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第20話 何故こんな所に呼ばれたのか分からない

 烈星士官学校の会議用に作られた部屋の一つ。そこに設けられた巨大な長机の周りに、先日行方不明になったシーチェイを除く仙霊科の者たちが集められて、座らされていた。


 リェンファ以外の乙科や、一期生の先輩方もいる。そして何故か一番お偉方の前に近いところにロイ。次いでリェンファにニンフィアの順。


 まあ自分たちが座らされているだけならまだいい。問題はその向こうに座っているお偉方だ。何故このような事態になっているのか? ある程度は分かりつつも、ロイは自問する。


 まず学校長に呼び出された。ここまではまだ分からなくもない。シーチェイの件もあるし、改めて事情聴取というのもあるかもしれない。シーチェイについてはロイとしては、「あそこにいったのはお前の提案だったが、何か知っているか?」と問うたら突如仙力を使って逃げだした、という風に話している。それを上の人らがどう判断したのかは分からない。


 烈星士官学校の学校長、クァンティン・ウォン……50前の見るからに横方向に貫禄のあるおっさ……いや男性。先代の皇帝の従兄にあたる人物で、群王爵(他国の公爵相当)で傲慢さが外見にも溢れている貴族様だ。とりあえずその直角の口ヒゲはダサいと思う。


 ロイなどは、入学式に一瞬だけ見ただけのお偉いさんの極みで、そもそも普段学校にいない名ばかりの学校長である。平民かつまだ学生で、何も勲功を挙げたわけでないロイが目の当たりにするような人物ではない。


 問題はその校長の隣にいる人物たちだ。左側は、皇帝の右腕ともいわれる星衛尉部(他国の近衛騎士団に相当)の長、そして畿内方面軍における七剣星が一人、天璣星フーシェン・グァオ・オースティン将軍。現皇帝の従兄にあたり、皇族関係者では最強との誉れ高い魔導騎士。しかも皇族では唯一仙力持ちであるとも言われている。どんな仙力なのかは不明だが、ロイとしてはお偉方の中では一番興味をそそられる人物だ。当面の目標であると言ってもいい。


 そしてその右側。どうして本人がこんなところに来ているのか? 殺人的に多忙なはずでは? 影武者ではないのか? しかしその右隣にいるのはレダの姉であるところのルーティエ妃であるからして……本物なのであろう。グァオ将軍もいるし……。


 先ほどここに通される過程で、参加者は彼女らには面接された。ルーティエ妃は本人が優れた魔術師であるだけでなく、魔術を破却する魔眼の持ち主だ。そのため彼女の前では魔術的手段による思考の隠蔽や、凶器の持ち込みができない。魔眼による魔術破却直後に読心と探査の魔導具による尋問、走査を行うことにより、危険人物はほぼ排除できる。


 シーチェイの件もあったし、その辺は致し方ないのだろう。それでも、例えばニンフィアの力を止められるのかと言われればできない可能性もあるのだが……どういうつもりなのだろうか。


 なお余談だが、学校側から参加したある教官が知らずに魔眼の餌食になり……フサフサでなかったことが発覚する悲劇が発生したそうだ。魔術の衰えたこの御時世にも関わらず、被り物による違和感を苦労して誤魔化していたらしい。合掌。


 しかし、妃のロイへの質問がやたらニンフィアやリェンファに関することに偏っていて……(なぜ知っている……レダか?)「あらあら、まあまあ」と面白がっているようにしか見えなかったのは何だったのか。いや理由は分かっている、分かっているが、他人に冷やかされるのは面白くない。


 ロイにとってはニンフィアは可憐な少女にしか見えないのだが、他の同期らはどうしても彼女に対して気後れのようなものがあるようだ。それは、彼女の強大な仙力に由来しているのだろうと今のロイなら分かる。


 なんとなく、見えない圧力のようなものがあるのだ。仙力使いは自覚できずとも無意識にそれを感じとってしまうらしい。しかし、それと分かってもロイにとってはむしろそのほうが心地いいのだ。何故なのかはよく分からない……一目惚れしたから? うーん。


 これがあの禍津国の男が言っていた霊気を感じるということなのだろうが、感じるほうは少し分かったとして、隠すほうはさっぱりわからない。霊気が目で見えるリェンファが言うには、ロイの霊気もかなり強くなっているらしい。隠すどころか逆方向にいっているようだ。どうすればいいのだ……。


 つらつらと考えているうちに時間がきてしまったようだ。学校長の演説が始まっていた。


「さて、この度貴様等が陛下の御前に集う機会をいただけたはひとえに陛下のご厚情で……」

「そもそも貴様等はこの伝統ある烈星士官学校において……」

「翻って、昨今の我が国の状況を鑑みるに……」

「いやしくも士官学校生徒ならば……」

「傲慢なる仙人どもに……」

「帝国の威信……」


 ……ウザい、ウザすぎる。結局はこの間、禍津国の男に渡された物体が関係しているらしいのだから、さっさとそっちの話に移ってほしい。アレを皇帝が手のひらで弄んでるんだし。そうして延々と学校長の演説が続いたのだが、流石に皆にうんざりした空気が漂い始めたころ、皇帝本人が途中で遮り……(面倒になった?) その辺を説明し始めた。


「……実はな。このたびは仙霊科にて学ぶそなたたちに見せたいものがあり、こちらに赴いたのだ。それがこれだ。これは通神珠と呼ばれているものでな。禍津国の者が仙力によって作ったもので、魔術によらず遠隔での対面会話を可能にするという」

「「……!……」」


 皇帝陛下が語る場で勝手に声を出すわけにはいかないが、生徒の皆にざわつく気配が走る。仙力による道具というのは非常に珍しい。少なくとも帝国には無いものだ。


 ましてそれが、話には聞く遥か西の彼方、大陸の反対側にある禍津国の産物となれば、生徒たちにとっては見たこともないものの二乗である。さらにそんな遠隔地からの通信となると、今や魔術でも出来る者はいないうえに、対面会話とはどういうことか。


 なお仙力絡みの道具は、クンルンには宝貝(バオベイ)という各仙人のための専用の道具があり、帝国との戦いにて向こうが使っている。ロイはまだ見たことがない。この間の仙人たちも、それらしいものは使っていなかった。


「我が先祖においては使用された記録もあるのだが、そもそもかの国がこちらと対話せんとすることは極めて稀なこと。朕も実物を見るのは初めてである。通常の外交筋でないところからもたらされたゆえ色々調べたが、どうも本物のようでな。しかも魔術による強力な封印を施してある。そのようなものを密かに送ってくるとは、何か相応の意図があるに違いあるまい」


 むしろ、そんなものを生徒を呼び出して見せつける皇帝の意図のほうが分から……まさか、この場で?


「……さて、おそらくであるが、先方は仙力に関わる話をするものと見られる。そして……」


 皇帝はいかにも腹黒そうな笑みを浮かべて言った。


「仙力のこととなれば、下手な魔導師よりもそなたたちのほうがまだ分かることもあろう。そして古文書によれば、強い仙力に触れることで仙力に目覚める、あるいは元々もっている仙力が強まる、という事例が過去にあるそうでな……折角なので、そなたたちも立ち会うべきであろうと思い至ったのだ」


 ロイとしてはそんな話は聞いたことがない。強いていえば、仙力持ちは仙力持ちを呼ぶ……という話ならあったかもしれないが。


「これの表面には魔術封印を解けば、先方と通信が繋がる旨が書かれておる。今の我が妃が、魔術を破却する魔眼を持つがゆえに、そのような手段を取ったようだ。なかなかに小賢しい。……それでは一つ、見てやるとしよう」


 そうして、皇帝は机の真ん中近くに白い玉を転がし、妃に命じた。


「では頼む」

「はい」


 ルーティエ妃が目を見開いて、魔眼の力を解放する。金色の瞳が虹を帯びて……白い玉の表面にあった文字や紋章が消えた。そして、玉に縦に何本かの筋が入り、内部から光が漏れ始め……蓮の花弁のように、開き始めた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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