそうで……。


 仙霊科を作っただけでも異例づくめで苦労しているのに中身にまで軍が口出しするな、などの文句から始まり、しかし技術は惜しいらしく、場合によってはやってやらんでもないと勿体ぶりながら予算と人員と官位を要求したりなど暗闘が始まっているようだ。そんな事を一生徒に愚痴られても困る。


 霊気の隠蔽術である霊絶はまだ誰もできていない。ただそれは、あの仙人たちもできていなかったように、かなり高度なほうの技術になるらしい。やり方を知っていてなお、普通は習得に年単位の時間がかかるものだと。


 それでも考え方については教えてもらえた。今ロイたちが霊気として認識しているのは、霊気そのものでないのだという。


「そこの彼女の目は別として、通常は霊気そのものを感じとるのは人間では困難だ。君たちが感じとれるようになったのは、霊気そのものではない。霊気の動きや痕跡だ」

「なぜ困難なのでしょうか?」

「常にその中に浸かっているからだ」

「……浸かっている?」

「敢えて例えるなら空気が近い。空気はそこにあるだけでは、あるかどうか見えんし分からん。実際には重い大気圧に人間は常にさらされているが、それを普通は認識できない。霊気も同様で巨大な……」

「タイキアツ?」

「……すまんな、この国にはまだ無い概念だったかもしれん。とりあえず空気はそのままでは分からんが、息を吸ったり手足を動かすなどで、動き、流れがあれば、それを風や抵抗として認識できるだろう?」

「動けばそこにあることはわかりますね」

「生物において霊気とは、血の流れにも似て、生きている限り常に動いている。その動きを認識するのが霊覚であり、動きを意図的に変えるのが仙術だ。一方、非生物に宿る霊気はほぼ動きがなく、人間には感じとれず扱えないものと考えたほうがいい」

「何か含みのある言い方ですね」

「稀にそれを可能にする仙力もあるが稀少だ。もちろんこの場にそういう力の者はいない」


 ……ふと金色の流れを纏った青い巨大な球がロイの脳裏をよぎった。なんだっけ……思い出せん。だが、巨視的にみれば、それら非生物の霊気も動いているのではないか、と思った。人間の量や時間の感覚では捉えられないだけで。


「だから霊気を抑えるというのは、流れを抑えることだ。しかし本当に流れを抑えると使いにくくなってしまう。そこで」

「表面の薄皮一枚ぶんだけ、抑えるんですか?」

「そういうやり方もある」

「他には?」

「止まっているように見せかけるのも手だ。一例をやって見せよう」


 そしてそれをやっているというので感じとろうとしたが、遠くからだと常人並みに弱い霊気にしか思えない……。近づいて、よーく集中すると、それなりに霊気があるのが分かってきた。


 小さい渦が無数にあるような感じになっているような……。極小の点でほぼその場で回しているから、それぞれの回転速度が速くても、遠目にはゆっくりに感じられる。結果的に感じ取れる霊気が少なくなる、と。

 

「これについては、正解は一つじゃないから、色々試してみることだ」


 これら、応用についてはいくつかについて存在と手本だけは見せてくれたが、詳しい修行のやり方は教えてもらえなかった。


「今回俺へ指示された内容は基礎の所までだ。将来的には知らん。個人的には、うちの国とは別の発展を模索してもらいたいね。その方が多様性を高める」


 将来的な発展どうこうより、今そこに来ている危機への対処が大事だと思うが……どっちにしろ、応用に辿り着くのに年単位の修行が必要なら、今やる意味は薄いか。


 とりあえず基礎とはいえ、霊気を意識的に操れるようになったことで、各人が持っていた属人的な能力のほうも、それぞれ少し向上する例が見られた。


 例えばエイドルフの賦活は回復速度を少し操作できるようになり、さらに回復だけでなく金剛に似た身体能力増強の効果も出てきたようだ。ただどちらかというと筋力よりも耐久性の向上で、ロイよりも防御よりらしい。


 ロイの場合は……一人だけだと、霊撃は吸収に至らないが、無効化の部分はさらに効かなくなっているようだ。勝手に霊鎧が意識せずとも発動している感じ。身体能力向上度合いも少し増えた。


 そして物理的打撃を食らった場合でも、霊力が少しだけ上がるようになった。こちらは無効化でなく普通に痛い。だが。痛いけど。霊力が上がるせいか、精神的には高揚する……。


 ……つまり。

 殴られると気持ち良いのだ。


 (……いやじゃあああああああ! 俺は被虐趣味じゃないっつーの!)


 内心絶叫するも、どうしようもない。


 ……また、魔術のほうもその状況だと発動が少し楽になり強めのものが使えるようだ。これが誰かを守る状況なら、もっとそれぞれ効率が上がり、無効化が吸収になったり、攻撃倍返しなども可能になりそう…………なわけだが。


 そのために一番効率いいのは、やはり最初に味方に殴られることだった。


 (こっちもいやじゃあああああああ!)


 まず数人に殴ってもらう。するとすぐに限界が跳ね上がり、すぐに霊撃吸収や倍返し状態になれるようだ。霊撃の発動速度も上がり、身体との違和感も少なくなる。


 今のところ近接戦闘員としては、その状態のロイが今回の受講生の中で一番強いようだ。将軍すらも上回っている。まあ、将軍は手合わせの場ではまだ何か隠している気配があるけれど。


 能力が励起している間なら、ひとりであの火岩竜を倒せそうな気はする。それはいい。それ以上の能力開発は今後の課題として、だ。


 とりあえず、殴られずにそうなれる方法急募。


「どうにかならんのかな、これ。マジ頼む」

「いいじゃない? 強くなれるんだし」

「違う、こうじゃない」


 無論殴られずに限界突破できないかも、試しはした。……現状では遅すぎて使い物にならなかった。悲しい。


 なぜだ。神はいないのか。いやなんか一瞬どこかで会ったような……きっと気のせいだ、そうだとしてロイが会えるようなものなど、神の前に邪とか魔とかがつく連中の仲間に違いな……。


(天誅!)

「……いたっ!? ……??」

「どうした?」

「いや……なんか急に頭が殴られたような……」

「仙力の実験で殴られ続けてついにおかしくなったか、哀れな」

「被虐趣味に目覚めたと専らの評判だからナ、ついに夢の中でも殴られるのを求めるように……」

「好きで殴られてるんじゃねえよ!」

「ロイの強化が皆を守る事に繋がるんだ、英雄的行動と言えるよたぶん、きっと、もしかしたら」

「お前も英雄にならないか?」


 以前ならレダの仙力はロイの力を再現できなかった。だが、今ならどうなのだろう?

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